美輪明宏さんというと、今では黄色い髪の毛で江原さんと一緒に「オーラの泉」している謎のおばさん(おじさん?)、と思っている人が多いのかもしれない。
その昔は「神武以来の美少年」と謳われた人である。
神武天皇が美少年だったという話は聞かないから、まぁ要するに「日本史始まって以来の美少年」という肩書きだったのだろう。

「あの人が『メケ・メケ』で出てきた時はそりゃあ衝撃的だったわよ。絶世の美形だったんだから!」とうちの母も言っていた。
私も写真なら見たことがある。
なるほどなぁ、と思ったものだった。
美少年というか、もう美青年だし、目鼻立ちが大きくて日本人離れしているけど、かと言って「外国人」なハンサムというのでもなく、独特の凄味のある“美”であった。

『黒蜥蜴』のストーリーについては、Wikipediaでも見てもらえばすぐわかることなのでここでは述べない。
この映画自体、たぶんストーリーはどうでもいいのだと思う。ただただ美輪明宏(当時は丸山明宏)の絶頂の美を映し出すためだけに撮られたものとしか思えない。

監督はかの有名な深作欣二。
明智小五郎役はちょっと顔の感じが舘ひろしに似ている(でも舘さんの方が断然かっこいい)木村功。
誘拐される令嬢とその替え玉の二役は松岡きっこ。すごい美少女だった。
自ら「黒蜥蜴の奴隷」と言う青年、雨宮に川津祐介。
特別出演で丹波哲郎がちょっとだけ出てたり、二代目黄門様の西村晃も出ていたりする。

きっとこれは当時の「錚々たるメンバー」なんだろうけれど、もう全然添え物。
それが証拠に(?)ポスターに黒蜥蜴と一緒に映っているのは明智でも雨宮でもなく三島由紀夫である。

戯曲担当の三島由紀夫、自分も出演しているのだけど、本筋とは全然関係ないチョイ役。
黒蜥蜴の人間美術館で剥製になっているマッチョなチンピラなのだ。その肉体美を愛でられ、剥製として黒蜥蜴にキスされるというおいしい(?)役ではあるがしかし、三島由紀夫って一体……。

あれが当時のポスターなのかどうかは知らないけれど、「三島が美輪のために戯曲を書き直して、自分も出ている」というのが売りの一つであったのは確かだろう。

オープニングでクレジットが出るが、バックに流れるのは美輪さん作詞・作曲・歌の「黒蜥蜴のテーマ」。
本編では、まるでコスプレ大会のように美輪さんが色んなドレス姿で出てくる。髪型も色々。お遊びっぽい「男装」シーンも1回ある。
エンディングは、ひたすら美輪さん。
クレジットはもう最初に出てるし、物語終わって「終」マークは出てるからエンディングなんかなくてもいいのに、劇中のシーンの写真と、劇中では使われなかった、おそらくはエンディングのために撮られたのであろう「特典映像」が流れるのだ。

当時、美輪さんは33歳ぐらいだと思われるが、その絶頂の魅力を永遠に残すためだけに作られた作品だと思う。

ホントだったら、舞台で生で見るのが一番いい。
2年前にも再演されているし、年を取ったから醜くなっている、というのはきっとあてはまらない舞台だろうと思うけれど、しかしそうは言っても美輪さんもう70歳。うちの父とほぼ同じ年齢じゃないの……。

黒蜥蜴が剥製にして人間の美を永遠に留めようとしたように、「この、今の美輪さんの美を永遠に焼きつけておきましょうよ」という企画ではなかったろうか。

(長くなったので次へ続く)



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