「1万円もらえます、本買いにいきましょう」の第4回に行く前に。

その企画で購入したうちの1冊、光瀬龍さんの『宇宙塵版 派遣軍還る』を早速読んでしまったので、忘れないうちにこちらの感想を。

『宇宙塵版 派遣軍還る』をAmazonで購入


光瀬龍さんと言えば何と言っても『百億の昼と千億の夜』

私があの小説を初めて読んだのは高校生の時で、当時どれくらい理解したのか今となっては謎だけれども、「うわぁ」と心を揺さぶられたことは確かで、いくつか他の光瀬さんの作品にも手を伸ばしました。

『東キャナル文書』『征東都督府』、それに『宇宙航路―猫柳ヨウレの冒険』は高校の時に買って、その後大人になってから文庫版の『宇宙叙事詩』も入手しています。

『宇宙航路』、Amazonさんではハルキ文庫のものが出てきて表紙がずいぶん今風だけど、私が持っているものは萩尾望都さん表紙だった気がする。出版社がどこだったか忘れたけど。(本棚の奥から引っ張り出すのがめんどくさい……)

どれも今は絶版で、角川文庫に入っていたものはけっこうKindleで出ているみたいだけど、『宇宙航路』は中古を買うしかないっぽい。

この『派遣軍還る』はずっと気になっていた。『宇宙塵版』と『SFマガジン版』、二つのバージョンがあるというのがなんとも心をそそられる。でもどちらも絶版な上、近所の図書館にもない。

あまり古本を買う習慣がない&なんだかんだ次から次へ別の本を読んでしまうので、この「1万円企画」がなければ買わないままほったらかしだったかもしれない。

Amazonさんで古本を買うのは初めて。新品のエラリーの本と同梱してもらいたくて「Amazon倉庫から発送」のものを選んだので、この『宇宙塵版』は中古なのに700円もした。

でも他の2冊がカバー裏にべったりバーコード貼ってあるのと違ってこれはきちんとビニール袋に入れられ、そのビニールの方にバーコードが貼られていた。


これはかなりポイント高い。本好きの気持ちわかってるよなぁ。

うん、700円でも許す。

古い本だから経年劣化は仕方ないけど、思ったより綺麗だったしね。

カバー絵は『最終戦争シリーズ』等で有名な山田ミネコさん。表紙だけじゃなく挿絵も入ってた!


ますますポイント高い(笑)。『SFマガジン版』には挿絵なかったし、ないのが普通な気がするので、なんか得した気分です。

この、昔の「小さな活字」もいいよね。最近の文庫は字が大きくて無駄にページ数食ってる。紙減らしてその分ちょっとでも値段下げてほしい。ハヤカワ文庫は数年前から「トールサイズ」になって他の文庫よりかさばるようになってしまったし、昔の本見るとなんか和みます。

昭和56年の本(初版本でした)。

でも作品自体は昭和35年から36年にかけて書かれたもの。

昭和35年!!!

さすがの私も生まれてない。戦後やっと15年。

まだプロデビューする前の光瀬さんが『宇宙塵』というSF同人誌に連載したもので、「あとがき」には「全くの習作のつもり」で「単行本化の意図は全くなかった」と書かれてある。

うん、確かに科学的考証はかなりいい加減な感じがする。

この小型艇は一体どれだけエネルギーを積んでるんだ、なんで外部からの支援を断たれた船団の中だけでそんなに色々、小型原子炉まで作っちゃえるんだ、最後に銀河の彼方から帰ってきた人々の年齢はどうなってるんだ? 母星の人々と同じ時間軸で再会できるのか!?……などなど。

「今年のはじめ、二十歳になったばかり」のヒロインがすでに他の星々から「凄腕の情報局長」として認知されてるっていうのも謎。

何歳から局長やってるの、リーミン。

というわけで、主人公は惑星ダリヤ0の若き情報局長ケイ・リーミン。表紙に描かれた美少女である。

長く激しいアルテア星群との戦いが終わり、派遣されていた兵団がやっと母星ダリヤ0に帰ってくる。愛しい恋人や家族の帰りを待ちわびる人々の前に、派遣軍の宇宙船が次々と姿を現す。しかし、その船団からは誰も降りてこなかった。

船は戻ってきたが、その船はすべてもぬけのからだったのだ。

一体派遣軍はどうしたのか? 乗組員はどこへ行ってしまったのか――。

もうこれだけで「掴みはOK!」、しかもその謎を解こうとする間もなくダリヤ0は正体不明の敵に襲われ壊滅状態、リーミンは生死不明、生き残ったダリヤ0の避難民は敵対する星群に半ば拉致され、前半は怒濤の展開。ぐいぐい読まされてしまう。

科学的な部分に多少「?」がついても、頭脳・戦闘力ともに凄すぎて(しかも美人)主人公リーミンにまったくリアリティがなくても、そんなことは「お話の面白さ」には関係がない。

かえってその、突っ走る「若い情熱」が好ましく思える。

「これを書いていた時の、私自身のSFに対するふつふつとたぎる情熱のようなものが感じられて、その頃がたまらなく懐かしく、若かった頃の自分に感動さえする」 (P255)

って、光瀬さんご自身が「あとがき」で書いてらっしゃるんだけど、めちゃめちゃよくわかるわ~~~。そうなのよねぇ、若い頃に書いたものって、色々稚拙でも「勢い」だけは凄くて、たとえ今の方が「巧く」書けるとしても、「もうこういう風には書けない」って思うのよねぇ。

私がこれまで読んだ本には他の方の「解説」しかついてなかったと思うので、光瀬さんのこういう肉声に触れるのはおそらく初めて。

なんか胸熱。

表紙と挿絵と「あとがき」だけでも買って良かったと思う。

ストーリー後半、「消えた派遣軍の謎」「敵の正体」というところも、すでに光瀬さんらしい「滅びの風」が吹いているし。

(……機構それ自体だけで構成された世界が或いは何処かにあるんじゃないかしら……) (P241)

とかね。

情報局長リーミンを補佐するシンヤ軍曹のキャラクターもなかなか良くて、「リーミンはもしかしてシンヤ軍曹のこと……?」って最後に思えるようになってるのも心憎い。

学生時代の親友二人と遊ぶリーミンはごく普通の「若いお嬢さん」なのに、ダリヤ0の危機に瀕しては冷酷非情に決断をくだし、「その区画に取り残されている住民を切り捨ててでもダリヤ0全体を守ろうとする」。

そのくせ親友二人の安否は局長権限で確かめちゃうところとかどうよ、って思うけど、最後ほぼ一人で「謎の敵」の懐へ飛び込んじゃう剛胆さとか、天晴れなのよね。

すべてが片付いて、復興なったダリヤ0の都市を眺めながら、「もう自分はここには必要ない。自分がいるべき場所は――」と新天地へ向かうことを考えている(と思える)リーミン。

昭和35年にこんなヒロインがいるってなかなかすごいことじゃなかろうか。

光瀬さんにとってはこれが初めてのSF長編だったらしく、初めてでこれだけのものが書けちゃうっていうのもまたすごい。

羨ましい(爆)。

リーミンの親友の名はチャラとヨーレで、そう、ヨーレは後に『宇宙航路 猫柳ヨウレの冒険』で堂々の主役を張ってる。どんな話だったかあんまり覚えてないけど(実はあまり面白いと思わなかった記憶が…(^^;))。面倒がらず引っ張り出してきてちょっと読み返そうかしら。



一番最後のページには「SFマガジン」の広告があり、当時は「600円」だったことがわかります。昭和56年に「600円」ってけっこう高いような。ちなみにSFマガジン最新号(2015年6月号)は1,296円らしい。

『宇宙塵版 派遣軍還る』は当時320円。もちろん消費税はない時代。


巻末の当時の早川文庫のラインナップも興味深いです。昭和56年、『グイン・サーガ』はもう5巻まで出ていたのねぇ。平井和正さんの名も見える。

この中で現在もちゃんと新品で買えるのどれだけあるんだろう……。


引き続き『SFマガジン版 派遣軍還る』を楽しみたいと思います。