「原稿段階で映画化決定!日本のロボットアニメに影響を受けた巨大ロボット・プロジェクトSF!」という触れ込みに釣られ、買ってしまいました。

文庫なのに1,000円、それもけっこう薄いのに1,000円、しかも上下2冊というビンボー人には大変厳しい出版形態。翻訳物はほんと高くなりましたねぇ。
もっと小さい活字で行間詰めて1冊1,500円で売ってくれたら嬉しかったですよ、創元社さん。しくしく。

解説には

この長篇小説は、彼がその息子とともにテレビで視聴していた日本のアニメ『UFOロボ・グレンダイザー』をその発想源とするらしい。 (下巻P262)

とあり、解説者さんは

もっとも本作の物語自体は『グレンダイザー』よりは、『六神合体ゴッドマーズ』とか『無敵超人ザンボット3』とかを連想させる (下巻P262)

とおっしゃっています。

え?イデオンじゃないの!? 巨神とくればイデオンかゴーグでしょう!? めっちゃイデオン見たくなってAmazonプライムで見始めちゃったけど!?



だって6千年前のロボットのパーツ(最初は手)が見つかって、謎の金属でできてて、他のパーツを探し出して合体させて……。

第六文明人の遺跡やろ!?間違いないっ!!!

……って、イデオン見てない人には全然わからない話ですね、すいません。

巨大な謎の「手」が見つかって、それが見つかるきっかけを作った少女ローズは10年ほど経って、謎の人物(解説等では“インタビュアー”と呼ばれる)から、その他のパーツの回収および研究のリーダーに任じられます。

お話はすべて

ファイル番号〇〇三
 エンリコ・フェルミ研究所上級研究員、ローズ・フランクリン博士との面談
 場所:イリノイ州シカゴ市、シカゴ大学 (上巻P15)

という報告書というか「資料」の形になっていて、たまに日記のような「私的記録」(これにもファイル番号がついている)が入るものの、原則として謎の“インタビュアー”による関係者への事情聴取記録になっています。

この構成がねぇ、面白い。
巧い。

ロボットの回収・研究計画を率いているらしい謎の人物。アメリカ大統領さえも動かし、軍の協力や莫大な資金を得ることができる彼は一体何者なのか?
「宇宙人?ねぇ、この人、宇宙人?いつ正体が明かされるの?」と思いながらどんどんページを繰ってしまいます。

かつて地球上に巨大なロボットを埋めて去って行った地球外生命体。人類が“それ”を発見し、扱えるようになるのをひっそりと待ち続けていた彼らの末裔、あるいは彼らそのもの、あるいは何らかのAIのようなもの。

今こうして指揮を執り、記録を残している“インタビュアー”はそういう存在なのでは、と思って読み進んでいたらさらに「謎の男」が登場して、“インタビュアー”の正体がますますわからない。

下巻の最後まで読んでも明らかにはされないんだけど、実はこの作品三部作だそうで。

えええええっ、続くのぉぉぉぉぉぉ、また2,000円ずつとか要るの……(そこ)。

地球上のどこに埋もれているのかわからないパーツを見つけ出す方法や、地球外生命体が残したらしい文字の解読方法には「なるほど」と思うし、回収の過程で起きる思いがけない事故、ロボットの存在を巡って起きそうになる国際紛争に対する“インタビュアー”の対処の仕方も面白い。

うん、“インタビュアー”の操る論理というか言葉の妙、面白いですねぇ。

ロボットの「操縦者」役に選ばれた男女の困った三角関係。でもそれすらも「実は仕組まれたことでは?」と思えてくるし、“インタビュアー”さんがほんとどこまで「真実」を喋っているのか……。

上巻の最後で「ええっ!?」と思ったら下巻の最後で「ちょっ!」ってなるし、こんなとこで1作目終わるとかずるいやろ、ヌーヴェルさん。

わたしは彼らのことをアニメーターと呼んでいます。水先案内人(パイロット)といってもほんとうの船ではありませんから、人形に命を吹きこむ存在になぞらえたほうがいいと思うんです。 (上巻P134)

フォースを使うのだ、ルーク! ひょっとするとそうなのかもしれない。もしかしたらこれはほんとうに大きなジェダイの訓練装置で、目を閉じた状態で一万トンの人形を動き回らせることができるかたしかめるためのものなのかも。 (上巻P144)

という記述にはクスっとさせられますし、

あなたがたはビデオゲームを使って兵士たちに殺しの訓練をさせています。彼らはコンピューター上で充分な数の人々を吹き飛ばし、そのことが本物の兵器を使って殺すのを簡単にしています。(中略)実のところわれわれには、政府の陰謀について話す必要などないのです。 (下巻P18)

あなたと大統領はどこかのCIAの分析官がいった、こうすれば中東を、あるいは原油価格を安定させる役に立つかもしれないといったようなことではなく、全人類のためになるなにかをする機会を得るのですから。 (下巻P227)

といった皮肉にはニヤリとさせられます。

北朝鮮にはずっと、ほんとうに当惑させられてきました。(中略)もっとも重要なことには、自分たちの正しさを百パーセント確信しているので買収もできない。誇大妄想狂は扱いが難しいことで有名ですが、どうすればそれを世代を超えて受け継いでいけるのか、わたしには見当がつきません。 (下巻P70)

ちゃんと一番最初に「この物語はフィクションです。実在する地名・人名等とは関係ありません」って断り書きがしてあるんだけど、つい「うんうん」ってうなずいてしまう。

解説によると、今年の4月にすでに刊行されている2作目ではロボットが本格的に戦い始めるのだとか。この1作目の「じわじわ感」がかなり好きなんだけど、事情聴取(あるいは現場との無線実況記録みたいなの)で戦闘をどんなふうに描くのか。何より下巻の最後の展開の真相を早く知りたい!

もちろん“インタビュアー”の正体も、ロボットが本当に地球外生命体が残したものなのか(まぁ人類には無理そうな代物だけれども)も気になるし、ロボットの操縦者問題も解決してないんだよね、あの人物が姿消しちゃってるし……。

インタビュアーと、それに答える人との言葉の間にいちいち空白行があるのでページ数よりも分量が少なく、さくさく読めます(なのでよけい1冊にして1,500円で出してほしかった。しつこく言うw)。

原題は『SLEEPING GIANTS』。眠れる巨人。あ、複数形ですね。今のところ一体しか出てきてないんだけどもしかして?

2作目は『WAKING GODS』らしく、こちらも複数形。って、これは単数にするとキリスト教の神様を指すんだったっけ。

続編の日本語訳を待ちたいと思います。3作目で因果地平へ行ってしまわないことを祈る……。


【続編の感想はこちら】

『巨神覚醒』/シルヴァン・ヌーヴェル
『巨神降臨』/シルヴァン・ヌーヴェル