ジュナの冒険シリーズ第7作『黄色い猫の秘密』が面白かったのでどうしても他のも読んでみたくなり、県立図書館から取り寄せてみました。

書庫に収蔵されていたシリーズ5作品、かなり年季が入っています。というかかなーりボロボロ。近所の図書館で借りた『黄色い猫』は状態が良く綺麗だったので、ちょっとショックでした。

特にこの2作目『金色の鷲の秘密』は傷みが激しい。


書庫に入る前、児童書の棚にある時に、さぞたくさんの子ども達が手に取ったんでしょうねぇ。末尾につけられた返却期日のスタンプを押す紙には、昭和60年から平成3年までの記録が残っています。

……平成4年にはもう書庫に入れられてしまったのでしょうか。開架スペースには限りがあるとはいえ、もったいないなぁ。

県立図書館には『金色の猫』を含む6冊の「ジュナ」シリーズが所蔵されていました。そう、県立でも全8巻は揃わなかったんですよね。特に肝心の1作目『黒い犬の秘密』がない。あの西脇順三郎が訳した1作目、どこかにないものか……。

(※国立国会図書館のデータベースで検索してみたところ、国立国会図書館の他には北海道立図書館、千葉県立西部図書館等全国12館の図書館にあるもよう。全8巻中6巻所蔵してる滋賀県立、優秀だな)

仕方がないので2作目の『金色の鷲の秘密』から読み始めました。『黄色い猫』の感想で、「8巻同時に刊行されたのか」と書きましたが、同時ではなかったようです。

1作目から4作目までが昭和53年の11月。5作目と6作目が同じ同じ53年の12月に出て、残り2冊は54年の2月刊行。

そしてこの2作目の訳者は内村直也さんという明治42年生まれの「劇作家、翻訳家」の方。Wikipediaさんによると「初期のテレビドラマでも多く作品を発表」した「戦後新劇界の一方の雄」だそうです。

訳者さんによる冒頭の「この本の読者へ」というまえがきは、村岡花子さんのよりも読みやすくて論旨がよくわかりました(笑)。訳者によってジュナの言葉遣いや性格付けに違いが出たりしないのかなと思いましたが、『黄色い猫』とこの『金色の鷲』の2冊を読む限り、「訳者の違い」は気になりませんでした。

で、さて。

エデンボロという村にアニーおばさんと暮らしているジュナ少年、7作目でははるばる一人で遠いフロリダまで出かけていますが、この2作目でもエデンボロにはいません。夏休みを利用してストーニー・ハーバーという港町へ来ています。

「はじめてこの土地にやってきた少年は」という書きだしで、しばらくの間「ジュナ」という名前を出さないのがなかなか心憎い。

同年齢ぐらいの男の子に出会って、その子に名前を訊かれて初めて、少年が「ジュナ」だとわかるのです。1作目を読んでいる読者にはその子がジュナなのはわかっているとはいえ、わくわくさせられるオープニングです。

しかもその、ジュナが出会った男の子ビリーの愛犬アルベルトが面白いんですよね。ジュナはちょうどビリーがアルベルトに芸を仕込んでいるところに遭遇したんですが、実はアルベルトは「空想上の犬」で、実在しないんです。犬が欲しいけれど飼えないビリーが作り出した、

どんな色でもお好みしだいの犬 (P33)

なのでした。

いやー、もう、子ども心くすぐられちゃうよねー。今どきの子どもがどう感じるかはわからないけど、昭和の子どもだったおばさんは思わず頬が緩んでしまいます。

単にジュナとビリーの出会いを演出するだけでなく、この「幻の犬アルベルト」は最後事件解決の際にちゃんと「いい仕事」をするのです。ほんと心憎い。

ジュナがストーニー・ハーバーに来たのは、アニーおばさんの旧友パティおばさんを訪ねるためでした。パティおばさんからの手紙で彼女が何か心配事を抱えていると感じたアニーおばさんが、「一体それが何なのか突き止めていらっしゃい。ただしパティおばさんにしつこく訊くんじゃなくて、おまえが自分で突き止めるのよ」とジュナを送りだしたのです。

って、アニーおばさんそれかなりの無茶ぶりじゃないですか?(笑)

「おまえみたいな子供が本物の探偵だなんて、だれも気がつきっこないからね」 (P12)

というおばさんの台詞からして、ジュナ少年は1作目『黒い犬の秘密』で相当な活躍をしたのでしょう。しかし「本物の探偵」だからっておばさん、フロリダだのストーニー・ハーバーだのに一人でジュナをやっちゃうの、大丈夫なんですか。

まぁ、大丈夫なんだけどね。初めて訪れる場所でもすぐ友達を作って、初めて会うパティおばさんや町の人にも臆せず話をして、必要な情報はちゃんと手に入れちゃう。質問状作って図書館司書さんに色々調べてもらうところとかホントすごい。それでいて生意気という感じではなく「いい子」だからねぇ。どう育てたらこんな子に(笑)。

パティおばさんの周囲で起きる怪しい出来事。おばさんのひいお爺さんやお父さんが書いた古い手紙。キーワードは「ネスト・エッグ」という言葉と「鷲」。

同じ言葉が複数の意味を持つということがうまく使われていて、「謎解き」も面白いですし、「少年達の冒険譚」としてもとても楽しい。

港町で、おばさんは小さな島を二つ持っているのです。エビ獲り籠の回収に同行させてもらうジュナのわくわく、ビリーと二人だけでヨットで海に出る興奮。ジュブナイルミステリとしてほんとよくできてる。

悪党どもの手から逃れるために「貝殻の郵便」を使ったことについて、

「ええ、ぼく切手持ってなかったもんですから」 (P240)

と答えるところなんてもう! 

心憎いなんてもんじゃないです。

解説の都筑道夫さんは

この一さつを読んだみなさんは、ぜひ八さつぜんぶ読んで、りこうな勇敢なこどもになってください。 (P263)

とおっしゃっています。いやー、なかなかジュナみたいな子どもにはねー、なれないと思いますよ。レベル高すぎやもん(笑)。


大人が読んでも十分楽しめる作品でしたが、一つだけ、パティおばさんが最初にアニーおばさんに書いた手紙がどんなものだったのかが気になります。ジュナがやってくる前に、もうパティおばさんの周辺には悪党の影があったんでしょうか。悪党が動き出したのはジュナが来るのとほぼ同時という感じに読めたんだけど……。

経済的に余裕がないことその他で気弱になってただけなのをアニーおばさんが勝手に深読みしたのかな。

まぁ、そのおかげでジュナが大活躍して、「一生不運続き」と町の人に言われていたパティおばさんに幸運が転がり込んできたんだから、アニーおばさん様々ではあります。

そしてまだ「事件解決」の報を知らないはずなのにジュナに「帰ってきなさい」と手紙をよこすアニーおばさん。

アニーおばさんって一体……。

次は4作目を読む予定(3作目も図書館になかった)なんですが、アニーおばさんとエデンボロはまた出てこないみたい。ううむ、ますます1作目が読みたくなるぞ!(笑)


ハヤカワ文庫版をGetするのは難しいですが、英語が得意な方はKindle版原書をどうぞ。


【関連記事】