2018年4月2日月曜日

『ゲームウォーズ』/アーネスト・クライン




日本では4月20日公開の映画『レディ・プレイヤー1』の原作です。基本、アニメと特撮映画しか見に行かない私ですが、「ガンダムが登場する」とか「80年代カルチャーがこれでもかと詰め込まれている」という触れ込みに予告編を見てしまい。



ふむ。
とりあえず原作を読んでみよう!と図書館へ。

原作は2011年の作品。邦訳は2014年に出ています。

映画の公式サイトやWikiにもあらすじが出ていますが、舞台は2041年。荒廃した世界で、人々は〈OASIS〉という巨大な仮想世界で娯楽のみならず教育までも受けて過ごしています。

〈OASIS〉の創設者ジェームズ・ハリデーが死んだ日、全ユーザーにメッセージが届きました。曰く、「〈OASIS〉世界に隠された“イースター・エッグ”を見つけたものに、〈OASIS〉のすべてを譲る!」

最初のヒントを解いて第一の鍵を手に入れる者が現れないまま早や5年。一部の熱心な“ガンター”と、〈OASIS〉を何としても自分達のものにしたい企業〈IOI〉以外には、“エッグ”の存在など都市伝説になりつつありました。

けれど主人公ウェイドがついに第一の鍵にたどり着いたことで、“エッグ・ハント”は急展開。

数と金に物を言わせて卑劣な手段で個人ユーザーを追い落とそうとする〈IOI〉“シクサーズ”。果たしてウェイドは彼らより先に“エッグ”にたどり着くことができるのか!?

……というわけで、RPG宝探しのストーリー、現実では貧しく冴えない主人公がVR世界で鍵の“第一発見者”となったことで一躍“時の人”になり、そのおかげで現実にも“お金持ち”になって、時に失敗し、命の危険にさらされながらも、“悪の組織”を出しぬき、ゴールにたどり着く。

うん、これだけで十分楽しめる「よくできたお話」なんですが、〈OASIS〉創始者ハリデーが“80年代ヲタク”に設定されていて、“ヒント”を解くためには彼の愛した80年代のビデオゲーム、TRPG、テレビドラマ、映画、SF&ファンタジー小説、コミック、音楽等々、膨大な作品を知っていなくてはならないという。

ただ単に登場人物を知っているぐらいではダメで、セリフをそらんじて仕草まで完璧に再現しなきゃいけないし、ゲームは当然ハイスコアでクリアできなきゃいけない。何より、ほんの数行与えられるヒントが何を指しているのか、あらゆる可能性を検討できる知識量と推理力とひらめきが必要とされるのです。

で、『スターウォーズ』だの『ゴーストバスターズ』だの『特攻野郎Aチーム』だのという固有名詞に混じって、

日本?日本も研究したかって?したさ。徹底的に。アニメに実写。『ゴジラ』、『ガメラ』、『宇宙戦艦ヤマト』、『マグマ大使』、『ガッチャマン』、『マッハGoGoGo』。 (上巻P126-127)

と、日本の作品もたくさん出てくるんですよね。

のみならず、ウルトラマンは出てくるわガンダムは出てくるわ。そして日本人でもたぶん知っている人は少ないであろう、東映版『スパイダーマン』に出てくる巨大ロボ・レオパルドンまで……。すいません、私、それ、わかんないです(^^;)

〈OASIS〉創始者ハリデーは1972年6月12日オハイオ州生まれということになっていて、著者アーネスト・クラインさんも同じ1972年生まれ。クラインさん自身が相当な“ギーク”ということで、出てくる固有名詞の数がハンパじゃないです。

もちろんそれらの固有名詞を知らなくてもお話は十分楽しめると思います。私もゲームはさっぱりわかりませんし、洋画や洋楽に詳しいわけではないけど、「それをヒントに解いていく」の面白かったし、最後までハラハラどきどき。

加えて世界設定がよくできてるんですよねぇ。

現実世界はかなり荒廃して、主人公はスラム街のようなところに住んでいる。親も亡くし、読み書きや算数も〈OASIS〉内で学んだ。〈OASIS〉の利用は基本無料で、〈OASIS〉内の無料図書館では膨大な資料にアクセスできるし、80年代の映画や音楽のアーカイブも楽しみ放題。

主人公、自分で開設したチャンネルで『キカイダー』一挙放映してたりするし。

ちょうどいまは、二日にわたる『人造人間キカイダー』の一挙放映企画がそろそろ終わるころだ。『キカイダー』は七〇年代に日本で製作された実写アクション番組で、毎回、赤と青の人造人間がゴムの着ぐるみを着た怪獣をばったばったと倒す。 (下巻P10)

何よりオンライン学校が秀逸です。

オンライン学校にはいろいろいい点があって、ほかの生徒をミュートする機能もその一つだ。(中略)校内で喧嘩が起きたことは一度もなかった。OASISの仕組みとしてできないようになっているんだ。学校のある惑星ルーダス全体がPvP禁止ゾーンに指定されている。つまり、プレイヤー対プレイヤーの戦闘は許されていない。 (上巻P60-61)

いじめっ子から丸めた紙切れを投げつけられることもないし、ズボンを強引に引っぱり上げて股間をぎゅうぎゅう締めつけられることもない。放課後に自転車置き場で囲まれて殴られたりもしない。誰もぼくに手を触れることさえできない。ここにいれば、ぼくは安全だ。 (上巻P64)

生徒が安全なだけでなく、先生にとってもオンライン学校は教えやすい。

現実の学校とは違って、OASIS公立学校の先生たちは教えることを心から楽しんでいるように見える。たぶん、勤務時間の半分を子守りやしつけに取られたりせずにすむからだろうな。そういった仕事はOASISのシステムが代わってこなしている。生徒は私語をせず、授業中にうろうろしたりもしない。先生たちは、教えることだけに専念できる。 (上巻P96)

おおお、今すぐオンライン学校を実現しなくては……!!!

接続自体は基本無料、誰でも使えるオープンなVR世界〈OASIS〉。〈OASIS〉内の公立学校に転入すれば、アクセスするための最低限の機械(タブレットやVRゴーグル)も配布され、主人公のような貧困層の子どもでも十分に〈OASIS〉を楽しむことができます。

でももし、“エッグ”を〈IOI〉がGetし、〈OASIS〉が連中のものになってしまったら。

IOIがOASISの運営会社になったら、きっとユーザーから月額利用料を徴収し、ディスプレイに残った隙間をすべて広告で埋めようとするだろう。ユーザーの匿名性や言論の自由は過去のものとなる。 (上巻P67)

ははははは。
なんかどこかで聞いたような話(^^;)

〈IOI〉はあらゆる手を使って“エッグ”を――〈OASIS〉を手に入れようとします。第一の鍵を最初にGetした主人公に大金を提示し、「協力を断れば殺す」とまで。

そして実際、主人公の住んでいた場所を爆破してしまう。無関係な他の住民ともども。

〈OASIS〉世界の中でアバターを殺されても、もう一度アバターを作り直せば(稼いだレベルやマジックアイテムはすべてリセットされるとしても)復活できます。〈OASIS〉内の戦闘で〈IOI〉に倒されるだけなら、それは「バーチャルな死」に過ぎません。

でも、〈IOI〉はリアル世界でも攻撃してくる。

匿名を使っていても、そのアバターの「本体」がどこの誰なのか突きとめて、問答無用で殺しに来るんです。

ひぃぃぃぃぃ。

まさに「ウォーズ」。ゲーム世界での“戦争”に留まらず、命がけの“エッグ・ハント”なのです。

終盤、主人公がリアル世界で〈IOI〉相手に仕掛ける行動は無謀すぎてハラハラ。ハリデーに関する知識、ゲームやプログラミングの腕だけでなく、なかなか肝が据わっているんですよねぇ。

リアル世界でのひどい労働実態がわかるエピソードにもなってて、ほんと、設定とか、VR世界とリアルとのバランスがよくできてるなぁ、と思います。

18歳の若者が主人公なだけに、恋愛もあり、友情もあり。VR世界のアバターでしか知らない盟友たちの正体を知り、それがたとえ思いがけないものであっても、互いの本質は変わらない、自分達は友だちだ、と言える強さ。

最後にハリデー(のアバター)が主人公にかける言葉も、王道ジュブナイルぽくて良いです。うん、80年代ギークというアラフィフほいほいな仕様にくるまれてはいるけど、中身は青春SF。

著作権の都合で映画にはウルトラマンは出てこないそうですが、スピルバーグにより再現される〈OASIS〉世界……かなりそそられますね。


作中に名前の出てくるたくさんの音楽作品、Spotifyでプレイリスト作ってる人いそうだな、と思って検索したら「Ready Player One Official Spotify Soundtrack」というものが。作成者は「ernestcline」となってますが、著者ご本人なのかしら……。


映画のサントラを聞きながら読むのも面白いかも。



あと。
ストーリーとはあんまり関係ないけど、お話の最初の方で、

OASISの無料図書館の探索を開始してまもなく、醜い現実に目が開かれた。事実はすぐに手の届くところでぼくをじっと待っていた。正直であることを恐れない人々の手によって、古い書物のなかに隠されて。 (上巻P31)

って書いてあったり、

「では、死んだらどうなるのか。はっきりしたことは誰にも言えない。しかし、証拠から推測するかぎりでは、何も起きないようだ。ただ死ぬだけのようなんだな。(中略)“神”関連のほかの話と同じさ。天国が本当にあるという証拠はない。過去に存在したこともない。それも作り話なんだよ。願望的思考というやつだね。というわけできみは、自分もいつか死んで永遠に消滅するって現実を知りながら、残りの人生を生きていくしかないんだよ」 (上巻P35)

なんて記述があるの、すごく好感が持てました。あ、この世界観なら大丈夫、この著者さん好き、っていう。

まぁマグマ大使だのキカイダーだの出してくる時点で好きに決まってるけど(笑)。

今月邦訳が出たばかりの長編『アルマダ』も読んでみようかな。



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