(※ネタバレあります。これからお読みになる方はご注意ください)

“これって『イデオン』でしょ!?第六文明人の遺したロボットでしょ!?”と思いながら読んだ『巨神計画』の続編、やっと邦訳が出ました。

いや、邦訳自体は2か月前に出ていたので……やっと読めました!が正しいか。

巨大な謎の「手」の発見を皮切りに、6千年前に隠された巨大ロボットのパーツを集め、どうにか操縦しようと奮闘していた前作。

今作も、正体不明の“インタビュアー”とプロジェクト関係者との面談記録や私的記録で事件の経過が綴られていきます。

実は“インタビュアー”さん自身が異星人なんじゃないの? いつネタバレするの!?とわくわくしながら読み進んだ前作。

今回、その正体が明かされています。

前作の中ですでに異星人の末裔だとほのめかす人物が他に出てきていたので、「あれれ?」と思ってはいたんですが。

えー、そーゆー人だったの。

ちょっと拍子抜けだったけど、でもなるほどなぁ、とも思いました。アメリカ大統領さえも顎で使えるような人物、ついつい「神」とか「異星人」とか「世界を裏で支配している謎グループのトップ」とか、何か「超越的」なものを思い浮かべてしまうけど、

わたしは心の平安を提供するのです。人々がわたしをより大きな存在の一部だと信じるのは、みなそのほうが安眠できるからです。(中略)すべての間違いを正し世界を平和に保ってくれる全知全能の世界機関、という形を取った神を売り歩くのです。 (下巻P75-76)

ということなのよね。
人々がついそれを想像するから、それを求めるから。

自分が過ちを犯しても、一つの国家が過ちを犯しても、誰か――何か大きな力が最終的には世界を平和に保ってくれる。

そうだったら、いいよね。
でも現実は、そんなに優しくない。


さて。

前作のラストから9年の月日が経ったある日、突如ロンドンにもう一体のロボットが出現します。初めのうち、そのロボットは何もしない。ただそこに突っ立っているだけで、何のメッセージも発せられない。でも、そんなものが存在しているだけで人類にとっては何やら怖ろしい。気味が悪い。

防衛のため、「手」から組み立てたロボット“テーミス”を向かわせるべき、という人々。
テーミスでも勝てるわけがない、変に挑発しない方がいいと考えるローズ・フランクリン(子ども時代に「手」を発見し、研究チームを任せられている科学者)。

ローズの予想した通り、ただ突っ立っているだけで何もしようとしなかったロボットは、戦車の大軍が向かってくるのを見て、初めて動きを見せます。頭の向きを変え、その手に光の円盤のようなものを現出させて――。

ロンドンの一部はあっさり壊滅します。
光の円盤に薙ぎ払われた後には、何も残らない。
ただ、ぽっかりと空き地が。

その後、世界各地に全部で13体のロボットが出現、今度は謎の白いガスによって人々を殺していきます。なすすべもなく命を落としていく、何百万、何千万という人々。

恐怖に駆られた一部の国家は、ロボットが出現した自国の首都に核爆弾を落とします。
それでロボットを破壊できるのならやむをえない。人も街も、“尊い犠牲”だ。
けれど。

廃墟となった首都に、ロボットは無傷で立っている。

どのみちロボットに全人類が殺されてしまうのだとしたら、少しでも可能性のあることを、と考えるのはわからなくもない。核を使えば、ただ人々が犠牲になるだけでなく、放射能によるもろもろの影響も長く残る。でももはや人類に未来がないなら、地球環境が悪化しようとどうしようと何の関係があるのか?

……もし現実に「異星人からの侵略」みたいなことが起こったら、やっぱり、地球を吹っ飛ばしてでも撃退しようとしてしまうのかなぁ。相手の武器よりも自分たちの武器で地球を破壊してしまう方がマシなのか。

この作品の中では「謎のロボット」はまったく言葉を発しないし、交渉の余地というものがないんだけど、何かメッセージを発してもらったところでその意味がわかる可能性はかなり低い。

『イデオン』では翻訳機があって言葉が通じたのに、やっぱりダメだったしなぁ。


地球上にロボットが存在した理由、彼らがやろうとしていること、ガスの正体等、謎はどんどん明らかにされていきます。

「ガスが標的にするもの」が「え?そっち?」なのも面白い。

前作の最後で「死んだのに別の場所で発見されたローズ」の種明かしも。

30歳で死んだローズと、その1年後に27歳で発見されたローズ。その2人を構成するものがまったく同じなら、2人は同一人物と言えるのか?

27歳のローズにはもちろん30歳までの数年間の記憶はなく、“テーミス”の研究もしていなかったんですよね。「自分は何者なのか」という葛藤を抱えてこの9年間を過ごしてきたローズ。

「異星人の末裔」を名乗る男は、「つまり魂の問題ってことか?」「物質を完璧に再現しただけでは“私”にならないと思ってるのか? 何か特別なものがいるはずだと?」というふうに言うんですが。

物質を完璧に再現すれば、記憶や知識や性格も再現されるのかなぁ。
結局は、「記憶」や「性格」――「人の意識」というのは一体何なのか、という話になるけど。
原子や分子と、そこに流れる電気しか“物質”としては存在しない。いや、だから“物質”じゃないものなんて存在しないだろ、霊魂とかホントにあると思ってんのか?って話に。

私たちの細胞は日々入れ替わっているという意味では私たちは「一年前の私」とは物質的には「別人」で、でも「私」という自我はあって。(→【参考】福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』:リンクは以前別サイトに書いた感想記事)

ある時点での“物質”の構成を忠実に再現すれば、入れ替わり立ち替わりしてきた“過去”をも包含できるのかなぁ。うーん。


ともあれ人類はどんどん殺されていって、テーミスを擁する「地球防衛隊」の司令官ユージーンは国連総会で演説します。

最高の人材をそれにあてるのです。いや、最悪の人材を。誰が適任かはけっしてわからないのですから。(中略)われわれの生き残りの鍵は、どこかのほんとうに賢い子どもの手に握られているかもしれません。確実にその子に知らせるのです。 (下巻P115)

わたしの話はこれですべてです。さあ、帰るのです。帰って、家族に愛していると伝えるのです。彼らに十回でも、百回でもいっておやりなさい。それができるうちに。そしてもしわれわれがどうにかして今回のことを生きのびられたら、それをずっと続けるのです。結局のところほんとうに重要なのは、それだけなのですから。 (下巻P115) 

ユージーンいい人。

インタビュアーさんのキャラ(発言内容)もなかなかだけど、ユージーンさんも素敵だ。

「地の文」というものがなくて、「発言記録」とか、日記のような「私的記録」で綴られるスタイルだから、各々の「言い回し」が命、みたいなところがあって、関係者の疑問をうまいこと言いくるめてしまうインタビュアーさんの言葉使い、論理の繋ぎ方が面白いんですよね。訳者さんは大変じゃないかと思うけど。

エヴァンゲリオンから名前をつけられた少女エヴァの登場、引き替えに退場する人たち。

とりあえずロボットたちによる問答無用の殺戮は食い止められたのかと思いきや、ラストにはまた「え?何それ?ここで終わるの!」という衝撃が待っていて。

ちょっとぉ、どうなるのよぉ、ヌーヴェルさん! 早く続き続き!


完結篇となる『Only Human』は5月にアメリカで刊行済み。邦訳は来春刊行の予定とか。読めるのは半年以上先か……。

解説によると「冒頭から読者の予想や期待の斜め上をすっ飛ばす展開」だそうで、果たしてどういう結末が待っているのか。「Only Human」ってことは「異星人」だと思ってたけど実は異星人じゃなくてルーツ一緒、宇宙には結局知的生命体は一種類しかいないんだとかなんとかそういう?(きっと違う)




【完結篇の感想記事はこちら】

『巨神降臨』/シルヴァン・ヌーヴェル