(※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください)


7月12日の13時公演を観てまいりました。いつものごとくB席観劇です。

オペレッタ・ジャパネスクと銘打たれた『鴛鴦歌合戦』、予想通り他愛のないお話で、わかりやすくて、日本物ショーの雰囲気もあって、楽しかったです。

もとは1939年に公開された日活の時代劇オペレッタ映画。主演の片岡千恵蔵さんは知っているけど、さすがにそんな古い映画を観たことはありません。でも『狸御殿』とか、美空ひばりの出てくる時代劇ミュージカル映画とか、ああいう感じなのかな、と思って期待していました。

音楽(歌)も映画のものが使われているのだとか。ちょっと古めかしい、懐かしい感じが良かったですね。若い人にはどう聞こえたのか気になりますが。

幕開きはいわゆる日本物ショーの「チョンパ」形式、幕が開くと華やかな着物姿のスターさん達と色とりどりの番傘が並び、思わず「わぁ」と声が出ます。
ヒロインが傘貼り内職をしているので「傘」は色々な場面で出てくるのですが、とてもいい小道具になっていて、素敵でした。

星風まどかさん演じるヒロインお春父親の狂斎と長屋で2人暮らし。前述のとおり傘貼り内職で生計を立てているのですが、働いても働いても、骨董狂いの父親がお金を全部怪しげな骨董につぎ込んでしまい、毎日「麦こがし」しか食べるものがない。
「麦こがし」がどういうものか食べたことないですけど、人間って「麦こがし」だけで生きていけるもんなんですかね。栄養失調甚だしいと思うけど(^^;)

お春は隣に住む浪人、柚香光さん扮する礼三郎に恋心を抱いているのだけど、礼三郎には叔父の娘・藤尾という許婚が。今日も叔父が「早よ祝言を」とせっつきに来て、お春は気が気ではない。
さらに礼三郎に熱を上げる大店香川屋のお嬢さんおとみも長屋に日参。モテてモテて仕方のない礼三郎なのだけど、本人はのらりくらりとかわすばかりで、本心が知れない。どうも彼の方もお春のことを気に入っているようではあるのだけど……。

星風さんがやきもきして「ちぇっ!」って言うのが本当にキュートでいいんですよねぇ。「お父さんのバカ!大嫌い!!」と言ったり、「ちぇっ」も何度も出てくるんだけど、それがちっとも下品じゃなくて、汚く聞こえない。どころか可愛らしくて、彼女が「ちぇっ」と言うたび客席からほっこり笑いが起きる。

間(ま)も素晴らしいし、歌も良いし、星風さんの巧さでお芝居が進んでいく感じです。

浪人姿の柚香さんは本当に格好良くて美形で、「女がほっとかないのも無理はない」「そりゃライバル多いわ」って納得なんですけど、役としてはあんまりしどころがない。プログラムで作・演出の小柳奈穂子先生がおっしゃっている通り、「受け身の辛抱役」で、自分から何か行動を起こすということはほとんどなく、「あんたがはっきりしないからこんなことになってんじゃない!」とイラッとさせられたりもします。

でも「はっきりしない」のは相手を傷つけたくないからなんだろうなぁ、平和に平穏に、仲良く慎ましく生きていきたいんだろうなぁ、という人柄もにじみ出るお芝居。
柚香さん、見た目の印象よりも声が低めで男っぽいので、こういう飄々とした大人の男も意外にハマる。なんせ元は片岡千恵蔵の役なんだもんなぁ。

一方、藩主の峰沢丹羽守も、お春の父と同じく骨董狂い。これは静御前の鼓、これは敦盛の笛、などと家臣たちに自慢している。(しかし残念ながら偽物)
ここでバックに平家武者源氏武者が出てきて再現ドラマよろしく「敦盛」のくだりをやるのが面白かったし、ほわぁんとしたお芝居の中でちょっとした見せ場になってました。「わざわざ武者の衣裳、大変」とか思っちゃった。全体的に衣裳や小道具など力入ってて良かったです。

藩主役は永久輝せあさん。昔の映画ではディック・ミネさんがやっていらしたそうで、「へぇぇ」と思いますが、ちょっとバカ殿っぽいコミカルな役を永久輝さんが好演。こういう永久輝さんを見るの初めてで、新鮮でした。

しかし藩主がまつりごとをおろそかにしてバカをやっているのには実は理由があるのだ、と家臣たちに秘密を打ち明ける奥方、麗姫
かつて家中では跡目争いがあり、その時に丹波守の兄である赤ん坊がさらわれ、「世継ぎの証」となる「鴛鴦の香合」も行方がわからなくなってしまったのだと。麗姫は家臣たちに「香合」を探せと命じ、「もし行いを改めないなら世継ぎの証、鴛鴦の香合は弟の秀千代君に与えると殿を脅すつもりだ」と言います。

今書いていて、奥さんがそういう脅しをするの、有効なのかな?と思いましたが(藩主の権力の方が上なのでは)、ともあれ家臣たちは失われた香合を求めて例の、狂斎の行きつけの骨董屋、六兵衛の店にも足を運びます。

六兵衛は「そんな香合は聞いたことないなぁ」と言うのですが、お芝居を観ている観客としては「なるほど礼三郎がさらわれた赤ん坊で、香合も彼の周囲にあるのでは?」と予想がつく。

そして案の定、礼三郎は落ち込んでいるお春を慰めるために、自分がお守りとして持っていた香合を渡すのですね。これを持っていればきっと大丈夫だからと。

とはいえ礼三郎自身はその香合が「藩主の家に代々伝わるもの」だとは知らない。自分が藩主の兄だなんてことも知らない。

父親の骨董狂いを嘆き、「お父さんなんて大嫌い!」と言うお春に、礼三郎は「そんなことを言うもんじゃない」と自身の身の上を聞かせます。
自分の父は本当の親ではないこと。捨てられていた赤ん坊の自分を拾って育ててくれた父を尊敬していること。自分とともに拾われた香合を「お守り」として大事に身につけてきたこと。

礼三郎は藩主の母、蓮京院(演:京三紗さん)が尼となっている山寺の境内で子どもたちに剣術の稽古をつけていたりして、蓮京院とは父親の代から知り合いらしいのですが、お互いに「実の母子」とは夢にも思わず交流していたわけです。

礼三郎と娘・藤尾を結婚させたがっている叔父・遠山満右衛門は藩主の側近くに仕えている家臣なので、礼三郎の亡き父も由緒正しい武家の人間のはずなのに(家を継げなくて貧乏浪人だったのかもしれないけど)跡目争いのことも香合のことも何も知らなかったのかなぁ。
まぁ家臣たちが何も知らなかったからこそ、麗姫が「殿の秘密」として香合の話を持ち出すんだけど。

そうこうしてるうちに藩主は骨董屋繋がりで狂斎と知り合いになり、お春のことを見初めてしまう。藤尾と礼三郎を結婚させるためにはお春が邪魔、と考えた遠山の策略もあって、お春親子は大ピンチに陥ります。

ここ、骨董屋がめちゃくちゃひどいんですよね。
藩主がとある掛け軸を目に留め、骨董屋はそれを50両で売る。で、藩主はその掛け軸を狂斎に下賜する。
細かいところは忘れちゃったけど、遠山たち家臣は「お春を側女として藩主に差し出せ」と言って、狂斎が「そんなことはできない」と断ると、「じゃあその50両を返せ」と脅す。

骨董狂いで娘を嘆かせてる狂斎だけど、娘が礼三郎に惚れていることはちゃんとわかっていて、たとえ贅沢な暮らしができるとしても、娘の意に反してお城に上げることはしない、そこは「良い父親」なんですよねぇ。

「50両返せ」と言われて、「掛け軸を売ればすぐに50両戻る」と思った狂斎、骨董屋の六兵衛に買い取りに来てもらうも、六兵衛しれっと「あ~、売ったあとでこれ偽物だとわかったんですよね、せいぜい3両ってとこですね」と。
これまでけっこうな高値で買わされてきた他の諸々の骨董もすべて二束三文。詐欺じゃん、悪徳業者じゃん!

これで怒らずに「ええっ、そんな…どうしよう」ってなってる狂斎、人がいいというかなんというか。
六兵衛、藩主まで騙して偽物を高額で売りつけてるんだから、とっつかまってもいいと思うんだけど、ともかく狂斎とお春は「こうなったら夜逃げしか」と追いつめられてしまう。

そんなお春のピンチに礼三郎はどうしてるかっていうと、おとみの誕生日祝いか何かに拉致られて、身動きが取れない。まさに「拉致」られる、という感じで無理に連れていかれた上、おとみは丁稚の三吉に「もしもお春さんが来たら、私と礼三郎さんの婚約祝いだから、って言うのよ」などと言いつける。

心優しい三吉は「ええっ…」と思いつつも、お春がやってくると言いつけられたとおり「お嬢様と礼三郎さんは婚約されました」と伝える。お春は「じゃあこれを礼三郎さんに返しておいてください」と例のお守りの香合を三吉に託す。

礼三郎は三吉から香合を受け取り、「お春さんに何かあった」と気づいておとみのもとを辞そうとするのだけど、おとみはなんとしても礼三郎を引き留めようとして。

「いい加減になさいまし、お嬢様っ!」

と、そこで突然の三吉の見せ場。そこまでもお嬢様の言動にやきもきしてるっぽい描写はあったのだけど、ここでいきなりおとみを諭して、最終的におとみ♡三吉になるという。

三吉役の天城れいんさんは新人公演で主役礼三郎を演じるらしく。期待の若手男役さんなんですねぇ。

で、三吉のおかげで礼三郎は香川屋をあとにすることができ、丹波守の家臣団に捕まえられそうになっているお春と遭遇、番傘使ってチャンチャンバラバラ。ここの大立ち回りは見応えありましたね。格好良かった。着流しからのぞくおみあしの色気~。傘での二刀流というのも良い。
礼三郎、ここが一番の見せ場だもんね。

お春に礼三郎、家臣団、殿様、麗姫、おとみに藤尾、殿の弟・秀千代、蓮京院など登場人物勢揃いになったところで「鴛鴦の香合」と礼三郎の正体が明らかになり、「あ、兄上!?」[は、母上!?」ということに。

兄弟はともかく、母子はそこそこ涙の再会ぽいところ、「こんないい男に育っているなんて」と笑わせてくれる蓮京院様。
本当の世継ぎ、真に藩主になるべきは礼三郎――なのだけど、「今さら堅苦しいお城勤めなんて」と固辞する礼三郎。しかも、狂斎家のあの「麦こがしの壷」が大層な値打ちものだったとわかると、一緒に喜んでくれるかと思いきや「金持ちは嫌いだ!」「もうこの長屋にもいられない」とお春のもとから去ろうとする。

え?
何その展開。

「金持ちは嫌いだ」は原作映画にもあるらしく、親の借金に苦しんだマキノ正博監督の心の叫びだったのでは、とプログラムに書いてありますが、あれだけ「麦こがしばかり、お米にありつけない」と嘆いていたお春がやっと人並みの暮らしができるようになるのに、もうちょっと喜んであげても。

まぁ当のお春は「礼三郎さんに嫌われるくらいならこんなもの!」とあっさり壷を割ってしまうんですけどね。いや、なんというか、肝が据わってるなぁ、お春ちゃん。

かくして礼三郎とお春、おとみと三吉、そして藤尾と秀千代、殿様と麗姫、それぞれのカップルがハッピーエンド。
もともと城下で開かれるはずだった「鴛鴦歌合戦」が中止になったかわり、礼三郎とお春の婚礼がにぎにぎしく催されることになり、ラストは音楽に乗せてキャストが次々にステージに現れる「バウ公演のエンディング」方式。
ここの礼三郎とお春の衣装がまた派手で素晴らしく

今日もお江戸は日本晴れ、といった感じの大団円(江戸じゃないけど)。めでたしめでたし。

途中ちょっとテンポがゆっくりすぎるなぁと思った部分もあったけど、たわいのないお伽話、楽しかったです。

三吉やら六兵衛やら家臣団やら、主役以外の登場人物たちが色々元気で、たくさん役があって、組子の皆さん、やり甲斐あっただろうなぁと。
六兵衛役の航琉ひびきさん、狂斎役の和海しょうさん、麗姫役の春妃うららさんは今回で退団ということで残念ですが、軽妙なお芝居、良かったです。

しかしその分、秀千代役の三番手・聖乃あすかさんは印象が薄かった……出番少なかったのでは……。

ショー『GRAND MIRAGE!』岡田敬二先生のロマンチックレビュー22作目。幕開きから衣装が紫のグラデーションで、色使いがいかにも岡田先生らしい。主題歌も「これなんか聞いたことある」感じの、懐かしさを感じる吉崎先生のメロディーで。

うーん、悪くはなかったけど、ちょっと退屈だったなぁ。全場面、衣装の色合いはきれいだったし、群舞もけっこうあったはずなんだけど(観てから2週間以上経ってしまったのでもう記憶がさだかでない)。

中詰めは大好きな「シボネー」だったのに、なんか盛り上がらなかった。なんでだろう…。

セットは簡素な印象だった。お芝居の方に予算取られたのかしら。お芝居の最初のチョンパや最後のキャスト総出演で色とりどりの着物と番傘、の方が好みで、相対的にショーを退屈に感じてしまったのかもしれない。

謝玉栄先生振付の第5章「夜の街の幻影」はスーツ姿の男役さん達が大人っぽくて格好良く。
そういえば「男役燕尾の大階段」が今回なかったような。

大階段での柚香さんと星風さんのデュエット、歌が永久輝さんの「So In Love」でとても良かった。前も書いたと思うけど、永久輝さんの歌声、矢代鴻お姉様を彷彿とさせて好き。

第7章「ボレロ・ルージュ」の振付は羽山紀代美先生なのだけど、この公演のお稽古中、6月10日に78歳で亡くなられたそうで。毎公演のように振付でお名前を拝見していたので、とても寂しい。プログラムに書いてあるのを読むまでご逝去のことを知らなくて、「もっとしっかり第7章見れば良かった!」と後悔。

お芝居ももう1回観たいし、NHKさん、舞台中継してくれないかなぁ。