見てきました。
(以下、結末が書かれているのでこれから見る人はご注意を)

最初『黒蜥蜴』をやる、と聞いた時は、「え?春野さんが黒蜥蜴をやるの?もしかして明智と一人二役か?」とも思ったのだけれど。
まぁ舞台で明智との二役は無理だし、かといって男役スターが完全に女の役をやるわけにもいかんだろうから(オスカル様とは違うからな)、そうなると明智=春野さんで、黒蜥蜴は二番手男役の真飛さんがやるのか、と思った。

だって、黒蜥蜴って、そーゆー感じでしょ。
宝塚の娘役がやるようなイメージないもん。
美輪明宏さんの役だよ。

でも、娘役だった。
明智=春野、黒蜥蜴=桜乃、で、順当にトップコンビでの「名探偵と女盗賊」。
まだ経験も浅く、いかにも可憐でういういしい雰囲気の桜乃さんにはキツイのでは、と思ったけれど、なかなかどうしてがんばっていた。うん、良かったよ。
ただ、黒蜥蜴が良いとその分明智の影が薄くなるので(セリフも黒蜥蜴の方が多かった気がする)、春野ファンとしては複雑な気分。

やっぱ「黒蜥蜴は春野さんだろ」と母とも言い合ってしまった。

もちろん、明智=春野はかっこよく、劇全体としてもまぁいい感じではあった。
「戦争がいけないのよ」「いや、人がいけないんだ」っていうセリフとか、「正義のためでなく、ときめきを求めて探偵をやっている。そしてそのときめきが薄れつつある」明智の心理、「もっと嘘を生きよう」という黒蜥蜴の狂気、懐かしの少年探偵団。
子どもの頃、図書館の棚の「少年探偵団」シリーズ、かたっぱしから読んでたんだよねぇ。
小林少年がやたらに女装してたことしか覚えてないけど……。

ただ、最後のオチが、良くない。
明智と黒蜥蜴は実は戦争で生き別れた兄弟だった、というオチなのだ。
えーっ、そーゆー話じゃないでしょう、これ!?
「探偵をやめて君を待っているから自首しろ」という明智のプロポーズを受け入れた黒蜥蜴は、明智に渡された品物を見て彼が兄であることを悟り、「愛を取るか命を取るか」で「愛」を取って自害する。

なぜ。
なぜなの。
なぜ兄ちゃんだったら死ななきゃなんないの。
いや、そりゃ、男として愛した相手が「兄」だったらショックだけどさ……「兄妹として生きていくより男と女としての別れを選ぶ」っていうことなんだろうけど、でもだったら死ぬ間際に「お兄ちゃん!」って呼びかけるなよ、と思うし。

「私は名探偵明智小五郎を愛したのよ。そしてあなたも黒蜥蜴としての私を愛したの」とか言うべきじゃないだろうか。
だから、探偵をやめた男と、罪を償って普通の暮らしをする女として生きていくことはできない、と。

「お兄ちゃん!」と言って可憐な妹として死んでいく、というのが「宝塚」なのかもしれない。
でもなぁ。
やっぱり納得いかんぞ。
愛よりも誇りを取って死ぬのが黒蜥蜴ではないのだろうか。明智を愛してしまった自分を許せないから死ぬ、とか。
「愛してるわ……でも、これも嘘のお話……」

是非春野さんで見たいですけど。そーゆー「最後まで嘘を生ききる黒蜥蜴」。

いっそ男女逆転した話にすれば良かったんじゃないの?
木村先生、前にもカルメンを男にしてすごいカッコいいお話作ってくれたんだから、今回も「女名探偵VS大泥棒」……。それじゃ何も黒蜥蜴を原作に選ぶ必要ないか……。

じゃあ黒蜥蜴は「女装もする男の怪盗」で、明智と追いつ追われつするうちに互いを尊敬し、友情にも似た想いを抱くようになるってお話はどうでしょうか。
最後には明智の立場を守るためにわざと明智を怒らせて自分を撃たせる、とか。
男役同士のがっぷりな芝居の方が、男役と娘役のラブ・ロマンスより個人的に好きだし。

ああ、釈然としない。



【黒蜥蜴関連の他の記事はこちらから→『黒蜥蜴』あれこれ