2015年9月11日金曜日

『黄色い猫の秘密(ジュナの冒険7)』/エラリー・クイーン(村岡花子訳)



『アメリカ銃の秘密』の解説で紹介されていた「クイーン家の万能執事ジューナ」のスピンオフ、「ジュナの冒険」シリーズ。近所の図書館に1冊だけあったので借りてきました!


邦訳全8冊のうちの7作目、翻訳はあの村岡花子さん。

「ハヤカワ文庫Jr」という括りの文庫なんですが……ハヤカワにジュニア向けの文庫レーベルがあったなんて知りませんでした。刊行された期間が短かったのでしょうかね。Wikipediaさんによると創刊は1980年で、1冊目がジュナの冒険の1作目『黒い犬の秘密』だったそうです。

ジュナの冒険シリーズはもっと以前に単行本として刊行されていて、それが1980年に文庫化されたのだとか。

Jr文庫には他にスパイダーマンシリーズなどが入っていたそう。へぇ~~~!って感じですね。

昔、「ハヤカワ文庫Hi」っていうシリーズもあったんですけどね。「小説ハヤカワHi」というジュブナイルというかヤング・アダルトというかSF&FT系ライトノベルみたいなのを中心にしてるっぽい季刊誌があって、そこに掲載された作品がHi文庫に収められていたんですが、雑誌自体もすぐ休刊になってしまったし、ググったら18作品で終わったみたい。

あ、同じ情報元に「Jrレーベル」も11作で終わりって書いてありますね。ジュナの冒険だけで8作あるから、残りはたったの3作!?

ほとんどジュナのためのレーベルみたいなもんですね。

ちなみに8作のラインナップは以下の通り。8巻同時発売だったのでしょうか、図書館にあったのは初版ですが、一番最後のページにこうして全巻の案内が載っていて、「何月発売!」とかになっていないわけですから。



「口絵・挿絵入り」という紹介文の通り、カラー口絵がついています。挿絵も10点ほど。



一体何歳ぐらいの読者を想定していたのでしょうかね。訳者によるまえがきも、都筑道夫さんによる解説も、子どもに話しかける文体になっていますけど、本文は昔の大人用の文庫と遜色ない活字の小ささで200ページ余り。すべての漢字に振り仮名が振ってあるわけでもありません。

まぁ私もこれぐらいの字の大きさでさらに分厚い「少年少女世界文学全集」を小学校の低学年から読んでましたから、読む子はちょっとぐらい難しげでも読むし、読まない子はもっと「子ども向け」に作っていても読まないんでしょうけども。

うん、ちゃんと子どもの時に読みたかったなぁ。『少女探偵ジュディ』やなんかと一緒に。



本編に入る前に、村岡花子さんによる「訳者まえがき」ならぬ「この本の読者へ」という2ページほどの文章がついています。

村岡さんは実はけっこう推理小説好きなこと、でもミステリを訳すのは初めてであること。そしてミステリを訳すのが楽しかったこと、ミステリの面白さは謎解き&ぞっとするようなところがあることだと述べたあと。

こう考えてくると、少年少女でもおとなでも推理小説というものは、こればかりに熱中すべきではないと私は思っています。 (P4)

というお話に。

ん? 推理小説は好きだけど、でも熱中しちゃダメ?

と思うとこれに続く次の文章は

あたまの疲れた時、毎日のきまりきったことがなんとなくつまらなく思われる時など、ミステリを読みはじめると、たちまち、あたまが生き生きとしてきます。 (P4)

あれ? 生き生きするんだったら良くね???

どうも村岡さんは、推理小説というものは適度に読むなら「くすり」になるけど、熱中してはいかん、という考えであるらしい。

えーーーーー、そんな人「ミステリ好き」とは認めないわっ(笑)。

まぁ、やたらに人が殺されるのがミステリなので、子ども達に対しては「面白いからってあんまりこんなのばっかり読んでちゃダメよ」と思っていらしたのでしょうか。「色々な本に触れてほしい」ぐらいの気持ちで……。

単行本の刊行は1957年(昭和32年)ということですから、村岡さん60歳ぐらいの時の翻訳。

「なにをしているんかい?」とかいう台詞に時代を感じます。今なら「なにをしているんだい?」と訳すのが一般的ではないでしょうか。「○○へは両側から行かれる」というところも、「行ける」と言う方が自然なような。可能の意味での「行かれる」は最近はあまり使われない気がします。

「コキナ・ロック」という振り仮名で「介殻岩」と書いてあるのもむずむず。カイガラムシは「介殻虫」と表記されていたりするし、「貝殻」でも「介殻」でもどっちでもいいのかしら。海岸に落ちている貝殻には普通に「貝」の字が使ってあるから、「虫」や「岩」には「介殻」という字を使うというような慣習(?)があったのかしら。

多少古めかしい言い回しがあったり、登場人物の口調がちょっと統一されてないような気もしますが、お話を楽しむ分には問題ありません。(でも136ページの「見なさい!」は「見て!」にした方が良くないのかな。トミー少年の言葉だと思うんだけど、「見なさい!」だと大人達がトミーに言ってるように聞こえる……。)



はい、前置き長いですね。いいかげん本編の話をしましょう。

この物語の主人公ジュナ少年は12歳という設定です(※1作目の紹介に「12歳」と書いてあるんですが、この7作目では時間が経って13歳になっているかも)。後にクイーン家の執事になるジュナ(ジューナ)の方はロマ(ジプシー)の少年で、孤児だったのを警視に拾われたという設定でした。拾われた時は10歳ぐらいだったのでは……と思っていたんですが、そもそも途中で19歳から16歳になっていたりしますし、本当のところ何歳でクイーン家に来たのかはっきりしません。

私の勝手なイメージでは時々掏摸なんかもやっちゃうストリートチルドレンで、ある時警視にとっ捕まって、その身の上やもともとの性格の良さなんかを知った警視が家に連れ帰った……だったのですが、「ジュナの冒険」シリーズのジュナくんは普通に育ちの良さそうな少年です。いきなり7作目を手に取ったので、ジュナくんの「来し方」があまりわかりませんが、アメリカ北部の小さな村エデンボロにアニー・エラリーという名のおばさんと一緒に住んでいます。

邦訳では「おばさん」となっていますが、原著では特に「aunt」とは書かれておらず、血縁関係があるのかないのかは不明だそう。(参考サイトこちら

今作の舞台はエデンボロではなくフロリダのドルフィン海岸。クリスマス休暇を利用して、もとはエデンボロに住んでいた友達トミーの家に愛犬チャンプとともにはるばる遊びに来たのです。

巻末の全巻紹介によると6作目の『白い象の秘密』ではまだトミーとジュナは一緒に行動しているようですから、6作目と7作目の間にトミー家の引っ越しがあったのでしょう。

「トミーは去年ここへ来たばかりなんです。お父さんが土地を相続したので、ここへ来て豆つくりをはじめたんです」 (P19)

とジュナが偶然出会ったおばあさん(プルハム夫人)に説明しています。

このプルハムさんが飼っているのがタイトルになっている「黄色い猫」。この黄色い猫を歯医者に連れて行く役を買って出たところからジュナは「事件」に巻き込まれることになるのですが、実は「黄色い猫」はもう一匹(?)いて――。

謎の歯医者ハマー先生が最近買い取った診療所は銀行の入っているビルの、それも金庫の真上……というところで「ははーん」と思ってしまうわけですが、我等が少年探偵ジュナくんはその他にもいくつかハマー先生の行動に怪しい点を認め、また、船の修理工場で出会った自称漁師のペドロにも疑問を持って、色々嗅ぎ回ってしまいます。

手がかりを探しながら「(自分でもその手がかりが何かは)わからないんだ」と言うところなど、エラリーを彷彿とさせます。

「きみはなにか気がついたことがあっても、なんにも言わないでおいて、次にぼくらがわかることはきみが半殺しになっているということなんだからね!」 (P205)

とトミーに言われています。「なんにも言わない」ところがまたエラリーに(笑)。もっともジュナが何も言わなかったのは確信が持てなかったからで、もしもハマー先生がちょっと風変わりなだけのただの歯医者だったら、名誉毀損で訴えられちゃうかもしれませんものね。

「なんにも言わなかった」がために「半殺し」の目に遭ってしまったジュナ、後から大人達に「どうして話さなかったんだ!」と叱られるんですが、何の証拠もないうちは「子どもがバカな空想を」と思われるのがオチです。ジュナのこれまでの探偵としての仕事ぶりを知っているトミーや新聞記者ソッカーはともかく。

ホントにねぇ、危なかったよ、ジュナ。たまたまソッカーさんがフロリダ出張でトミーの家に連絡してくれたから良かったようなものの、下手したらマジで死んでたよ!

「推理小説にばかり夢中になっちゃいけません」という村岡花子さんのまえがきはもしかして、「良い子はジュナの真似しちゃダメよ!」って意味だったのかも。

「まさかジュナ君がそういうことをぜんぶ考えついたというんじゃなかろうね?」
「いいえ、考えついたんです。ジュナにはほとんどどんなことでも考えつくことができるんですよ」
 (P120)

聡明で行動力があって、でも決して出しゃばりでも生意気でもなく、アマリリスというちょっと困った女の子に会った時には何と言ったらいいかわからなくてもじもじしてしまうジュナ。最初にプルハムさんと出会った時も、一度に色んなことを訊かれて「こんぐらがってしまい、答えが一つも出てこない」状態になったりします。

聡明だけれども、ちゃんと「少年」で、トミーやアマリリスの描き方もとてもいいなぁ、と感じます。

都筑道夫さんの解説では「エラリイ・クイーン・ジュニア名義になってるけどクイーン自身が書いたもの」というふうに紹介されていますが、実際には別人の代作だそうです。もっともプロットや監修はクイーンがちゃんと行っているそうですが(『アメリカ銃の秘密』の解説より)。

見やぶれても、見やぶれずに作者のつくったなぞにだまされても、たのしいのです。いや、見やぶれずに、だまされたときのほうが、くやしいけれど、ずっとたのしい。推理小説は、そういうところが、ふつうの小説とちがいます。 (P217)

という都筑さんの言葉には大いにうなずかされます。そう、まんまとだまされるのが――それぐらいよくできた謎が、面白いのですよねぇ。

この『黄色い猫の秘密』は謎解きというよりまさに「ジュナの冒険」だったけど、ジュナが集める「手がかり」は全部最後にしっかり説明がついて、「クイーンらしさ」の感じられる作品になっています。

「クイーンのジュニアミステリが、本格推理小説であることは、なんどもお話しました」 (P215)

と都筑さんがおっしゃる通り。

絶版なの、もったいないですねぇ。是非学校図書館のミステリの棚に並んでほしいものですが。


英語が得意な方はKindle版原書を読んでみるのもいいかも。


ハヤカワ版は全8巻ですが、Kindleなら9作目の『紫の鳥の秘密』も読めますし、


エラリーの甥っ子が活躍するという別シリーズも読めます。


英語が得意だったらねぇ、良かったんですけど(^^;)



あと。

作品中でトミーのお母さんが作る「モーネイソース」というのがとっても気になりました。

「スイスのグルイエ産のチーズと北イタリアのパーマ産のチーズをまぜたソースで、それにまだたいそう熱いうちにバターを少し入れただけのものなのよ」 (P53)

と説明されています。

要するにチーズとバターのソース!?

Wikipediaの「ベシャメルソース」の項に「フランス料理の基本的なソースのひとつであり、チーズを加えてモルネーソースを作る」と書いてあって、この「モルネー(mornay)ソース」のことのようです。

この翻訳が刊行された昭和32年の子ども達はさぞかし「どんな味なんだろう」と想像力とお腹を刺激されたんじゃないかな~~~。平成27年の大人はめっちゃ刺激されたことをご報告して、この稿を終わります(笑)。

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