宝塚星組トップスター(最近は“トップ”ではなく“主演男役”と言うらしいが)トウコちゃん(安蘭けい)の次回作が『エル・アルコン−鷹−』だというので、ついつい買ってしまった。

同じ青池保子さんの『エロイカより愛をこめて』は全巻持っているし、この『エル・アルコン』と、同じシリーズである『七つの海七つの空』も中学の時に友だちに借りて読んだのだけど。

主役のティリアンがかっこよかった、ということ以外あまり覚えていなかったので、今回改めて読んでその「悪さ」に唸り、「こんな話宝塚でやっていいのか?」と思ってしまった。

作品の発表時期としては『七つの海〜』の方が先で、こちらの主人公は一応ティリアンを親の仇として追うレッドということになっている。
青池さん自身が「連載2回目にしてティリアンの方が主役になってしまった」と言っている通り、ティリアンの方が目立っている。
(これはエロイカより少佐が主人公になってしまった『エロイカ〜』と同じパターンなのだが、少佐はティリアンの子孫で、エロイカはレッドの子孫らしいからまぁ仕方がない。レッドの周りにはちゃんとジェイムズ君やボーナム君もいるし)

『七つの海』の最後で海に散ってしまうティリアンの、「それ以前の活躍」を描くのが『エル・アルコン』。
時は16世紀末。イギリス海軍の将校であるティリアンは、自らの体に流れるスペインの血と「七つの海の制覇」という野心のため、イギリスを裏切りスペイン側に有利になるよう策謀をめぐらせている。

その策略が、すごい。
血も涙もない、という感じである。
少女マンガだから一応女の子が出てくるわけだが、ティリアンに魅せられ、利用されたあげくティリアン自身によって殺される。
実の父かもしれない男だって容赦なくつるし首。
野心のためなら徹底して冷酷になれるのがティリアンという男なのだ。

美形で頭も切れて腕もたち、自らの“悪”を自覚してなお圧倒的な自信と意志で道を切り開いていく……。
めちゃめちゃかっこよくて、「利用されるだけ」とわかっていても惚れずにはいられない、というような人なのだけど。

こんなん宝塚でやってええんかいな。

っていうか、娘役トップは誰の役をするんだ?
利用されて殺される役??
準トップは……レッドをやるのかなぁ。
『七つの海七つの空』の方だったら、レッドとその相手役の女の子がいるから役の配置的にはいいけど、お話としては『エル・アルコン』の方が面白いと思う。

かと言って娘役トップがニコラス(ティリアンが唯一心を開く少年水夫)の役をやるわけにもいかんだろうし。
ニコラスがいないと、ティリアンの「意外に優しいとこもある」って一面が描けないから、ニコラスを誰がやるか(たぶん娘役?)も重要事。

『七つの海』の最後、ティリアンとその旗艦「エル・アルコン」が海の藻屑となる場面でニコラスが言うセリフ。
「まだ死にはしません。大佐どのが七つの空を見せてくださるまでは」っていうのが、すごいいいもんなぁ。

うーむ。どういうふうに脚色されるのか非常に楽しみだ。
変にロマンチックに変えることなく、すみれコードギリギリまでティリアンの“悪”を描いてほしいと思う。
トウコちゃんなら絶対見事に演じきってくれるから。


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