江戸川乱歩が『黒蜥蜴』を発表したのは昭和9年。

昭和9年〜!?
と思ってしまいますよね。
うちの父でさえまだ生まれていない。
(ちなみにうちの父は美輪さんの一つ年下。美輪さんは父ちゃんより上か!と思うと、ほんとに「なんでそれでこんな妖艶な美女でいられるんだろう」と思ってしまいますね)

そして、舞台で美輪さんが初めて『黒蜥蜴』を演じられたのが、昭和43年。映画も同じ年に作られています。
乱歩が発表してから34年後。
そして今は、その40年後。

もちろん「古くさくならないように」再演のたびに工夫を凝らしているらしいですが、美輪さん自身が「古くさくならない」のが一番すごいところかもしれない。
ただ、こーゆー一種倒錯した、過激な美しさって、今の若い人にはどうなのかな、って思ったりします。
もちろん昔の人だって、こーゆーのが好きな人ばっかりじゃなかったとは思いますが。
「美しいものが嫌いな人がいて?」と言っても、何を「美しい」と感じるかは人それぞれで、絢爛豪華なのより楚々とした清潔でシンプルなものを美しいと思う人もいるでしょう。

黒蜥蜴のあり方に、私は共感できるし、美しいと思うけれども、劇中でも「あなたの心は本物の宝石だ」と言うのは明智一人で、他の人々にとってはただの「犯罪者」でしかない。

それでもこれを「美しい」と思う人がかなりの人数存在するからこそ、何十年にもわたって上演されているわけで。

アニメやネットといった「バーチャル」な世界に慣れた若い人にとって、こーゆー種類の「嘘八百」はどうなのかな。
美輪さんがいなくなったら、誰がこの舞台を務めるんだろうとも思うし、作り手のみならず受け手の方もこーゆー美しさをこれから先もずっと継承していけるだろうか……と思ったりします。

黒蜥蜴は40年経っても美輪さんが演じてますが、初演の時の明智は天知茂さんでした。
「ニヒルといえば天知茂」とWikipedeiaに書かれている、あの天知茂さん。
関西では、一時期「甘ち考え、天知茂」などという遊び言葉もはやりました(うちの近所だけかしらん)。
私は『非情のライセンス』の天知さんがとっても好きだったので、天知さんの明智と美輪さんの黒蜥蜴の対決を是非見たかったなぁ、と思います。なんで映画は木村功なの。天知さんで撮ってくれれば良かったのに。所属が違ったのかしら。

天知さんって、見た目も渋くてかっこいいんだけど、声がまたいいんですよねぇ。
テレビドラマでも天知さんの明智は当たり役で、『黒蜥蜴』もやってます。その時の黒蜥蜴は小川眞由美だったそうな。見たことないけど、小川さんは私は苦手。なんか、顔がダメ。生々しい感じがする。
岩下志麻さんとか麻美れいさんの黒蜥蜴なら見てみたいけど(お二人とも演じたことがある)、小川さんのはちょっと……。でも天知さんの明智シリーズは見たいなぁ。
明智って、どーゆー人間なのか実はよくわからない人で、そこが天知さんの「ニヒル(虚無的)」な雰囲気とぴったりだったのでは。

「ニヒルな人」って、きっと何も考えてないんだよ(笑)。
「虚無的」な人が、色々気を揉んだりするわけないもん。
頭が良くて冷静で、どっか感情が壊れてるからこそ大胆不敵で、決して人あたりは悪くないけど深入りもせず、常に孤独……。
普通の人間からはまず理解されない、というところが明智と黒蜥蜴の共通点で、だからこそお互い惹かれるのよね。
自分だけが相手を理解できる。
相手だけが、自分を理解できるだろう。
対峙すればどちらかが死ぬしかないけれども、それほどの相手にめぐり会えたということが奇跡だから、決して不幸でも、悲劇でもない。

大阪公演最終日。
スタンディングオベーションで、カーテンコールが何回もありました。
今日・明日は広島公演ですね。
しんどいなぁ。体調管理、大丈夫かしらん。
大阪では、黒蜥蜴の部下の甥が「たこ焼きレストランを作る」という話が出てきたけど、きっと広島では「お好み焼きレストラン」になっているでしょう。ラストの福岡では……「明太子レストラン」!?

美輪さん、どうぞお体に気をつけて、最後まで観客をメロメロにしてくださいね。
そして9月には『双頭の鷲』の再演。
うーん、すごい。
なんとパワフルな。

同じ時代に生きられて良かった[E:shine]



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