『仮面ライダーデューク/ナックル』に出て来た狗道供界(くどうくがい)と「黒の菩提樹」がどうなったのか気になって、小説版『鎧武』を読んじゃいました。

いやー、まいった。

面白かったというか、胸熱だった。

のっけからメロン兄さんとシャルモンのおっさんとの共闘で、

「だって、ワテクシの背中をあのメロンの君が守ってくれているんですもの。気も大きくなりますわよ」 (P51)

なんてセリフが出て来るんですから、ニヤニヤせずには(笑)。

ミッチはもちろん、ザックに城乃内、チャッキーも活躍しちゃうし、スピンオフ『仮面ライダーバロン』に出て来た戒斗のそっくりさん、シャプール王子も名前だけとはいえ出てきます。

戒斗さん、凌馬さん、初瀬ちゃん、湊さんにシドさん、死んじゃった人達にも短いながらちゃんと見せ場があって、ファンにはたまらない「完結編」です。

テレビ本編を見ている時は決して「ファン」ではなかったんだけどなー。なんで「ワテクシ」ひとつにこんなにワクワクしちゃうんだ。

紘汰がいないからかな(爆)。

脇の登場人物はみんなそれぞれキャラが立ってて、ミッチの悪い子っぷりや、ハカイダーにまでなっちゃうマッドサイエンティスト凌馬さん、凰蓮さんと城乃内のドタバタ師弟関係は楽しかったもんな。

紘汰が嫌いなだけで(何回言う)。

スピンオフから小説、それに京都テレビでのテレビシリーズ再放送を見て、改めて鎧武ワールドって面白いな、と。

今さら。

えー、それでこの小説のあらすじなんですけど。(ネタバレあります!これから読む方はご注意ください!

メロン兄さんはユグドラシルの残党を片付けるべく、世界を飛び回っています。最初の場面がロシアで、メロン兄さんは「Чёрный липа」と書かれた名刺を見つけます。

ロシア語で、「黒の菩提樹」。ちょっとだけロシア語をかじった私としては「おー、チョールヌイ!」と仮面ライダーにロシア語が出てきたことが妙に嬉しかったりして。

まだ凌馬さんが生きている間に沢芽市を騒がせたカルト集団「黒の菩提樹」。そのリーダー狗道供界はリンゴロックシードの起動実験に失敗して何年も前に死んでいるはずなのですが、実は思念エネルギー体のようなものとして“生きている”らしく。

ザクロロックシードを使って一般人を“洗脳”し、「私が世界を救済する」とか言って信者を増やしています。

沢芽市でも「黒の菩提樹」の信者がどんどん増え、そのアジトを突きとめようと潜入するチャッキー。何かあればすぐにチャッキーを救い出すべく後をつけるミッチとザック。

供界が口にする「救済」とは何なのか。

一体何が目的なのか。

アジトで発見された謎の建造物。ヘルヘイムの植物が複雑に融合したその「兵器よりおぞましい代物」は信徒たちのエネルギーを吸収し、「菩提樹」となって街を睥睨、沢芽市民は全員トランス状態に。

メロン兄さんはじめアーマードライダー経験者が勢揃いして供界と戦い、その戦極ドライバーを破壊。ドライバーさえ壊してしまえば本来“幽霊”の供界は実体を保てなくなり、めでたしめでたし……のはずが。

供界は消えず、逆に沢芽市民が消えてしまう。

のみならずアーマードライダー達も消えてしまう!

ザクロロックシードは「洗脳」するのではなく所有者を供界の意識と一体化させるアイテムで、供界の言う「救済」とは

「七十億全人類が私と同じ存在になる。生死を超越した存在――真のオーバーロードに」 (P185)

だったのです。

いやいやおまえと一体になって何が嬉しいねん、という話ですが。

「生死を超越した存在になる」というところが供界的には「救い」なのでしょう。肉体という縛りを離れ、「個」という縛りを離れ、生死を超えた存在になる。

……これって、『MOVIE大戦2015』のメガヘクスとおんなじような発想ですよね。“全ての生命を融合し、「個」ではなく「全体」として生きることこそ究極の進化”だと言って地球の生命を全部融合しにきたメガヘクス。

鎧武のスタッフはよほどこのテーマが好き……というか鎧武のテーマがそもそもこれだったのかな。

「個」であるがゆえに争う人間たち。人間だけでなく、かつてヘルヘイムに浸食された者たちも、争い合って滅びた。

強制的に供界と一体化されちゃったミッチの意識に、かつての罪が蘇る。仲間を裏切り、兄さえも殺そうとした自分。生きている限り傷つけ合い殺し合う世界。「元の世界」とはそのような地獄なのだと供界が告げる。自我を捨て、自分と一体になればもう戦う必要はない……。

そんな“悪魔の囁き”に心を捨ててしまいそうになるミッチの前に

通りすがりの仮面ライダーが!



挫けるには早すぎる。お前はまだ旅の途中だ。誰もが自分と戦い、歩き続ける。 (P195)

ぐぉーっ、

\おのれディケイド/


もうここからの展開が胸熱すぎて!!!

並行世界のライダーたちを「二人で一人の、探偵にして戦士がいた。どこまでも届く腕を求めた戦士がいた。多くの友と青春を生きる戦士がいた。」(P196)と語っていくの、ライダーファンにはたまりません! ぐっときちゃう。

世界は確かに争いばかりかもしれない。あまたの並行世界で、人はやはり戦いをくり返し、苦しみ悲しみは尽きないのかもしれない。

それでも。

ヒーローはいる。

ベタなんだけどねぇ。「世界を救うぞ」と言うメロン兄さんのセリフとか、兄さんが言ったんじゃなきゃ陳腐でしょうがないんだけど。

ここまでの鎧武メンバーの物語があるから、陳腐どころか胸に響く。

だが、それでもこの世は地獄ではない。世界の守り手たる彼らがいる。ヒーローたちがいる。そして、誰の心の中にもヒーローはいる。 (P196)

うおぉぉぉぉぉ、熱いぜ!

その後の、戒斗さん達の描き方といい、ヒーロー物ならではというか、ベタだけど「こうでなくっちゃ!」みたいな熱さにうるうる。

ライダーシリーズへの愛、ヒーロー物への愛を本当にびしびし感じる。

そう、最後に現れるのは彼しかいない。 (P218)

ということで、紘汰もちゃんと出てきます。

うん、脇キャラのみんなの方が好きだけど、紘汰が主人公としているからこそ脇のみんなが“活きる”んだよねぇ。北斗のケンシロウとおんなじ。

紘汰が最後に供界にかける言葉は紘汰ならではだったし。

優しいんだよねぇ、紘汰は。



『MOVIE大戦』の感想記事にも書いたけど、『幼年期の終わり』的な“人類の進化”ってどうなんだろう。

私たちが肉体という境界線で区切られている意味。

死を与えられている意味。

“個”であるがゆえに争い合う私たちだけど、でも“個”と“個”だからこそ――“全体”なんかじゃないからこそ、生まれる愛や夢。

きれいはきたない、きたないはきれい。

供界のえせ救済から脱して自我を取り戻したミッチが「変身!」と叫ぶところでは、「俺は人間だ!明日を諦めないぞ!」というマクベスのセリフを思い出してしまった。

「生死を超え、時間を超え……だから供界には未来はない」っていう表現もあったけど、そうなんだよね、死があるから、肉体という縛りがあるからこそ、人は明日を想うのだろう。



仮面ライダーって、ほんとうにいいものですね。