ただいま4期が絶賛配信中の『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』1期のノベライズです!
「え?今さら1期のノベライズ?外伝とかじゃなく?」と思ったんですが、「もしもサンダーボルトファンタジーがゴリッゴリの武侠小説だったら」という虚淵さんのお言葉に釣られて購入。(→虚淵さんのXでの発言こちら)
いやぁ、買って良かったです。
面白い!!!
基本のストーリーはTV版と同じだし、台詞も同じで、章立て及びサブタイトルもTVと同じ。この上巻にはTV6話にあたる『七人同舟』までが収められています。
お話はもうわかっているのに何が面白いのか。同じなら、あの美しく鮮烈な布袋劇人形の映像を繰り返し見る方が楽しいのでは。
さにあらず。
小説には小説の――小説ならではの面白さがある。
文章がね、とにかくいいんですよ。虚淵さんが「ゴリッゴリの武侠小説」とおっしゃっているように、そもまず語り口が良い。
稲妻が天の底を割り、沛雨瀑布に等しく、地に落ちては濁流懸河を生ず。 (P14)
これは冒頭、1行目の文章ですが、漢文調というか美文調というか、リズムが良いですよねぇ。
刻は三更、月は十三夜月。星は満天、地に庭園。
東屋に独り、剣鬼在り。庭門に独り、浪人在り。 (P273)
熱心なファンならこれだけで「どの場面」かわかりそうですが、こういう対句的な表現も心地良く格好いい。
なんかこういう日本語を読むのすごく久しぶりな気がして、文章そのものにワクワクするし、「あー、こういうの書きたい!」って思っちゃう。
もちろんストーリーも何周しても面白く、ついこの間TV版1期を見返したせいもあって、台詞も状況も脳内再生余裕。鳥海さんや諏訪部さんのお声がページから響いてくる。
あの超絶バトルをどう文章で表現するのか?っていう部分もお見事で、分解刑さんの文章力に嫉妬してしまう。
気功(内功)の重要さがしっかり解説されていたり、映像だけ見ていてもよくわからなかった、単に剣技だけではないアクション描写になるほど、と感心したり。
そしてTV本編では描かれなかったいくつかの場面。
一行が宿に泊まる場面で、
「殤不患殿は私と同室で構わないね?」 (P140)
と言う凛様。もちろん殤不患は「絶対に嫌だ!」と断るので実現しませんが、凛様と殤不患が一室で眠るとか考えただけでも楽しい、楽しすぎる。不患ちゃん絶対一睡もできない、凛様も眠りそうにない。
断られたあとに凛様がちょっとした怪談話を披露するくだりもあり、楽しい。
と言う凛様。もちろん殤不患は「絶対に嫌だ!」と断るので実現しませんが、凛様と殤不患が一室で眠るとか考えただけでも楽しい、楽しすぎる。不患ちゃん絶対一睡もできない、凛様も眠りそうにない。
断られたあとに凛様がちょっとした怪談話を披露するくだりもあり、楽しい。
宿で丹翡が殤不患の説得に失敗したあと、凛様と語らう場面もTVにはなかったですよね。凛様ったら仙鎮城にある神誨魔械の名をすらすら唱えて、
「仙鎮城の伯陽侯とは懇意なのです」 (P179)
「仙鎮城の伯陽侯とは懇意なのです」 (P179)
などと嘘八百。
2期での仙鎮城での出来事をすでに知っているファンならクスっとなること請け合い。
殤不患が殺無生の説得に行く場面でも、「え、あんた達そんなことしてたの?」ってやりとりが描かれてますし、「七人同舟」に乗り込む前には、丹翡と捲殘雲がちょっとした事件に巻きこまれたりします。
1期の最後でめでたく丹家に婿入りすることになる捲殘雲。TVシリーズでもちょこちょこ二人のやりとりは描かれていましたが、さらに細かく、「こういう過程があったからこそ、丹翡も捲殘雲に惹かれていったんだな」とわかるようになっています。捲殘雲が狩雲霄に向ける憧れを自身の兄に対するそれと引き比べて、丹翡が共感と同時に嫉妬を覚えるくだりなど、心情描写もとても良い。
「地の文」がある小説ならではの深掘りですが、主人公たる凜雪鴉と殤不患は「正体がわからない」ことが1期の肝(キモ)なので、2人の内心を細かく描くわけにはいかない。狩雲霄や殺無生も癖のありすぎる人物、刑亥に至っては魔族だし、心情をしっかり書いて大丈夫なの、丹翡と捲殘雲しかないですよね、うん。
迴靈笛の持ち主、廉耆(れんき)先生の来歴の紹介もありました。将来を約束された身の上だったのに、上役を斬り殺して江湖に落魄したのだとか。天刑劍と聞いて「風流人の血が騒いで矢も盾もたまらず(P226)」、ワクワクしながら待ち合わせの場所に向かっていたのに、あんなことに。
凛様がどれくらいの期間師事していたのかわかりませんが、廉耆先生、けっこう面白がって指導したのかもしれませんね。凛様のあの天賦の才(色々な意味で)にそそられないわけないもの。
で、その凛様。最初の登場シーンで
この男、江湖に落魄した貴公子然とした装いだが、供も連れず(以下略) (P38)
と描写され、以後一貫して地の文で「貴公子」と呼ばれています。一方の殤不患は「渡世人」とか「風来坊」と称される。
剣も満足に握れそうにない細腕で突き出された煙管に、切っ先を突きつけられたような剣気が匂い、渡世人は居心地の悪さを覚えた。 (P41)
実はとんでもない剣技の持ち主である凛様、その一端を殤不患は最初からちゃんと嗅ぎ取ってるんですよね。達人は達人を知る。
実はとんでもない剣技の持ち主である凛様、その一端を殤不患は最初からちゃんと嗅ぎ取ってるんですよね。達人は達人を知る。
鬼鳥は親しげに殤不患の肩に手を乗せ、横顔を覗き込む。 (P220)
目が疲れそうに華美な装いの癖に、まるで体重がないかのようにおのれの気配を出し入れする妙な男だ。 (P220)
殤不患の横顔を覗き込む凛様……ふふっ、ふふふっ。
蔑天骸についてはこんなふうに描写されていて。
達人は往々にして実年齢よりも大幅に若く見える。全身の経路を巡る強大な気で絶頂期の体力を保つためだ。丹衡と同年齢と聞いても違和感のない蔑天骸だが、実の齢は得体が知れぬ。 (P27)
ああ見えてけっこうな年寄りだったかもしれない蔑天骸。
でもこれ、凛様にも殤不患にもあてはまりますよねぇ。凛様もあれだけの剣技を収め、その後で幻術やら何やらの修行もして、すでに「掠風竊塵」として広く知られるだけの悪事を十二分に成してきている。15歳くらいで剣を極めちゃったとしても、さすがにもう二十代ではないよね?
東離劍遊紀の世界で、「一人前」が何歳なのかも、老い方が私たちと同じなのかもわかりませんが。
歩みを共にしながら、互いのことを何一つ知らぬ男たち。
生死を共にしながら、互いのことを何一つ知らぬ男たち。 (P303)
互いの素性も思惑も、何もわからないまま、いよいよ一行は蔑天骸の根城、魔脊山へ。
下巻も楽しみです!!!
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