1月5日の15時半公演を観てまいりました。
一般前売りでのチケット争奪戦、やっとサイト繋がったと思ったらほとんど残ってなくて、「△」になっている日もいざ選択してみると「ご希望に添えません」となり、「キーーーッ!」となりながらやっと確保した席。(もちろんいつも通りB席です)

お正月の5日から宝塚なんて縁起がいい、でも雪が心配、電車止まりませんように、と年末からお天気ばかり気にしていたら。

当日の朝になって、一緒に観劇するはずの母から「風邪ひいて具合悪い。残念やけど今日はやめとくわ」と悲しい電話が。
ええええ……。
このご時世、ちょっとでも具合が悪ければ外出は取りやめるのがマナー、そもそももう80歳なので無理はしない方がいい。とはいえあまりに残念すぎる(涙)。

具合が気になるので観劇前に実家に様子を見に行ったら思ったより元気で、熱もなく、コロナでもなさそうで安心したけど、よりによってなぜ今日(´Д`) 一番残念なのは母自身だけど、なんだか観劇前にどっと疲れてしまいました。
滋賀からぎゅいーんと兵庫県三田市まで行って、宝塚まで戻って……。はぁ、もっと宝塚に近いところに住みたい


気を取り直して宝塚大劇場、『うたかたの恋』です、柚香さんのルドルフです!

柴田侑宏先生作の『うたかたの恋』、初演は1983年の雪組。1993年に星組で再演があり、その後全国ツアー等でたびたび上演され、今回30年ぶりの大劇場での再演
私は1993年の星組版(麻路さきさん主演)と2006年の花組版(春野寿美礼さん主演)を観ています。
2006年の時の感想は『うたかたの恋』花組版と星組版という記事に書いてあるのですが、読み返すと「春野ルドルフなら一人で死ぬべき」とか、好き勝手言ってますね、ははは。正直あの時の花組版、あんまり面白いと思えなかったんですよね。アンニュイな春野さんルドルフ、美しくはあったんだけど、なんか、退屈に感じてしまって。

マリコさん(麻路さき)ルドルフとあやちゃん(白城あやか)マリーの印象がまだまだ鮮烈だったせいもあるし、地方公演と大劇場公演との人数やセットの違いも大きかったのでしょう。
なので今回も柚香さんルドルフは楽しみだけど、お話自体はどうかな?と思っていたのです。

杞憂でした。

なんか最初からずーっとピリピリと張り詰めた緊張感があって、最後までそれが途絶えずに面白く見られました。
今回小柳奈穂子先生の「潤色/演出」ということで、「時代変化に伴い、台本、演出ともに手を入れて」らっしゃるらしく、それが良かったんでしょうね。どこがどう変わってるのか、全然わかりませんでしたけども(^^;)

2006年版の感想に「劇中劇で「ハムレット」を演じるところが春野さん的には一番の見せ場」と書いているけど、今回柚香さんルドルフはハムレットを演じません。劇場で上演される「ハムレット」を観ているだけです。
では柚香さんの見せ場はどこかと言うと――

全部です!

最初から最後まで全部柚香ルドルフのためにあるお芝居でした。他のキャストさんが目立たなすぎて可哀想なぐらい。
軍服姿が美しいのはもちろん、やさぐれ感がたまらないんですよ~。
エリザベートと皇帝フランツの息子であるオーストリア皇太子ルドルフ。ミュージカル『エリザベート』では「今日も猫を殺した~♪」などと言ってトート閣下に「おやおや、この子は」という眼差しを向けられている困ったお坊ちゃん。
自身の立場に倦み疲れ、その憂さを女遊びで晴らす日々。しかし遊び相手の女も実は政敵のスパイだったりして、心安まることはない……。

その、疲れて傷ついてる感じがなんともいいんですよね、柚香ルドルフ。だからって女々しく弱音を吐く坊やではなく、ちゃんと「大人の男」で、「疲れた大人の美形」というキャラクターが実にいい。

春野さん版を観た時は「マリコさんの青さの残る若々しいルドルフの方が良かった」と思ったんですけど、実はあちらの方が例外的で、『うたかたの恋』のルドルフは本来こういう「大人の男」だったんだと思ったほどでした。

演者が違えば「役」の見え方、お話そのものの雰囲気も変わってくる。お芝居の面白いところですよねぇ。

そんなルドルフの前に、純粋無垢な男爵令嬢マリーが現れる。一方的に皇太子ルドルフに憧れていたマリー、まだちゃんと会ったこともないうちから――遠目にその姿を見かけただけで彼の哀しみを理解していた。社交界にデビューしたばかりの可憐な少女、その溢れんばかりの若々しさ、自分に向けられる優しく熱いまなざし……ルドルフが惹かれるのも無理はありません。

また星風まどかさんのマリーがいいんですよ。
「ルドルフおたく」的なところのある、ちょっと「推し愛」が強すぎるような女の子、でも星風さんのマリー、愛らしいのにすごく包容力があって、途中ルドルフが彼女の膝に縋って「君なしではとても生きていけない」みたいに言うところ、まるで聖母マリアのようで。

なんか、「マリーの存在がルドルフを支えてる」っていうのがすごく伝わってくるんですよね。
マリー、「私たちに将来なんてあるのでしょうか」って、ちゃんと自分達の関係が正式には認められないものであることをわかっていて、「憧れの王子様に目をかけられて舞い上がってる女の子」では全然ない。
ルドルフの抱える傷、哀しみを理解して、まるごと彼を愛し、包み込んでいる。マリーはまだ10代で、ルドルフとは10歳以上離れているはずだけど、マリーの方がルドルフを支えているんだよね。そのことが、星風さんのマリーを見ているとひしひしと伝わってくる。

だから、皇帝フランツが二人の仲を裂こうと「マリーを修道院へ」と決定した時に、ルドルフが心底絶望して「死を選ぶ」になるのもむべなるかな、しょうがないね、という気持ちに。

調べるとマリー・ヴェッツェラ嬢は1871年3月生まれ。マイヤーリンクでの事件は1889年1月で、18歳の誕生日を迎える前に死んでしまっているわけで、いくら彼女なしでは生きられない、彼女もルドルフと離れる気はなかったとしても、ルドルフの決断は――彼女を巻きこんだことは、あまりに自分勝手だと思わないこともない(^^;)
ルドルフは1858年8月生まれで、亡くなった時は30歳。30歳の男が17歳の娘に依存して心中したんだよね……。(※史実的には心中なのかどうか諸説あるらしいです、念のため)

でも春野さん版の時は「このルドルフは一人で死ぬべき」と思ったのが、今回は「ああ、こうなってしまうか…」と納得したので、それだけ柚香さんと星風さんのお芝居が素晴らしかったってことですよね。
結末は知ってるし、お芝居の冒頭でもう「この時2人はすでに死を決意していたのだ」みたいに言われるので、見ている方も「死」に向かってずっと神経をすり減らされる感じで……。

幕開き、いきなり大階段に主役の2人がいて。
そこから一気に華やかな舞踏会のシーン。「美しき青きドナウ」か「皇帝円舞曲」か、ちょっと忘れたけど有名なワルツに乗せて。ここのオーケストラ、たぶん録音で、「あれ?また録音音源になっちゃったの?」と思ったけど、他の場面ではちゃんと生演奏だったかと。オケピットが地下(?)に潜って、指揮の先生のお姿も見えにくくなってしまって、「あれ?」と思ってしまいました。

その舞踏会は2人の最後の舞踏会。皇帝フランツがルドルフの願いを聞き入れ、マリーを出席させてくれた。そこから二人の出会いに遡っていく構成。

皇帝フランツは峰果とわさん。昔見た星組版では一樹千尋お姉様、花組版では夏美ようお姉様だったので、ちょっとびっくり。もっと上級生の方がやるイメージでした。峰果さんは2012年初舞台なので…研10。柚香さんより下級生なんですよね。「厳しい父」を好演されていました。

エリザベート皇后は華雅りりかさん。2008年初舞台で、この公演で退団されるとのこと。あまりに有名な美貌の皇后役ですが、マリーとの場面、とても良かったです。美しく凜として、ルドルフのことを気遣いながらも心を通わせられない、哀しい「母」としてのエリザベート。

二番手男役水美舞斗さんはルドルフの従兄弟、ジャン・サルヴァドル。ハプスブルクの人間でありながら平民の恋人を持ち、その生き方をルドルフに憧れられる人物ですが……あまり印象の強くないキャラクターなんですよねぇ。狂言回し的な立場で、そんなに見せ場があるわけじゃなくて……。だからこそ力量が問われる役かもしれない、でももう観てからだいぶ経っちゃったこともあって、ほんとに印象が……。

水美さんだけの話じゃなくて、ルドルフとマリー以外の役は全部モブっていうか…。三番手で、次からは二番手になるのだろう永久輝せあさんのフェルディナンド大公も「ふーん」って感じだった(^^;) フェルディナンドもルドルフの従兄弟で、やっぱり身分違いの恋人がいて、そのことを盾に叔父フリードリヒ公爵からルドルフを追い落とせ!と焚きつけられる。公爵はフェルディナンドを皇帝の座につけたいと考えていて、「皇帝になる以外、彼女との恋を成就する術はない」などと脅すわけです。
ジャン・サルヴァドルよりは葛藤がわかりやすい、お芝居しやすい役だし、永久輝さんは声が独特で、同じような軍服姿がいっぱい並んでいても、B席からでも声ですぐわかる。
あの声は武器ですよねぇ。

四番手(?)星乃あすかさんはルドルフの馭者ブラットフィッシュ。マリーに「馭者は喋りすぎるし、従僕は何も喋ってくれないし」などと言われる役どころ。従僕ロシェックとともに悲劇の中でくすっと笑わせてくれる、元気のいい青年。マイヤーリンクへ向かう場面のロシェックとのやりとりが良かったです。

寡黙なおじいちゃん従僕ロシェック役は航琉ひびきさん。ひょうひょうとしたおじいちゃんっぷりが素敵で、主役2人の次ぐらいに印象強かったですw これも昔の星組版では鞠村奈緒さんという大ベテランのお姉様が演じてらしたので、航琉さんすごいな、と思いました。さすが副組長さんだけど、柚香さんの2期上なだけですもんねぇ。

娘役さんでは酒場の歌姫マリンカ役の咲乃深音さんの歌が良かったです。ロシア語でルドルフに声をかけて、「ロシア語はわからん」「――お気の毒に」っていうやりとり、「この場面覚えてる!」ってなりました。昔の星組版ではタキちゃん(出雲綾)がやってたマジ歌姫の役ですよ~。しかもマリーと同じくルドルフの哀しみ苦しみを理解している役なのよねぇ。出番少ないけど。

ルドルフとマリーの間を取り持つラリッシュ伯爵夫人(エリザベートの姪でルドルフの従姉妹)、朝葉ことのさんは出番多くて印象に残りました。2017年初舞台ということで……まだ研5? そんな下級生とは思えない堂々たるお芝居でした。

で。

ショーENCHANTEMENT』の方もカラフルで、音楽も馴染みのある曲が多くて、リズムの効いたアレンジも好みでなかなか良かったんですが……もうあまり記憶がない……。ううう。
プロローグのあと、すぐラインダンスがあって、このラインダンスが非常によく脚が上がって、見応えありました

続く第3章では聖乃さんが女役で水美さんと絡む。聖乃さん綺麗だったし、「亡き王女のためのパヴァーヌ」のボレロアレンジというか、ボレロとミックス?したみたいな音楽が良かったです。好み♪

男役さんたち勢揃いで「真夜中のクラブで色気を競う男たちの熱いダンスバトルが始まる」という第7章「Musk(ムスク)」の場面は本当に皆さん格好良く。
セットにどーんと鹿の頭像があるのがすごい気になったんだけど、あれ、「ムスク」だからだったんですね。後からプログラム見て気づいた(^^;)

演出の野口幸作先生がプログラムに「1990年代前半に伝説となった「ダンスの花組・令和バージョン」を狙いたい」と書いてらっしゃる通り、全編通してみんないっぱい踊らされてて、群舞も多い印象で、楽しかったです。

柚香さんは歌が少し弱い気がするけど、お芝居も歌の雰囲気も、なんかトドちゃん(轟悠)を思い出しました。声質というか……。柚香さんの方が台詞が自然だけど(トドちゃんのセリフ回しはすごく癖があると思う)、素晴らしい美貌と、見た目よりも声が低めで「大人のお芝居」ができて、「色気」がすごい感じが、全盛期のトドちゃんに似ているような。

「声が武器」の永久輝さんは歌唱力も高くて、矢代鴻お姉様を彷彿とさせるなぁと。声が似ている気がする。矢代お姉様の歌、好きだったんですよねぇ。

この公演を最後に水美さんが専科に行かれるということで。水美さんと柚香さんは同期なので、水美さんの今後どうなるかとは思ってましたが……。
「1990年代前半の伝説のダンスの花組」では、二番手だったルコさん(朝香じゅん)が退団、ヤンさん(安寿ミラ)が二番手1公演だけでトップになったんですよね。ヤンさんも大好きだけど、ルコさんも好きだったから退団と聞いた時はショックでした。水美さんは退団ではなく今後も男役姿が見られるけど、ファンの方にとってはやっぱり複雑でしょうね。


ともあれ30年ぶりの大劇場での『うたかたの恋』、とても良かったです。改めてシメさん(紫苑ゆう)のルドルフが見られなかったことが残念になったし、紅さんのルドルフはどんな感じだったのかも大変気になる。柚香さんルドルフで「疲れた大人の男」が本来と感じたけど、紅さんルドルフ、明るさを隠せないのでは???

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