(※ネタバレあります。これからお読みになる方はご注意ください)


『巨神計画』『巨神覚醒』に続く三部作の三作目、完結篇です。

1作目では「イデオンかよ!」となり、2作目で「ええええ、そう来るの?」となり、一体どういう着地点になるのかと思っていたのですが。

3作目もどんどんとページを繰ってしまう面白さでした。上下巻だけどかなり早く読み終わっちゃった。
相変わらず「記録ファイル」形式で書かれていて、セリフの掛け合いだけで進む箇所などは余白部も多いので、「字」の分量としてはさほど多くないということもありますが。

2作目の最後でロボット・テーミスごと宇宙に飛ばされてしまったローズたち。着いた先はもちろんテーミスの生みの親、エッサット・エックトと呼ばれる異星人の星

でもお話は9年後、そこからローズたちが帰ってくるところから始まり、9年後の地球での出来事と、「エッサット・エックトで何があったか」が交互に語られていきます。
「交互」というか、地球での状況に合わせて少しずつ「向こうで何があったのか」がファイル形式で明かされていく。

その全貌はかなり後になるまで明かされないし、地球は地球で大変なので、「どうなるんだ?」「どうしてこうなってるんだ?」とページを繰らされてしまう。
本当に構成がうまい。

テーミスとともに異星に行って、テーミスとともに帰ってきたローズ、ヴィンセント、エヴァの3人。行く時は元国連地球防衛軍司令官のユージーンも一緒だったのですが、彼は残念ながら異星で亡くなってしまいます。

10歳の少女だったエヴァは19歳になり、生物学上の父親であるヴィンセントとはあまり仲がよろしくない。なぜ2人の間がぎくしゃくしているのか(主にエヴァがヴィンセントに腹を立てているわけですが)、それは3人が「どうやって地球に戻ってきたか」という問題とも密接に絡んでいて、なかなかその全容は明らかにされません。
うー、イライラするぅ!(笑)

ローズたちが地球を去る前、地球には異星人たちのロボットが複数現れ、謎の攻撃で1億人もの人類が死にました。人類は「ロボットを破壊するため自分たちの首都に核爆弾を落とす」ことまでして、さらに死者を増やしたのです(ロボットは核でも壊れなかった)。

どうにかローズたちが一矢報いたことによりロボットたちは去ったわけですが、その際「動作不能」になって地球に残された一体ラペトゥスをアメリカが動くようにして、その“脅威”によってアメリカは世界の覇権を握ろうとしています。

地球に帰還したテーミスが降りたった場所はたまたまロシアに近く(エストニアだった)、ロシア軍に拿捕されたテーミスとアメリカのラペトゥスとであわや米ソ開戦!?

攻撃を受けたあと、世界はかつてないほど団結しているだろうと思っていた。 (上巻P323)

歴史上初めて、すべての人が名指しで非難できる“彼ら”が存在していた。それには、より大きな“わたしたち”がついてくるはずだったのに。 (上巻P323)

とエヴァが嘆くように、圧倒的な力を持つ異星人と遭遇した地球人は、「一致団結して再びやってくるかもしれない彼らを迎え撃つ準備をしよう!」というふうには全然なってなかったんですよね。
それどころかいがみ合い、他国を侵略し、自国の権力の及ぶ範囲を広げようとしている。カナダ政府はもうないし、エストニアという国ももうない。それぞれアメリカの一部、ロシアの一部になってしまっている。

しかも人々は「異星人の遺伝子を濃く受け継ぐ者」をランク分けして、収容所送りにしていた。

2巻で異星のロボットたちが攻撃したのは、「我々(異星人)の遺伝子を持つ者」だけのはずでした。6000年前地球を訪れた彼らは地球にテーミスを残し、また、幾人かの異星人をも残していたのですが、本来彼らは「地球人とは交雑しない」はずだったのです。

異星人は異星人だけでひっそりと生き続けるはずだった。
そして6000年の時を経て、「やっぱ他の星に干渉するのって良くないよね。他の星に“我々”がいるのって良くないよね」と思った異星人たちは、地球人ではなく、「我々=先遣隊の子孫」を殺すために戻ってきた。

ところが先遣隊たちは見事に地球人と交わって、今や地球上の人類のほとんどが異星人のDNAを持っている。だからそのDNAを目標に攻撃するとバカスカ1億人以上の人間が死ぬことになってしまった。

考えたら「6000年も後になって“お前らよその星で生きてちゃダメだよ”と殺される」先遣隊の子孫たちも気の毒以外のなにものでもないですよね。別の異星人に侵略されるよりある意味エグい。

作中、重要な働きをする「純度の高い異星人の末裔」ミスター・バーンズ氏は、自分たちが異星人であることやその経緯を知ってはいるけど、「おれはミシガンの生まれなんだ!」と言うとおり、一度も母星に行ったことなんかなくて、地球人として生活してたんだから。

それが問答無用で、本来の同胞たちに殺されるところだったんだよなぁ。

エッサット・エックトは、手痛い失敗を経て「他の星には干渉しない」を選択するようになったらしく、「干渉しないために自分たちの子孫だけ殺そうとしたら思いがけず地球人をアホほど殺すという大干渉をしてしまった」ことについて、大変困惑していた。

エッサット・エックトで、ローズたちは別に拷問もされないし、監禁もされない。他の星からの移民が住む地区に住居も割り当てられ、とりあえず生活には困らないよう配慮される。
そして何でも投票で決めるエッサット・エックトでは、最終的にローズたちをどうするか、地球に帰りたいという望みを叶えるべきか、ということについても投票で諮ろうとするんだけど。

これが全然、何年経っても結論が出ない。
民主主義は手続きに時間がかかるのだ……。

そんなエッサット・エックトの「社会」に好感を抱くローズ。

わたしは数学の明確さ、その確固たる信頼性を愛している。数学ではけっして、いっていることとやっていることは別、ということはないだろう。その唯一の目的は真実だから、けっして故意に人を傷つけることはない。エッサト・エックトでわたしは、それと同じ明確さ、明快さを、地球の人々にはあまりに欠けているものを見つけた。わたしがそれを見つけたのはそこにあったからではなく、自分が探していたからだった。 (下巻P60-61)

でもユージーンが病に倒れ、エッサット・エックトの科学力なら助けられるにもかかわらず助けてもらえない事態に直面し、ローズは複雑な想いを抱く。ユージーンをなんとかして助けたい、でもこういう状況でも「干渉しない」ことこそがエッサット・エックトの良さで、ローズ自身もどこかで「そうあるべき」と望んでいた……。

彼らは窓越しにほかの世界を見ている。(中略)自分たちは彼を救う立場にない。そんなことをするのはでしゃばりというものだ。(中略)彼らのものの見方にはある種の高潔さがある。(中略)客観性はない。すべては見方の問題なのだ。 (下巻P62)

とローズが考えるくだり、すごく興味深い。

地球人は団結せず無駄に憎みあっているし、でもエッサット・エックトの「社会」が完全に良いものかというとやっぱりそうでもなさそうで、実際ローズたちがそこを離れる直前には「内乱」のようなものが起きかけている。

テーミスのようなロボットを作り、それを一瞬で別の星に転送できるような圧倒的な科学力を持ちながら、エッサット・エックトもまた「完璧な世界」ではない。

SFっぽさよりも「人間社会について考える」という側面が強いように感じましたね、この3作目。「家族」の話の比重も大きいし。

エヴァはヴィンセントとカーラの「生物学上の娘」ではあるけど、彼女が10歳になるまで2人は会ったこともなければ、互いの存在すら知らなかった。
それでもヴィンセントのエヴァへの想いは深い(深すぎるぐらい)し、最終盤で紹介されるカーラからエヴァへの手紙は「反則だろ!」って思うぐらいグッと来る。

しかし会ったこともない「娘」に、これほどのことを書けるもんなのかなぁ。色々と状況が特殊とはいえ……。カーラすごい。

最後の最後も気の利いた終わり方で、堪能いたしました。