1月26日(土曜日)の15時公演を観てきました!

1963年初演の名作『霧深きエルベのほとり』の再演。1983年にも再演されているので「お名前は存じております」だったのだけれど、もちろん観たことはなく。
一緒に観劇した母も「ハマっていた時代だったけどこれは観られてなかった」と言っていて。

どんな舞台なのか。
どのように名作なのか。
「今観ても面白い作品なのかな?」という不安もチラっとありつつ席に着いたのですが。

良かった!!!!!!

めっちゃ泣いてしまった……。

「なんでベルばらで泣くの?」と言われるぐらいすぐ泣く人間なので、まぁ他の人にとってはそこまで感動する作品じゃないのかもしれないけど(事実、母は特に泣いてなかった(^^;))、紅さんのカールがめちゃくちゃ良くて私はボロ泣き。

公演プログラムの上田久美子先生のお言葉を読み返すだけでもう胸がいっぱいになってしてしまう。

“照れて冗談の下に繊細さを隠しているような彼女には、おっちょこちょいの悪党だと他人には思われていたがる実は心優しい男の役をやってほしいとずっと思っていて、それはカールという役とぴったり合致していました。”

“このカール役でこそ紅の真骨頂が発揮される”

まさしく!!!!!

上田先生ありがとう。再演にGOを出してくれた歌劇団もありがとう。

紅さんのカール、ほんま最高に良かった。

チャーミングでちょっと不良で、悪ぶってるけどホントはすごくいい奴で。

宝塚のトップスターがやる役というと王子さまとかシュッとした二枚目を思い浮かべる方が多いと思いますけども。
「悪党」でさえも華麗な美形、世のため人のために盗賊に身を落としてはいても実はええとこの……とか。

この『霧深きエルベのほとり』の主人公カール・シュナイダーはただの水夫です。

田舎の出で、正直ガラはあまりよろしくない。博打で擦って水夫仲間から金を借り、その金で酒場で大盤振る舞いしてしまうような男。

でもこれって、「水夫」としては特に「悪党」でもない、活きのいいただのその辺の若者ですよね。

そんなカールが年に一度のビア祭りの日、ハンブルクの港に帰ってきて、酒場でヒロイン・マルギットと出逢う。

酔客に絡まれていた彼女を助け、店の外に連れ出して、景色のいい丘へと誘う。

「男と女がただいい景色を見に来るわけないだろ」「ついて来るってそういうことだろ」と言うカールに対して、マルギットはきょとんとする。

実は「良家の子女」で父に反発して家を飛び出してきたマルギット、素性を隠して「私はただの家出娘よ」と言い張る。

「家出娘ってのは酒場で出逢った男にひどい目に会わされるのが相場さ」とうそぶくカール。

もともとの脚本は菊田一夫さんの手になるものですが、この辺の会話の妙、ほんとに素晴らしい。
ひどい目……というかゆきずりの遊び相手として連れ出したくせに「家出娘をひどい目に会わせる男に俺がなっちまうのもな」とためらうカールの心情、チンピラだけど根はいい奴、ってことがビシバシ伝わってくる。

もちろんそれはセリフの妙だけでなく、紅さんのお芝居がいいから。

「俺ぁ」「おめぇぁ」といったセリフ回し、がに股気味の歩き方、悪ぶってもどこか人の良さがにじみでるチャーミングさ

「ひどい目と言ったって、その時真心があれば、それは幸せになるんだぜ」

なんだかんだで惹かれあった二人はエルベのほとりのホテルで一夜をともにし、翌朝マルギットに求婚するカールの様子がまた!

行きつ戻りつためらいながら想いを伝える、紅さんのセリフも仕草も表情もとっても良くて。

でも。
見ている者にはわかるんだ。この二人のおままごとみたいな恋が、うまくはいかないってこと。

家出したマルギットを探す父親と、婚約者フロリアン。酒場での目撃情報から、カールは「令嬢誘拐」の疑いをかけられてしまっている。

追われてるからだけでなく、二人の間に横たわる大きな溝。「住む世界の違い」

何のためらいもなく特等席に座り、「お金なら家を出る時持ってきたから大丈夫」とさらりと言ってしまうマルギット。特等席には彼女を知っている「いいとこの人たち」もいて、早速「私の夫よ」とカールを紹介するも、カールは恥をかくだけ。

のみならず、「いいとこの奥さん」におさまった昔の恋人アンゼリカとまで再会してしまって……。

そこへマルギットの父親とフロリアンも登場。
「カールとの結婚を認めてくれなければ死ぬ!」と言うマルギットをなだめるため、一旦はカールを婿にすることに同意する父。けれど「住む世界の違い」がそんな簡単に埋まるわけもなく。

大きなお屋敷。集まる上流階級の人々。あからさまにカールを蔑む視線。

カールは、「マルギットと結婚したら陸(おか)に上がって真面目に働く」と言い、「誰がマルギットに百姓なんかやらせるもんか!俺が働くんだよ!」と叫ぶけれど、そもそも「百姓の嫁」というだけで上流の人々には考えられない話だ。

そんな空間でカールの居心地がいいわけもなく、マルギットの父も「あの場は仕方なく折れたふりをしただけ。二人を結婚させる気はさらさらない」とのたまう。

そしてカールは……。

悪党を装って、身を引く。

またマルギットの婚約者フロリアンがいい奴で、マルギットの幸せを思ってカールとの結婚を祝福してくれようとするから……。これがいけすかない、どう見てもマルギットを不幸にしそうなドラ息子ならカールもそうそう「身を引く」気にならなかったかもしれないけど、親身になってくれるフロリアン見てたら、「この男と結婚するのがお似合いなんだ、俺じゃなく」って思っちゃうよね。

マルギットの妹シュザンヌも実はフロリアンのことを好きで、でもフロリアンが姉を愛してることわかってるから自分の気持ちを押しつけようとはしない。

カールもフロリアンもシュザンヌも、自分の幸せより好きな人の幸せを想う人間で……マルギットだけがそうじゃないというか、我がまま娘のように見える(^^;)

カールが悪態をつき、手切れ金をもらって屋敷を出ていった時も、そんなの見ている側には「わざとだ」ってすぐわかるのに、マルギットは真に受けてショックを受けるんだもんね。カールのこと、全然信じてないやん……。

一人さびしく屋敷を後にするカールのあとを追ってくるのはマルギットではなくかつての恋人アンゼリカ。アンゼリカが昔のことを謝ろうとするのを遮り、「いいんだ、わかってる。貧乏だったからだろ?おまえが幸せならそれでいいんだ」と言うカール。

なんていい奴なんだ、カール!

「マルギットはどうしたの?」「振ってきたよ!初めて女を振ってやったぜ!」
強がりが哀しい……。

ここまでですでにかなり泣かされてたけど、極めつけが酒場でヴェロニカ相手に心情を吐露するシーン!

「あんたをマルギットって呼んでもいいか? マルギットに言うつもりで、話しかけてもいいか?」と、彼女への想いを切々と語る。自分の身はどうなってもいいほど愛してるけど、だからこそ、彼女には幸せになってほしい。

「幸せになれマルギット、幸せになれ!」

……こうして思いだして書いてるだけでも涙出てくるけど、紅さんのお芝居がほんとに素晴らしくて。最後、ヴェロニカの膝にすがりついて男泣きに泣くカール……うう。

しかも、「いつか機会があったら返しといてくれ」って手切れ金をヴェロニカに託すんだよね。「もしも海で死んじまったら、ずっとゲスのままだ。それじゃああんまり俺が可哀想だ」って。

うん、本当に、可哀想だよ、カール。
とはいえ場末の酒場女でしかないヴェロニカにそんな機会があるとも思えないんだけど、何のことはない、カールが船に戻ってすぐ、カールを訪ねてくるマルギットとフロリアン。

遅い。

遅いんだよ、マルギット!!!

真意は伝わる。
でもハッピーエンドにはならない。
そこがまた、いいよね。


カールとマルギット、フロリアン以外の登場人物にはあまり見せ場がないので、これが退団公演となる殤不患――七海ひろきさんはもったいないというか残念というかちょっと寂しかったけど、最後に「あばよ!」と言って去っていくのはファンのみんなへの言葉でもあるのでしょう。

ヴェロニカは専科の英真なおきさんで、さすがの貫禄。最初にちょろっと歌声も披露してくださって、ファンとしては嬉しい。英真さんの歌、とっても素敵なのよね。途中、カールとマルギットの替え玉みたいに出てくるカップルの水夫役で、「かもめよ~♪」と主題歌もひとくさり。うぷぷ。

カールとマルギットか!?と思ったら英真さんと美稀さんのカップルって、ツボを心得てる(笑)。

美稀さんは二人が一夜を過ごすホテルのオーナーでもあって、捜索に来た連中に「そんな客はいない」って嘘ついてくれるんだよね。地味にあのシーン好き。

マルギットの父親一樹千尋さん、英真さん、そして現星組組長でマルギットの義理の母役万里さんが並んでいるのを見ると(実際には3人一緒に並ぶ場面はないけど)、「我が青春の星組よ!」としみじみしてしまいました。

ストーリーは単純というか、「身分違いの恋」で、ありがちと言えばありがちだけれども、その分わかりやすいし、カールの性格と心情が見事に描き出されていて、展開は予想できるのにお話に引き込まれてしまう。
恋敵たるフロリアンはいい奴だし、頑固なマルギットの父親を除けば明確に「悪人」も出てこない中、「誰も悪くはないのに、悲しいことはいつもある(by中島みゆき)」的なせつなさ。

もしも父親が許してくれても、あの家の「婿」として暮らすカールが幸せだったかどうか、家を出て百姓の妻としてマルギットが生きていけたかどうか。互いを想い合う心が、決して嘘ではなくとも。

ビールの泡のような恋。
ビールの泡のような、私たちの人生――。


菊田一夫さんありがとう。上田久美子先生、紅さんのカールを見せてくれて本当にありがとうございました!!!

昔だったら絶対もう一回観に行ってると思います。何なら三回は観てる。


と、『エルベ』を楽しみすぎたせいか。
ショー『ESTRELLAS』の方はいまいちノれず(^^;)

お正月にBSで中継してたやつ、あえて見ないでまっさらな気持ちで臨んだんですが、うーん、選曲があんまり好みじゃなかったなぁ。
プロローグと中詰めと、客席降りが2回もあって(『エルベ』でもビア祭りの場面で降りてきたので通路そばの席の人が羨ましかった)盛り上がったけど、J-POPとか割と最近の曲が多くて、「音」もこう、ガチャガチャと機械的なのが多かった気が。

セカオワの「スターライトパレード」、平井堅の「POP STAR」、flumpoolの「星に願いを」。
あとK-POPの「Back」に昔懐かしい「今夜はANGEL(椎名恵)」「Hot Stuff(ドナ・サマー)」に「Sunny(ボビー・ヘブ)」。

礼さんの「Back」」「Sunny」はとってもうまくて、「Back」のシーンのダンスは格好良かったけど、全体的にはどの場面もそんなに印象に残らなかった……。ちょっと単調な感じがしたなぁ。曲が好みじゃないのが一番大きいと思うけど、こればっかりは仕方ない。J-POPが嬉しい人もたくさんいるだろうし。

「ESTRELLAS」がスペイン語ということもあってか、「リベルタンゴ」とかスパニッシュな音楽も少しあり。フィナーレの男役燕尾大階段のところもバンドネオンから始まって。あの始まり方良かったなぁ。曲は「情熱大陸」かと思ったけど違うかもしれない自信がない。

プログラムに中村先生が「総踊りは、それまでの曲とはちょっと変わった選曲です」と書いておられる通り、中詰めにはORANGE RANGEの「チャンピオーネ」が使われていて、宝塚っぽくはないけど紅さんっぽくはあるというか、陽気で悪くなかった。


『エルベ』、ほんとにもう一回観たかったなぁ。