Kindle版原著


はい、シリーズ5作目です。(他の巻についての感想は記事末の【関連記事】をご覧下さい。)


2作目と4作目が夏休みのお話で、図書館になくて読めていない3作目も4作目の直前のお話でつまり夏休み。果たして2作目と3&4作目の間には1年経っているのか、「ずーっと同じ夏休み」なのか、どうなんだろうと思っていたのですが。

またしても。

夏休みです。

4作目はもう8月の20日を過ぎて、夏休みも残りわずかでしたから、さすがにこの5作目は翌年の夏ではないかと思います。

夏の間シルヴァー湖のほとりに別荘を借りて過ごそうというのですから、4作目の続きの「夏の最後の1週間」の話ではないでしょう。

別荘を借りて避暑だなんてすごいなぁ、羨ましい!と思うのですが、アニーおばさんは単に夏の暑さがしのぎたかったわけではなく、

「わたしが避暑をするのは、今年の夏はずっとあなたのそばで、あなたを監督したいからですよ。あなたが、もうこれ以上何かの事件にまきこまれないように監督したいからですよ」 (P30)

という理由。

ははは。ですよねぇ。もう4回もジュナは事件に巻き込まれて危ない目に遭っていて、少なくとも3回目と4回目は立て続けに事件に巻き込まれてる。でも2回目の事件(『金色の鷲の秘密』)の時は、他ならぬアニーおばさんが「友だちのパティおばさんが何か悩み事を抱えているようだから、行ってそれとなく調べてきなさい」とジュナを送りだしたんですよ。

「あなたみたいな子どもが本物の探偵だとは誰も気づかないから」なんて言って。

まぁ、もちろんその時はおばさんも、パティおばさんの悩みが危険を引き寄せる類のものとは思ってなかったんでしょうけれども。

おばさんに「もうこれ以上事件にまきこまれないように」と言われたジュナ、

「いやだな、アニーおばさん」「ぼくは一度だって事件を求めて歩いたことはありません」 (P30)

と答えるのですが、おばさんに

「でも事件のほうからちゃんとあなたをみつけるのですからね」 (P30)

と追い打ちをかけられてしまいます(笑)。

そしてもちろんアニーおばさんの言う通り、避暑に行こうとどうしようと、事件はちゃんとジュナを見つけて巻き込みます。というか今回はアニーおばさん自身も巻き込まれ、行方不明に!

アニーおばさんを助け出すためにまたしてもジュナは危険を冒すことになるので……完全に裏目というか火に油というか、アニーおばさんの責任重いですよ、今回。

むしろエデンボロにいた方が良かったという。

でも湖のほとりで過ごす夏休みは、ジュナと、一緒に行ったトミーにとって大変楽しいものでした。(7作目『黄色い猫の秘密』ではフロリダへ引っ越してしまっていたトミー、まだエデンボロにいてジュナとは大の仲良しです)

エデンボロのロスト池でも時折釣りを楽しんでいたジュナとトミー。二人がシルヴァー湖へ向かうと聞いて、エデンボロの雑貨屋ピンドラーさんが釣り道具をプレゼントしてくれます。

「坊やたちがシルヴァー湖でおおいにつりをすると聞いたので、本当のつり道具を持たせてあげたいと思ってね」 (P36)

なんていい人なんだ、ピンドラーさん。信じがたい。

でもその「釣り道具セット」の中に「釣り竿」は入っていないのです。リールや釣り針、釣り糸、釣り用のナイフなど「竿」以外のものはほとんど入っていたんだけれども、肝心の竿は湖に着いてから、自分達で買わなきゃいけなかった。

そしてそこでもジュナ達は、「親切な大人」に助けられるのですね。

シルヴァー湖をボートで回って別荘の住人に食糧その他を運んで回るベン船長という人が、釣り竿選びを手伝ってくれて、かつ「足りない分」を払ってくれるんです。

そしてそれをベン船長は二人に知らせない。「これは確かな品ですよ。一人三ドルずつです。わしが払ってきてあげましょう」と二人には言っておいて、足りない分をこっそり自分で払うんです。

本当は1本7ドル半もする釣り竿だったのですが、(そしてベン船長はそこからしっかり値切ってはいるのですが)ジュナとトミーはそんなこと知らずに「自分で買った釣り竿」でおおいに釣りを楽しむのです。

ピンドラーさんといいベン船長といい、なんて素敵な大人達なんでしょう。ピンドラーさんはまだしも、ベン船長なんてまだ二人と知り合ったばかりなんですよ。よく知らない子ども達のために、さりげなく自腹を切っちゃうなんて。

「坊やたちはつりざおに七ドル半払う余裕はありません。しかし坊やたちだって、万人と同じく、つりをする権利はあるのですからな」 (P63)

4作目に出て来たシザーズさんと同じく、まさに「地の塩」、「こんな大人に私はなりたい」という人。

ジュナ達は他の別荘の子どもに「日光反射信号機」を貸してもらって、モールス信号を送る練習をしたりもします。もちろんこの「信号機」は事件解決の際に活躍しますし、信号を打つために練習したすべてのアルファベットが出てくる文

「The quick brown fox jumps over the lazy dog」

という言葉も、謎を解く手がかりになります。

「茶色い狐」という作品タイトルはこの文から来ていますし、エデンボロで見かけた狐狩りの様子も、ジュナの推理の助けになるのです。

ほんと、ジュナって子は観察力が鋭くて、記憶力も良くて、他の人間なら見過ごしてしまうことをしっかり頭に刻んで、その知識を見事に活用するのですよね。

誰にも知らせず一人で行動しちゃうところは「命がいくつあっても足りないよ」なんですけど、それでピンチに陥っても機転を利かせて脱してしまうところがまた。

末恐ろしい(笑)。

5作目ともなると「新聞に出た坊や」としてけっこうな有名人。でも自分の推理をひけらかしたりはせず、逆に

「きみは今まで話したいろいろなことを一言もぼくにもらさなかったな」 (P254)

とトミーになじられたりしています。

「どれも確かでなかったからね!(中略)ほかはどれも推測にすぎなかった」 (P254)

いやはや、見事にエラリーです。エラリーほど偉そうじゃないけど(笑)。

そうそう、4作目で「アニーおばさんはけっこう年なのかな?」と思ったのですが、今作で「62歳」ということがわかります。12~13歳ぐらいのジュナにしてみれば、やはり「おばあさん」に近い年齢ですね。

「アニーおばさんはむちのようにぴしっとしていらっしゃって、髪が白くさえなければ、五十歳を一日だって過ぎているとは見えませんよ」 (P184)

と言われていますが。

最後にはトミーもちゃんと活躍するし、子ども達の楽しみ(釣りやモールス信号といった遊び)と事件が本当にうまく噛み合って、実に見事なジュブナイルミステリになっています。もちろん大人が読んでもとっても楽しい♪



シリーズ8作全部訳者が違う「ジュナの冒険」シリーズ、この5作目は福原麟太郎という方が訳してらっしゃいます。

Wikipediaさんによると著名な英文学者さん。まえがきに相当する「この本の読者へ」の中で「この物語を訳すについては赤嶺弥生夫人にお手伝いをお願いしました」と謝辞が述べられています。

赤嶺さんはクリスティーの本をいくつか訳してらっしゃる方のようですが、福原さんと赤嶺さんの手になる『茶色い狐の秘密』の訳はとても読みやすかったです。すでに6作目(石井桃子さん訳)をだいぶ読んでいるんですが、6作目読みにくくて……。

ともあれ6作目の感想はまた次回。


【関連記事】

『金色の鷲の秘密(ジュナの冒険2)』/エラリー・クイーン

『赤いリスの秘密(ジュナの冒険4)』/エラリー・クイーン

『白い象の秘密(ジュナの冒険6)』/エラリー・クイーン

『黄色い猫の秘密(ジュナの冒険7)』/エラリー・クイーン(村岡花子訳)

『青いにしんの秘密(ジュナの冒険8)』/エラリー・クイーン

Kindleで『黒い犬の秘密』を読んでいます(途中経過)

『幽霊屋敷と消えたオウム』/エラリー・クイーン

『黒い犬と逃げた銀行強盗』/エラリー・クイーン