2013年12月3日火曜日

修道士カドフェル5『死を呼ぶ婚礼』/エリス・ピーターズ



はい、5巻です。4巻の感想を書き終わる頃にはもう5巻も読み終わっていたという(笑)。読むスピードに書くスピードがまったく追いつかない。

今回は、「婚礼」というタイトル通り、シュルーズベリの修道院でドンヴィルという領主の結婚式が行われることになります。

60歳くらいの花婿ドンヴィルに対し、花嫁イヴェッタはまだ18歳くらいの乙女。中世世界では別に珍しいこともない、いわゆる「政略結婚」です。イヴェッタには、十字軍の英雄だった祖父から受け継いだ広大な領地と財産があり、両親の死後彼女の面倒を見ている伯父夫婦は彼女をドンヴィルに縁づけることで、自分もその財産の分け前にあずかろうとしているのでした。

そう、ドンヴィルと契約ができているのですね。彼女を嫁にやる代わり、その財産の一部を伯父夫婦にも分け与えるようにと。

可哀想なイヴェッタは伯父夫婦に引き取られてからというものずっと「大事な金づる」として監視され、何の自由もないまま、祖父世代の男のもとへ嫁がされようとしているのです。

そこへ現れた白馬の騎士……ならぬ、ドンヴィルの従者ジョスリン。義憤に燃え、またイヴェッタへの恋心に燃える彼はなんとか結婚を阻止したいと考えていました。が、あえなくドンヴィルから暇を出され、「花婿が結婚の贈り物にするはずだった首飾りを盗んだ罪」までなすりつけられます。

当局に捕まりかけたジョスリンは逃亡に成功するのですが、読者の予想通り(笑)翌朝ドンヴィルの死体が発見され、ジョスリンは「殺人者」としても追われることに。

考えたら3巻目の「修道士の頭巾」からこっち、ずっと、「濡れ衣をきせられた若者」をどう救うか、って話ですよね。当局から嫌疑をかけられた若者は犯人じゃなくて、真犯人は誰かという謎解きとともに、追われるその若者をどう救うか、その逃避行も重要なドラマになっている。

まぁ、4巻の「聖ペテロ祭殺人事件」では、最初に疑われた若者フィリップの嫌疑は比較的早く晴れ、彼自身も探偵役として大いに活躍するわけなのですが。

「花嫁に横恋慕する若者」がいて「花婿殺し」が行われて……と、お話の構造としては「よくあるパターン」でも、そこはカドフェルシリーズ、キャラクターの魅力と彼らを取り巻く中世世界、何より作者ピーターズ氏の人間に対する温かな視線がたまらず、どんどんページを繰ってしまいます。

特に今回、ハンセン病患者のお話がじんわり来ます。

日本語タイトルは「死を呼ぶ婚礼」となっていますが、原題は「THE LEPER OF SAINT GILES」で、ずばり「セント・ジャイルズのハンセン病患者」なのです。

シュルーズベリ修道院の近くにあるセント・ジャイルズ教会付属の施療院。そこはハンセン病を患い、世間からのけ者扱いされる人々が治療と平穏を求めて集う場所でもありました。

3巻4巻でカドフェルの助手を務めたマークが、今回はこの施療院にいます。そこで1年間患者の世話をすることを、マークは自分で希望したのです。

「えーっ、マークそんなとこに行っちゃったのぉ。助手として活躍してくれないの」と最初は寂しく思ったのですが。

ぷぷぷ。

早計でした。

「セント・ジャイルズのハンセン病患者」というタイトルなのですから、セント・ジャイルズにいるマークが活躍しないわけがありません。

しかもマークったら「天使」扱いされてるんですよ!

その小柄な修道士は、愛敬のある言い訳をして天から降りてきて、無意識にイヴェッタのために口をひらいてくれた小さな天使のようだった。 (P271)

施療院にいる男の子ブランとのやりとりも本当に微笑ましく。

心根の優しい、いい子なんですよねぇ、マーク。

日本でもヨーロッパでもハンセン病患者は長く無知と差別に苦しめられてきたわけで、少年ブランや老人ラザラスの描写にはなんともこう、じーんとさせられます。

最後にラザラスが語る場面も……。

十字軍の経験者であるカドフェルの口を通して、これまでにも何度か「イスラムの人々も我々と変わらない、むしろ優れているところも多い」みたいなことが語られていますが、今回も

「イスラム教徒の最高の者たちは、われわれキリスト教徒の多くの者よりも優れたキリスト者です」 (P307)

というセリフが出て来ます。

中世の修道院を舞台にしたお話って聞くと八百万な日本人としてはちょっと身構えてしまうんですけど、なんというか、カドフェルが考える「神の正義」というものは、単にキリスト教的な唯一神の正義ではなく、広く人間に共通する倫理観という感じがして、共感できる部分が多いです。

カドフェル以外の、純粋培養の修道士達の「愛人」とか「若い花嫁」に対する反応は面白いですし(笑)。

前巻でもいい味出してたラドルファス院長は今回も素敵。こういう人が院長だと、安心して修道院に逃げ込めます。

さて、次はどんなお話でしょうか。


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