この間、トウコちゃん(安蘭けい)のオスカル役替わりDVDを買ってしまったわけです。
2006年の星組公演『フェルゼンとマリーアントワネット編』の、オスカルの出番のところだけダイジェストになっているDVDで、ファンにはたまらないというか、よけいな(?)脇筋がなくてひたすらオスカルを追えるのが面白い。

先日「トウコちゃんは『ベルばら』の登場人物ではジャンヌだ」と書いたけれど、オスカルすごく良かった。
もともとキーが高くて、完全女役のアイーダも経験済みだし、「カッコいい女」であるオスカルの、カッコいい部分と可愛らしい女の部分とのバランスが非常に良い。

カーテン前でブイエ将軍に「これだから女は」とバカにされるシーンがあるのだけど、なんかそこがすごーく良かった。オスカルはもちろん反論して将軍とやり合って、そこにオスカルの父ちゃんが出てきてバチンとオスカルをぶつ。
そんでまたお父ちゃんにも「私が女だからバカにされるんですか?」と反論するんだけど。

今までにもこのシーン、何回も見てるはずなのに、なんかやけにジーンと来てしまったのよね。
男として育てられて、女としての幸せ(フェルゼンへの恋心とか)を捨てて生きているのに、やっぱり周囲からは「女」としか見られないオスカルの葛藤・悔しさが、トウコオスカルからはすごく伝わってきた。

「今宵一夜(オスカルとアンドレが結ばれるシーン)」よりも「バスティーユ(オスカルとアンドレが死んじゃう戦闘シーン)」よりも、あのカーテン前が今回は一番感動してしまった。

「今宵一夜」は何せアンドレ役の立樹さんがクサすぎて……。さすがの私もちょっと見てられない。クサいっちゅうかくどいっちゅうか、濃いっちゅうか、もうちょっと普通にしゃべってくださいって感じなのよ、立樹アンドレ。

アンドレ役って、オスカル役以上に実は難しいのかもしれない。なんせ、「君は光、ぼくは影ぇ♪」(アニメ版『ベルばら』エンディングより)の人だから、あまり目立ってはいけない。影ながら見守りつつ、しかし締めるとこは締めて、あのオスカルと釣り合えるだけのかっこよさもキープしなければいけないのだ。

オスカル役をこれまで20人ぐらいの人がやっているように、アンドレ役も役替わりで20人ぐらいの人がやっている。
もちろん私はその全部を見ているわけではなく、せいぜい8人ぐらいのアンドレを見ただけなのだけど、一番好きだったのが星組のマリコさん(麻路さき)のアンドレ。
マリコさんという人は、芝居がすごくうまいというのではないのだけれど、不思議な存在感を持った人で、その茫洋とした感じがオスカルを包み込むイメージに合っててなんか良かったのである。
しかも当時マリコさんはまだ3番手で若くて、ちょっとぎこちないくらいの演技がいかにも“アンドレ”だった。

アンドレって、うますぎたり出来すぎたりしてはいけないと思う。
だってやっぱり主役じゃないし。
原作では、髪を切って目をケガするまでのアンドレっていうのはけっこうおバカでおちゃらけたところもあり、まさか後半あんなにカッコよくなるとは、という伏兵なキャラクターである。
オスカルのことは誰よりも知ってるし愛してるし必死だけど、それ以外の部分で偉そうにしゃしゃり出てはいけない。

なので、トップスターがアンドレをやるとすごく妙な感じになるのだった。
平成の『ベルばら』の一番手が、そーゆー、トップがアンドレで2番手がオスカル、しょうがないからトップ娘役はロザリーという、「アンドレ主役」な「オスカルとアンドレ編」で、すごく妙だった。
アンドレ役のカリンチョさん(杜けあき)は芝居も歌もうますぎるほどうまい人だったので、原作ファンでもある私には「アンドレってこーゆー人じゃないはずだよな」という違和感が拭えなかった。

その時のオスカルは、今では内野聖陽さんの奥さんになっている一路真輝。オスカルにぴったりだ、と言われていたけれど、私は彼女の声も歌い方も芝居も苦手だったので、「確かに見た目は似合ってるけどな」であった。

その後カリンチョさんは地方公演でオスカルをやっている。見てないけど、きっとすごく良かったのではないかと思う。可愛い部分もカッコいい部分も、自在に操れる人だったから。

オスカルとアンドレを両方やった人というのはけっこういて、昭和の『ベルばら』、初演で最初のオスカルを演じた榛名由梨さんは翌年すぐアンドレをやっている。
トウコちゃんもオスカルをやる前と後にアンドレをやってて、私はちょろっと歌だけ聞いている。歌の前にあるセリフの声がカリンチョさんに喋り方まで似ててびっくりする。

アンドレ役替わりDVDも欲しくなってしまうけど、トウコアンドレはひょっとするとやはり「うますぎる」かもしれない。
(長くなったので、次回に続く…が、こんな話についてこれる人がどれだけいるのだ?)