(※以下ネタバレあります。これからお読みになる方はご注意ください)

5/28から6/11までサンファン電子書籍割引セールが実施されたので、色々(というほどでもない)買って読みました。ニトロプラス様、太っ腹なセールありがとうございます♡


まずは「外伝小噺」。映画『最終章』の入場特典だった凜雪鴉篇&殤不患篇を1冊にまとめたもの。殤不患篇『流刀縁起』は劇場でGetできたのですが(感想はこちら)、大大大好きな凜様篇は手に入れることができず、涙にくれておりました。読めるようにしてくださって本当にありがたい。

凛様篇『骨董問答』は凜様と廉耆先生の出逢いを描くもの。廉耆先生の来歴については1期のノベライズ『東離劍遊紀 上之巻 掠風竊塵』でも言及されていました。曰く、“将来を約束された身の上でありながら、骨董を巡るいざこざで上役を斬り殺して江湖に落魄した風流人”。剣客としても名を馳せる彼が、五年の逃亡生活の末、とある地方に工房を構えて三年。

美しい貴公子が、「弟子にしてほしい」とやってくる。

もちろんそれは凜様。最初からきちんと名を名乗り、自らが「掠風竊塵」と呼ばれる悪党であることも明かして、「江湖一番の魔装具師である廉耆先生に教えを請いたい」と言うのです。

ここですぐ断らないのが廉耆先生の「面白がり」なところだなぁ、と思うのですが、巷で噂の怪盗が目の前に現れたら、まぁちょいと腕前拝見、という気にはなりますよね。その上で「100年早ぇわ!」と彼我の差を見せつけて追い返してやればいい。

弟子入りの試験として廉耆先生は「贋作造り」を課し、凜様の作った見事な贋作はことごとく廉耆先生に見破られます。その場はあっさり引き下がったかに見えた凜様、しかしもちろん凜様が獲物をそう簡単に諦めるはずもなく――。

凜様の手管に引っかかり、弟子入りを諾う廉耆先生。著者の分解刑さんが「志村、うしろー!」という気持ちで書いたとおっしゃってましたが、読んでいて頬がつい緩んでしまう楽しさ。凜様自身も「口の端がひくつくのを必死で抑えた」と描写されています。うぷぷ。

殺無生や刑亥ちゃんへの仕打ちに比べれば、廉耆先生への策略はずいぶん生ぬるいんですけど、廉耆先生の誇りを完全に打ちのめしてしまったら、その「技術」を伝授してもらえなくなるんですよね。「ほどよいところ」で抑えて、まんまと廉耆先生を下僕のようにしてしまうの、さすがは掠風竊塵でございます。

しかし最後に「廉耆が報いを受けるのは十年よりもさらに後のこと」と書いてあって、またしても「凜様は一体いくつなの!?」問題が。1期の十年以上前にすでに「掠風竊塵」として名高かった。さすがに怪盗歴数年ではそこまで名が通らないと思うので、1期の20年前ぐらいには盗みを働き始めていたとすると……。かのアルセーヌ=ルパンも最初の盗みは6歳とかそんなだから、凜様も5歳くらいから盗みを始めて、10歳の頃には「宝石とか盗んでももうつまんないな」と達観してておかしくないですけども。



お次は『生死一劍』のパンフレット。私がサンファンにはまった時にはもう『生死一劍』の上映はとっくの昔に終わっていたので(※公開は2017年12月)、映画館では観られていないんですよね。2020年、コロナ禍が始まった時にHuluの無料体験で見たっきり。

なので、後半に「殤不患篇」があったこともすっかり忘れていました。殺無生が可哀相だったことしか覚えてない。

3期4期とどんどん続いていくとはまだ思いもしなかった頃の作品なので、キャストコメントも初々しく(笑)。凜様の中の人、鳥海さんが「凄く好きな役なのでまた演じることができて嬉しい」とおっしゃっていて嬉しい。鳥海さんが凜様の声で本当に、本当に、良かったですよねぇ。別の声の凜様なんて考えられない。いいお声すぎる。

殺無生の声、檜山さんのコメントが読めるのもありがたい。

そして虚淵さんと、ニトロプラスのデザイナーさんお三方による座談会。殺無生や凜様の名付けの裏話とか、もちろんデザインの話なども興味深く。

何より。

「殺無生篇」のもとになった外伝小説のお話にびっくり。先に小説があってそれを映像化したって、全然知らなかったんですよね。いや、小耳に挟んだことはあったかもしれないんだけど、小説には「殺無生篇」と「刑亥篇」があって、刑亥篇はどうもお色気過多なお話らしいと知り。

刑亥と凜様の因縁を描くお話がお色気話ってどういうこと?? 読まなきゃ!ということで、外伝小説もお買い上げ。



 Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 外伝
 江波光則, 手代木正太郎,虚淵玄 | 2025/2/21

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いやぁ、面白かったです。買って良かった!

まずは「殺無生篇」。映画を観たのはもう5年前、詳しいことをあんまり覚えていない上に、小説ならではの「殺無生の心情」がたっぷり描かれていて、改めて「凜様ひでぇっ!」ってなりました。でもそこがいい()。

だって凜様、殺無生と3年も一緒に旅をしてるんだよ。用心棒として殺無生を雇って、すっかりその心の鍵を開けてしまったあとで、あの仕打ち。殺無生は凜様のことを「友」と思い、「暗い人生に差し込んだ一条の光」とさえ思っていた。生まれ落ちたその時から周囲に「死」をまき散らし、暗殺者として日の当たらぬ世界に――暗闇に生きてきた。でも「掠、おまえのおかげで、おまえとともに、俺は新しい人生を始められる」。

「掠」呼びまでしちゃってるんだもん、ほんと、いくらなんでも心を許しすぎだろうと思うんだけど、まぁ、それだけ凜様の手管が凄かったということなのでしょう。3年もかけてるんだもんなぁ。

なにかおかしい、いつの間にか本心をさらけ出し、操られているように感じる――でもきっとこれが「心を許す」という感覚なのだろう、なんて述懐する殺無生。ああ、もうほんと、「志村、うしろうしろー!」って感じですよ。すっかり手玉に取られてしまって。

「楽しいものだよ、他人の錠前をこじ開けて中身を覗くのは」と、凜様ずばり言っちゃってるんだけど、よもやそれが自分の心だとは思いもしないのよね。

最後、手ひどく裏切られ、凜様のすげない言葉に心を――心の臓をぐいぐいと抉られていく殺無生。「友だと思っていたのに」「光だと思っていたのに」という心の叫び。噛み殺すほかない、「行かないでくれ」という言葉。

ああ、殺無生、なんと哀れな子よ……

「殺す。殺す。殺す。掠風竊塵と縁を結んだものはことごとく殺す」――激しい呪詛は愛情の裏返し、それほどまでに殺無生は凜様を信じ、好いていたんだよねぇ。ラストシーン、身も心もズタズタになって、ただ一人暗闇の中で友と信じた者の名を叫び続ける殺無生。ああああ、ほんとに、たまらんな……。

で。

これほどの因縁を踏まえて、1期でしれっと「仲間に加われ」と殺無生を誘えちゃう凜様、ほんとに人の心がない。すごい。

凜様の心情もそこそこ描かれているんだけど、凜様にとっては殺無生が「幼く」見えていた、というのがとても「なるほど」なんだよねぇ。「剣の術理などもう極めた」と思って、己を「天下無双」だと思っている殺無生。凜様が実は剣の使い手だなどということにはまるで気づかず、「剣士でないおまえにはわかるまい」と言ってさえいる。

蔑天骸との一騎打ちの際に「剣の道には果てがない。そう気づいたからもうやめた」と言っていた凜様。そんな凜様の目に殺無生が「はしゃいでいるだけの至らぬ剣士」と映るのは至極当然。

考えてみれば殺無生、凜様の剣技を一度も目にせずに死んでしまったんだよねぇ。「無双」を誇った自身の剣をあっさり破った蔑天骸、その蔑天骸を剣技で上回る男、それが、凜雪鴉であったのに。

4期最終回で、魔神と化した刑亥を倒す時に凜様、「この私に本気の剣を使わせるとは。あの世で殺無生に自慢するといい」みたいなことを言うんだけど、実際あの世で殺無生、「はぁぁぁ!?」ってなってるのでは。てか凜様に惚れ直しちゃってるかもなぁ。

3期の冒頭だったかで、凜様が殺無生の墓(?)に酒を手向けていた時は、なんだかんだ凜様、殺無生のこと好きだったのかな、「最も成功した部類の獲物」だもんな、と思ったのだけど、あの世で再会した暁にはどんなことになるのやら。

さてそして。

完全初見の「刑亥篇」凜様と刑亥ちゃんのなれそめを描くお話、こちらも殺無生とおんなじくらいたやすく心の錠前開けられちゃっております。殺無生の時は3年かけてるけど、刑亥ちゃん、ほんのひと月程度で落ちちゃってない? 初心(うぶ)すぎない???

凜様に出会う前の刑亥ちゃん、孌娘子(れんじょうし)という人間の女性と懇意にしています。東離一の美女にして、稀代の好色癖の持ち主。その美貌と色香でどんな男をも蕩けさせる「歩く催淫兵器」。可憐な十代の美少女にしか見えないのだけれど、その「若さ」は実は刑亥のもたらす「霊薬」によって保たれていました。幼児の生き肝を用いて生成された「不老の霊薬」、それを半月に一度服用することで、彼女は若さを保っていたのです。

そんなことをして刑亥に何の得があるのか? 報酬として刑亥は、適宜美男子をもらっていました。孌娘子は屋敷に大勢の美男子を囲い、夜な夜な楽しんでは、飽きたら放り出す、ということをしていて、時々刑亥は「あの目が欲しい」「あの腕が欲しい」という感じで、美男子を払い下げてもらっていたのです。生き人形のパーツにするために。

かれこれ数十年そんな取引を続け、今では互いに「お友だち」と思うような間柄になっていました。そこへふらりと現れる凜様。

凜様もまた、刑亥に取引を持ちかけます。孌娘子を己に惚れさせるにあたって邪魔になる三人の男を陥れる手伝いをしてほしいと。「あの大淫婦の孌娘子を貴様一途にだと?そんなこと……」と呆れる刑亥に、「そんなことをやってのけるのが掠風竊塵」と軽々と言ってのける凜様。うぷぷぷ。

そう、殺無生の時と同じく凜様はさっさと自分の正体を明かしているのに、相手が名うての盗賊だと知っているのに(孌娘子以外には人間との付き合いなどない刑亥ちゃんの耳にもその名が轟いていたのすごい)、あっさり凜様の手管に参ってしまう刑亥ちゃん。

「私はおまえのことを可愛いと思っている」と言われ、激しく動揺、「妖魔をからかうとは!」と憤慨しながらも、丹精込めた美しい生き人形がいつの間にか出来損ないにしか見えなくなってしまっている。これではダメだ、目はもっと…髪の色はもっと……と理想を思い浮かべていくと「ハッ!これではまるで掠風竊塵ではないか!!!」

あー、もう、可愛いね、刑亥ちゃん。妖魔とは思えない愛らしい心持ちだよ。「おまえには死んでほしくない」と真顔で言われて、まっすぐに見つめられて、少女のように声が出なくなっちゃう。その美しい顔に見惚れてしまって……。

実際刑亥ちゃんって、ほんとに初心だったんじゃないかな…。妖魔としてはまだ小娘の時に窮暮之戰が起こって、そのあと人間界に留まり、人間はおろか妖魔とも交流なく一人寂しく隠遁生活を送ってきた。「人間の房事など妖魔にとってはままごと」なんて豪語してるけど、妖魔の男とよろしくやれた時期、かなり短かったのでは。

凜様がついに今宵孌娘子を抱くかも、と知らされ、胸の痛みを覚える刑亥ちゃん。可愛いにも程があるでしょう。「私とともに人の世に出よう」と言う凜様の言葉も信じてしまって……「あー、志村!うしろうしろ!!!」

全部嘘だったと知って、「では私のあの胸の高鳴りも嘘になってしまうのか?」と心にぽっかり穴が開いてしまう刑亥ちゃん。その穴を埋めることができるのは、激しい憤怒、復讐の誓い。「殺す!」「殺す殺す殺す!」――あれ、これ、さっき殺無生篇で見たのと同じ光景じゃん――。

あいつはとんでもないものを盗んでいきました。あなた方の心です。

殺無生も刑亥も、要は寂しかったんでしょうね。一人暗闇に生きて、「誰かここから連れ出してくれるものはないか」とどこかで思っていた。そこへ白馬の王子以上の麗しい見た目をした詐欺師が……。

こんな仕打ちをしておいて、1期ではしれっと刑亥ちゃんに協力要請を以下同文。「天刑劍は恩讐に勝る」であっさり味方になってくれるところは殺無生よりも軽いというか、そこはさすが妖魔の割り切りというか。

刑亥ちゃん、3期で凜様(中身は捲殘雲)にマッサージしてもらってて、人形なのにめちゃくちゃ背徳感あってドキドキしたけど、刑亥ちゃんの内心はドキドキどころではなかったのでは!?

4期で凜様の正体が判明した時にも、「大丈夫か?」と凜様の気持ちを心配したりして、本当に刑亥ちゃん、「うい奴」だよねぇ。だからこそ凜様も、「お別れだ」「あまたの楽しい思い出に感謝する」って言ったんだろうなぁ。「今度は私の側についてくれるかと思ったのに」とか。

魔宮印章をポイ捨てした責任もあったのか、凜様は「本気の剣」で刑亥ちゃんを成敗するけど、「魔神なんてつまらないものになってしまって」という気持ちもあったのかしら。「せめて私が終わらせてやろう」みたいな。

「本気の剣」と言えば凜様、孌娘子を嵌める企みの中で思わぬ伏兵に追いつめられ、しぶしぶ剣を取るくだりがあります。ひとたび剣を抜けば無双の凜様なのですが、「もはや使うつもりのなかった剣を私に抜かせ、意に沿わぬ殺生を犯させるとは」と感嘆し、「道を踏みはずさなければいっぱしの剣士として名を成していたろう」と相手の技倆を惜しむのです。合掌までして。

凜様のこの、「剣の道に関しては一家言ある」とこ、いいですよねぇ~。好き。

しかし凜様、自身の美貌についてはどう思ってるんでしょうね。孌娘子の心を盗むためにはそもまず美男子でなければダメで、まぁ、もし凜様のビジュアルがたいしたことなかったとしてもそこはそれ、例の風呂敷(?)でどんなイケメンにも化け放題ではあるのでしょうが、「女を落とす」のに自身の見た目や佇まいが絶大な効果を持つことはおそらく百も承知に違いなく。

女どころか男を落とすのにだって、「一見優男風」なあの外見は役に立ってますよね。魔王が美男子で良かったよねぇ、うん。

霊薬によって若さを保っていた孌娘子に向かって、凜様はずばり「気持ち悪い」と言いきるんだけど、自身が老い衰えることには何の不安もないのかしら。目元口元に皺を見つけてショックを受けたりしないのかな。達人は勁力によって若々しさを保てるとか、そもそも「魔王の分け御魂」なので普通の人間と同じようには老化しない可能性もあるんだけど。(そして凜様何歳問題に戻る)