2014年9月30日火曜日

『PSYCHO-PASS ASYLUM 1』/吉上亮



アニメ『PSYCHO-PASS』のスピンオフ小説第1集。

槇島さんの懐刀(?)として主にハッキングを担当していたらしいチェ・グソンのお話と、そのチェ・グソンと一緒に最期を迎えることになった執行官、縢くんのお話。

初出はSFマガジン、グソンの話は2か月掲載、縢くんの話は1か月分ということでグソンの話の方が長いです。

グソンは「外」からシビュラシステムに管理されている日本に来た人で、この作品世界で「日本の外」がどうなっているのか、特に隣国がどうなってるのか、というのがわかって、そこは面白かった。「シビュラシステム」が神なのか悪魔なのか、簡単には割り切れないけど、たとえ悪魔の産物であっても秩序があるだけマシ、殺し合いのサバイバルになってないだけマシなんだなぁ、と……。

アニメ本編で、監視官の朱ちゃんがシビュラシステムの正体を呑み込んだように。

「それでも、秩序は必要だ」ということ。

そういう「外の世界との対比」という部分では面白かったけど、グソンの過去自体はあまりにエグすぎて、拷問描写とかちょっと読み進むのがつらかったです。なんか、もともとホラーとか血なまぐさいのとか得意じゃないけど、最近は特にエグいのやグロいのは勘弁という感じ。

世界はそんなにも美しくないかもしれないけど、だからこそフィクションでまで醜い世界を読みたくないというか。

人生であと何冊読めるかわからないんだから、わざわざ「読んで気持ち悪くなる」ようなものを読まなくてもいい。

まぁ、アニメ『PSYCHO-PASS』は再放送がカットされちゃうくらい猟奇的な描写もあって、そのスピンオフなんだから最初から覚悟しておけよ、という話ではあります。

ただ、槇島さんを手伝う「スーパーハッカー」に、ホントにここまでの「悲惨な過去」が必要なのかなぁ、とも思って。人生や社会に絶望しなくても、悪意や憎悪で色相を濁らせなくても、人を殺せる人間はいるし、社会を壊せる人間はいる。それが「槇島さん」なわけで、槇島さんほどじゃなくても、もっと軽い気持ちや好奇心でもいいんじゃないかと……。

槇島さんも、実のところ「悪意がない」んじゃなくて単にスキャンには引っかからない、というだけなのかもしれないんだけど。

色相の悪化とか犯罪係数とか、あくまで外から測ってるもので、「免罪体質」の人間が“負の感情”をまったく持たないのかどうか、そこのところはわからない。

グソンが槇島さんに「ついていく」と決めた時、グソンは「この男も俺と同じ普通の人間だ」と思うのですよね。「孤独になりたくなかったのに、孤独にしかなれなかった普通の人間」だと。

何を考え、どんな“悪い感情”を抱いてもサイマティックスキャンに引っかかることのない槇島さん。それはつまり、シビュラから――社会から――無視されていると同じこと。

関わりたくても関われない世界。

僕を無視する世界なんて意味がない、だからこの手で壊してやる、ってなったのなら確かに「普通」。

槇島さんにはもっとこう、「単純に面白いから」やってるだけみたいな、常人にはその動機も感情もまるで理解できない、本当に「狂ってる」感じであってほしいと思うんですが。



とにかくグソンというよりその妹ちゃんの人生があまりに悲惨すぎてつらかった。

何も彼女にそこまでの仕打ちをしなくても、グソンという人間を描くための生け贄にしなくても、と思ってしまいました。


一方縢くんの話の方は。

楽しく読めました。

アニメ本編で縢くんがあんな死に方をしたの、すごくショックだったんですよね。「えーっ、縢くんここで終わりなの!?」って。

いや、あの回までは、特に好きなキャラというわけでもなかったんだけど。そんなに突っこんで描かれてたわけじゃないし。

でもあの回で、「やってらんねぇよ」って言いながらも笑って殉職する縢くんはすごくインパクト強くて、突如ファンになってしまいました(笑)。

死に様って大事だね。

アニメ本編でもちらっと描かれていた縢くんの「料理」。なんで縢くんはあんなに料理が上手になったのか、そのわけがこのスピンオフで明かされます。

これもまた、『PSYCHO-PASS』の世界で「食」がどうなってるか、という設定を描く話でもあって、色々「なるほどなー」と思わされました。

アニメの最後で槇島さんが「ハイパーオーツ」の工場に入り込んで、シビュラシステムを支える大きな柱である「食糧の完全自給」を打ち壊そうとしていました。

この作品世界で日本は鎖国状態、シビュラシステムによる色相管理で「閉じた楽園」になっているわけですが、鎖国が実現できるのは「食糧の自給」ができるようになったればこそ。

ハイパーオーツって「麦」なので、なんで麦だけで「完全自給」ができるのか、いくらその麦を色々加工して様々な料理に仕立て上げると言っても、タンパク質やミネラルは不足するんじゃないの???

ちょっとググってみたところタンパク質もミネラルも量は多くないものの含んでいることは含んでいるそうなので、大量に生産できれば麦だけで国民の栄養をすべて賄えるのでしょうか。

ともあれ設定上、ハイパーオーツを利用した加工食品が「食糧」の大半を占め、「天然食材」は非常にレアなものになっている。「危険な食べ物」とまで思われています。まぁ、腐るし、フグや毒キノコみたいに知識のないものが扱えば命にかかわるものもある。でもそういう直接的な「危険」だけでなく、天然食材には「色相を濁らせる危険」もあるらしい。

えええええ!

まぁねぇ、「食べ物の奪い合い」というのが、もっとも根本的な争いのもとだとは思うけれども。

でも「天然食材食べると色相が濁るぞ~」っていうのは、食糧流通をコントロール下に置きたい当局の「戦略的な嘘」としか思えない。

争いのない平和な世界を築く上で、「食糧が十分にあること」は必須の条件で、天候その他に左右される「天然食材」に依存していては、人類は永遠に争いをやめられない……のかもしれない。

でもなー。

ハイパーオーツを加工した「人工食材」のカートリッジを入れて3Dプリンターでそれっぽい料理に出力、なんて食事はなー。

『PSYCHO-PASS』の世界では、「人間が自分で料理をする」ということも廃れつつある。

毎日の献立に悩み、「ご飯作るのめんどくさーい!」と毎日思っている身としては、「作らないのがデフォルト」な世界は理想郷であるはずなんだけど、その理想はあくまでも「誰か他の人が料理してくれる」であって、「機械が加工してくれる」じゃないんだよなぁ。

慣れてしまえば何とも思わなくなるのだろうし、今だってスーパーのお総菜やチンするだけの冷凍食品なんかは「機械が加工した料理」に近いのだけど。

でもなー。

「食べる」ということ、「人の手で料理する」ということ、国家による食糧コントロールの是非、自給率……などなど考えさせられるお話でした。

縢くんがまだ元気に活躍しているのも嬉しい。

5歳で潜在犯認定され、隔離施設に入れられた縢くん。少なくとも10年以上施設で暮らしていた彼が、あんなお茶目な人格を保っているというのはちょっと無理がある気がしなくもないけど。

それだけの精神的な強さを持っていたから、シビュラは彼を「潜在犯」と認定したのかなぁ。

「料理」を通じて、「執行官」という仕事を通じて、彼が「自らの人生」を肯定できていたことは救いで、でも、だからこそ、あの最期がせつない……。

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