ことば
『究極の文字を求めて』/松樟太郎
以前ご紹介した『声に出して読みづらいロシア人』の作者、松樟太郎さんのご本です!
『声に出して』の記事でご紹介していた『究極の文字をめざして』というWeb連載を1冊にまとめたこの本、相変わらず面白くてためになる、サクサク読めるのに「世界にはこんなにも色々な文字があるのか」と蒙を啓かれるご本です。
はぁ~、ほんと松さん素晴らしい。
世界の文字、と言われてパッと思いつくのは漢字、かな、アルファベット(ラテン文字)、ハングル、ロシア文字にアラビア文字……。
古代だとくさび形文字、甲骨文字、ヒエログリフ、ファンタジー厨御用達ルーン文字とか。顔みたいなマヤ文字も古代文明好きにははずせない。
この本ではざっと40種ぐらいの文字が紹介されているのですが、中には『ゼルダの伝説 風のタクト』というゲームで使われた「ハイリア文字」まで入っています。「偽古代文字を作ろう」というサブタイトルで。
マンガやアニメではけっこう文字とか言語、作られますよね。
NHKで現在放送されているアニメ『魔入りました!入間くん』でも魔界の文字があって、Twitterで解読している人を見かけたし、数年前のアニメ『翠星のガルガンティア』でも異星人の喋る言葉、文字を解読していた人がいたような。
つまり、スタッフ側がちゃんと、「解読できるだけのちゃんとした文字&言語」を作ってるってことですよね、すごい。
松さんもハイリア文字の項で『魔法少女まどか☆マギカ』の「魔女文字」を絶賛なさってます。
本の表紙にも文字がデザインされているわけですが、これとか
これとか、
コロコロしてなんとも可愛いですよね。文字というよりはデフォルメされたイラストのような。
ちなみに上が「ミャンマー文字」、下が「オリヤー文字」だそう。オリヤー文字はインドのオリッサ州を中心に使われているそうです。
この、文字というよりはテレビのアンテナみたいなやつは古代アイルランド他で使われていた「オガム文字」。下から上へ読むのだそうな。
もとは木や石に刻まれるものだったからこんなふうに直線で表したようですが、途中で「あ、間違えた!1本多かった!」とかざらにありそうですよね。線と線がくっついてわかりにくくなったりとか。
単純に「こんな文字があるのか」というだけでも面白いのですが、そこは松さん、それぞれについている紹介文というか解説文が大変楽しい。
たとえば「パスパ文字・モンゴル文字」の項では
流れが変わったのはモンゴルの英雄である白鵬、じゃなかったチンギス・ハーンが現れ、周辺の諸民族を次々と征服し、大帝国を作り上げてから。 (P23)
さて、それから時は過ぎ、第70代横綱に日馬富士が、じゃなかった第5代皇帝にフビライ・ハーンが就任。 (P23)
といった具合で、相撲ファンの心を大いにくすぐってくれます。
グルジア文字のところでは栃ノ心の名もしっかり出て来るし、松さんは実は相撲好き?と勝手な親近感を抱いてしまいます。
ロシア文字の「Ъ」ミャフキー・ズナーク(日本語では「軟音記号」)の発音を説明するのになぜか京本政樹さんが出てきたり。
「犯人は京本政樹だ」と告発しようとして、「犯人はき」と言いかけたところで京本政樹にナイフで刺されたら、まぁ近い音になるかと思います。 (P144)
肩ひじ張らずにというか、あまりにくだけすぎな感じですらすら読んじゃえるんですが、それでいて実はしっかり文字に対する考察もあって、「単語の切れ目をどう表現するか」「母音をどう表現するか」、世界の文字がそれらの課題にどう対処しているのか、翻って日本語は――と考えることができます。
単語の切れ目、そりゃ「わかち書き」だろ、って思うんですが、日本語、わかち書いてませんね。
単語 の 切れ目
とは書きません。
「This is a pen」と単語の間にスペース入れるのは当たり前、ローマ時代のラテン語碑文がずらずら続けて書いてあるのを見ると「なんでスペース入れねぇんだよ!わかりにくいだろ!」と思ってしまうんだけど考えたら俺も日本語の文章にスペース入れてなかった。
インドのデーヴァナーガリー文字のあの「横線」が「単語ごとに引く」、つまりは「単語の切れ目を表すために引く」ものだと知ってびっくり。手書きの時はともかく、フォントはどうなってるんだとか考えてしまいます。
日本語は助詞があるからとか漢字仮名交じり文だから、とか言い訳したくなりますが、小学校低学年の全部ひらがなの教科書、中途半端にぽつぽつ漢字が入っている文章、めっちゃ読みにくいですよね……。てか1年生のこくごの教科書、最初の方、単語ごとにわかち書きっぽくなってる気がしなくもない。
「母音をどう表現するか」ってところでは、そもそも母音を表記しない文字(言語)もけっこうあるらしいんだけど、「tks」が「たかし」か「たけし」か「タクシー」かわからなくてなんで大丈夫なんだろう。
日本語の「かな」は子音と母音を1文字で表す「音節文字(シラバリー)」で、このタイプの文字、実は非常に少ないのだそうな。かな文字の他にはアメリカ先住民族が19世紀初頭に作り出したチェロキー文字とあといくつかだけと。
音節文字だと文字数が多くなるので非効率と言えば非効率だけど世界には漢字だけという国もあるからなー。
日本語のかなで子音を表すのは「ん」と「っ」だけというのも「へぇぇぇぇぇ!」だし。
「へぇ」というか、そういう考え方普段しないもんね。子音とか母音とか、なんで区別するの?ぐらいな意識。
上で紹介した「ミャンマー文字」や「オリヤー文字」、つい「これ文字なの?」と思ってしまうけど、「かな」だって初めて見た人にとってはきっと「これ文字なの?」でしょう。「あ」とか不思議な形だよね。じっと見てるとゲシュタルト崩壊起こすよね……。
『声に出して読みづらいロシア人』とともに超お勧めです。中学校の図書室にも置いてほしい。小学生でも高学年なら読めるのでは。かつて松さんが取り組んだように、「俺だけの秘密文字!」とか作ってる小学生&中学生に届け。
0 Comments
コメントを投稿