カドフェルシリーズ第4弾です。

なぜかこの巻だけ図書館になかったので自分で買いました。20冊くらいあるうちの1冊ぐらい飛ばしたって……とも思ったのですが、やはりせっかくだから全部読みたい。それも順番通りに読みたい。

20冊全部買うのは無理でも(金銭以上に置き場所がつらい)、1冊ぐらいなら買えますし、楽しいシリーズを1冊ぐらいは手元に置いておくのもいい。

というわけで、「買って良かった」と思える内容でした。

すでに5巻を半分くらい読み進めてしまったので、ちょっと頭が混乱しちゃってますが(笑)。

タイトル通り、「聖ペテロのお祭り」に殺人事件が起こります。

カドフェルがいるシュルーズベリの修道院のお祭りである「聖ペテロ祭」。大変な人で賑わうのですが、その「上がり」(通行税とか)はすべて修道院に入り、町の方にはほとんど入りません。

2巻の「死体が多すぎる」で描かれたように、1年前の夏に町はスティーブン王と女帝モードの争いのあおりを受け、城壁や道路に多大な損害を受けています。1年経った今もあちこちにその傷跡が残り、町はその修復を進めるため、修道院に「今年の祭りの“上がり”は町にも多く配分してくれ」と申し入れに来ます。

しかし3巻の最後で新しく院長となったラドルファスは町長達のその申し入れをあえなく拒否。

そのことに憤った町長の息子フィリップを始めとする若者達は桟橋で「デモ」を行い、フィリップはトマスという商人にこっぴどく張り倒されてしまいます。

そしてその夜。

トマスは何者かによって命を奪われます。大勢の見守る前で殴り倒され、恥をかかされたフィリップが一番に疑われるのですが……。

トマスの船が荒らされ、第二の殺人が起こり、トマスの姪エンマの身にも危険が迫る。さてカドフェルは事件の真相に辿り着くことができるのでしょうか。

実は事件の背後にも、「スティーブン王と女帝モードとの争い」が色濃く影を落としているのですよねぇ。

いつの世も争いはなくならず、権力者同士の争いは必ず市井の人々にまで影響を……。

最終盤、絶体絶命のピンチに陥ったエンマが、自分の命以上に、自分の行動如何で失われるかもしれない多数の命のことを思いやる場面があります。

すべての逃亡者を助け、追われる者をかくまい、これ以上の寡婦や父なし子が出ないようにすることは、スティーブンとモードのどちらのためにしろ、戦って血を流すよりはるかに大切なことだった。 (P338)

彼女自身はただ叔父から託されただけで、「それ」に責任があるわけではありませんでした。でも、彼女は「それ」をきっちりと我が身に引き受け、悪意のある人間には利用させまいと決意するのです。

すごいなぁ、エンマ。

「戦いが避けられないものであり、死が避けられないものであっても、それらは神の意志の結果として起こるべきものであり、野心に溢れた非道な人間の企みによって起こされてはならないと思うのです。救うことができない生があっても、わたしたちは少なくともそれを破壊することに手を貸すべきではありません」 (P370)

理想として、平時にそう語ることは難しくはないけれど、その理想と引き換えに自分の命を差し出さなければならないという窮地にあってなお、その理想を実行することは――。

カドフェルシリーズに出てくる若者、とりわけ女性は勇気ある強い心の持ち主が多くて、読んでいてとても快いです。

そういう女性像も、争いに対するエンマの考えも、作者エリス・ピーターズ氏の心根を反映しているのでしょう。

素敵な女性といえば、2巻でベリンガーと結ばれたアラインが再登場しています。その身に新しい命を宿した、幸福な新妻として。

聡明な彼女はエンマのよき話し相手となり、また、夫ベリンガーが身重の自分を気遣って職務をおろそかにしようとすると、「私は大丈夫」と言って彼の背中を押します。

妻として、たとえ夫に要求があったとしても、夫が危急の用事を他に抱えている時に、それを差し置いても自分のそばについてくれなどと頼むつもりは毛頭なかった。 (P320)

いやぁ、ホントに素晴らしい女性ですねぇ。ベリンガー、いい人と結婚したなぁ。

もちろんアラインがこんな風に思えるのは、ベリンガーが「仕事」を理由に妻をほったらかして平気な夫ではないからで、十分な愛と信頼が二人の間にあればこそでしょう。

素敵なカップルです。

前巻の最後でシュルーズベリにやってきた新しい院長ラドルファスは、お話の冒頭で町長の申し出をすげなく断ってしまいましたが、決して意地悪な人間ではありません。それどころか、世俗のこと、「人間」というものに通じ、正義を重んじる、非常に優れた人物です。

「しかし、われわれは美しく善であると同時に、暴力に満ちた醜い世界に生きている」 (P259)

そう語るラドルファスはカドフェルの人となりと実力を見抜き、エンマの保護と事件解決のためカドフェルが自由に動けるよう取りはからってくれます。

野心ばかり旺盛で傲慢なロバート副院長が院長にならなくてホント良かった。

あと、印象に残ったのはカドフェルの助手マークのこのセリフ。

「手当てをするなんて、どんな意味があるのでしょう、もしもその人が何時間もしないうちに、手当てもできないほど無残に殺されてしまうとしたら」 (P263)

マークがそれと知らず怪我の手当てをしてやった男は悪党の一味で、セリフ通り手当ての甲斐なく殺されてしまいます。

カドフェルの留守に、自分の手で怪我人を助けてやれたことが嬉しかったマーク。それなのに……。たとえその男が死に値する重罪を犯していたとしても、マークにはやりきれなかったのです。

カドフェルは答えます。

「君の軟膏と包帯が、魂によい手当てを施すことがなかったなどと誰が言える?」 (P263)

こういうちょっとした描写が、このカドフェルシリーズはたまらないのですよね。読み終わった時に、ほっと心が温まる。

お勧めです。


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