2015年10月1日木曜日

『白い象の秘密(ジュナの冒険6)』/エラリー・クイーン



Kindle版原著


ジュナの冒険シリーズ6作目です。(他の巻の感想は記事末尾の【関連記事】をご覧ください)


この6作目はあの石井桃子さんの訳です。そう、あの、『くまのプーさん』の訳で有名な。プーだけでなくたくさん児童書を訳してらっしゃいますし、ご自身でも作品を書いておられますが、私にとっては「あの『プー』の!」です。

『プー』の訳って、あんまり読みやすくないんですよね。私は息子が生まれてから読んだので、子どもの時に読んでいたらまた違ったのかもしれないんですけど、平成も10年を過ぎてから読むと、かなり古めかしい日本語で、「もう、せん、○○した」みたいな表現、訳された当時でも方言だったんじゃないの?と思ってしまうぐらい馴染みがない。(まぁそれでも「もう、すでに○○した」ぐらいの意味なんだろうな、とわかりはするけど)

ただ『プー』の場合はおとぎ話でもあり、今日常で使っているのとは違う言葉使いやリズムがかえってファンタジックで独特の味を醸し出していたんですが。

エラリー・クイーンのような論理的なパズルミステリーをあの口調で訳されると……。

読みにくい。

「ぼくたち、サーカスが荷をおろすとこ、見にきたんだのに (P37)

というような古い言葉遣いは仕方ないとしても(石井桃子さんは1907年(明治40年)生まれ)、やたらに読点が多くて読みにくい。

ぼくは、そのとき、一週間以上、サーカスと一しょにいたんだ。そして、そこで、ソニー・グラントと知りあいになったんだ。 (P49)

「ぼくはそのとき、一週間以上サーカスと一しょにいたんだ。そしてそこでソニー・グラントと知りあいになったんだ」で良くないですか???

いちいち無理に息継ぎさせられる感じでイライラしちゃう。

まえがきに当たる「この本の読者へ」で、

『白い象の秘密』は、わたしがはじめて訳したミステリ・ストーリーです。私は、これまでミステリ・ストーリーを訳したことがなかったばかりか、読んだことさえ、あまりありませんでした。 (P3)

とおっしゃっています。

もちろんお話の筋はわかりますし、読点が多いのも私が気になるだけで、何とも思わない方もいるでしょう。でも同じ「古めかしい訳」でも村岡花子さんの『黄色い猫の秘密』の方がまだ自然だったなぁと……。

ジュナが

「あすこにゃ、人が、わんさといるぜ」 (P11)

などと喋るのも気になりましたが、これは訳者間でジュナ他登場人物の口調を統一しなかった早川書房のせいですよね。ここまで読んだ他の巻ではジュナはかなり丁寧に喋る子で、「いるぜ」なんて言い方をする子じゃなかったんですよ。おばさんショックだわ……。

登場人物の1人称や語尾をどうするかっていうのは、翻訳物の難しいところでもあり、「肝(きも)」でもあると思い知らされますねぇ。

(もっともこの本でもジュナが「いるぜ」などと言っているのはここだけで、あとはおおむね丁寧に喋っていました。なんでここだけ「いるぜ」を使ったんだぜ……)

あと

ちょっとビリケン(福の神)に似ていた。 (P12)

という記述があって、「え?原著ではどう書いてあるんだろ」と思ったんですが。

ビリケンってもともとアメリカ発祥のものなんですね。(Wikipediaさん参照

「(福の神)」と注釈がついているところからして、当時の日本人にはたいして馴染みがなかったのかも。(日本には1909年頃に入ってきて、大阪の通天閣にビリケン像が置かれたりしましたが、私がビリケンさんのことを知ったのは大人になってからだった気が)



さて。

ストーリーの方ですが。

釣りだのヨットだの馬車での旅だの毎回子ども心をくすぐる「遊び」をうまく絡めてくるこのジュナシリーズ、今回はサーカスです。

実に、実に、くすぐられますねぇ。サーカス列車が到着して荷物を運び出し、テントを立てるところからブランコ乗りの練習の様子、芸の練習をする象の様子までたっぷり描かれていて、とても楽しいです。

が。

もちろんジュナが行くところ事件あり。「偶然にもサーカスのフリーパスを手に入れた俺たちは……」

ブランコ乗りの花形、スピットファイアが技に失敗して、床にたたきつけられる場面を目撃してしまいます。のみならず、スピットファイアが意識を失う間際に「白象…」とつぶやいたのをジュナは耳にしてしまい、「白象って何のことだろ。スピットファイアが落ちたのは受け手のネッドがわざと彼の手を掴まなかったからじゃないのかな」などと色々考え始めてしまいます。

もうホントにコナン君だなぁ。観察力が鋭いだけでなく、「もしかして」と気になりだすともう止まらない。調べ始めちゃう。

サーカスに便乗して掏摸や詐欺を働く「いかさま師」達の警戒に来ていた新聞記者のソッカーと警官キャノンボールのおかげで、ジュナ達はエデンボロに帰ることなくホテルに泊まってしばらくサーカスを楽しめることになるのですが、ジュナは「白象」のことが気になってしかたない。

「ホテルを取ってやるけど、9時にはベッドに入るんだぞ」とソッカーに釘を刺されたにもかかわらず、夜中に「白象」の謎を調べにサーカスの元の持ち主の屋敷まで出かけるジュナ(もちろんトミーも付き合わされます)。

後でソッカーに

「きみたちは九時にベッドにはいって、九時五分すぎにおきたんだな! ぼくも、今度は、約束の守り方がわかったよ」 (P224)

と皮肉を言われますが、ホントにねぇ。子どもが真っ暗な夜中に何キロも歩いて人気(ひとけ)のない屋敷に行くだけでも十分危険なのに、ちょうどその屋敷を訪れていた「いかにも怪しい男達」の話を盗み聞きしようと中に入ってっちゃうんですから。

5作目では「ぼくは一度だって事件を求めて歩いたことはありません」なんて言ってたけど、嘘だよね。十分事件を求めて歩いてるよね。

男達に見つかりそうになって堂々と玄関の戸を叩き、「ホテルまで送ってもらえませんか」と頼んじゃうところなんて、肝っ玉座りすぎ、頭の回転早すぎです。

車で後をつけられ、タクシーの運転手に「あの車、まいてもらえないかな」って言うシーンなど、ホントに「見た目は子ども、頭脳は大人」なんではないかと。本格探偵すぎる。

また「まいてくれ」と頼まれたタクシーの運ちゃんがいいんですよねぇ。もちろん最初はジュナのこと怪しんで、「おめえ、偽札でも運んでるのか?」って聞くんですけど、最終的にはジュナを信用して追っ手を振り切ってくれた上に、キャノンボールに手紙を渡すことまで引き受けてくれて、お代は「1ドルちょっきり」。

もともとタクシーに乗り込んだ時に、「そこまでは1ドル半かかるけど、まぁ1ドルにしといてやろう」って言ってくれてたんだけど、ジュナは途中で「ぼく2ドルしか持ってないけど、あの車をまいて目的地まで行くのに2ドルで足りなかったら……」と心配してるんですね。追っ手をまくためには色々寄り道するわけで、普通なら当然タクシー代は高くなるはずですから。

そこを最初に取り決めたとおり、「1ドルちょっきり」にしてくれる運ちゃん。いい人だなぁ。

そもまずジュナの言うことを信用してくれるところがすごい。

ソッカーやキャノンボールといった、ジュナのこれまでの活躍を知っている人達でさえ、ジュナがあれこれ頭を回すのを「考えすぎだよ」とあしらうことも多いというのに。

警察に行っても「頭がおかしいと思われるだけ」という自覚があるから、とりあえずさっさと自分で行動しちゃうんですけど、ホントにね、この子そのうち命を落とすと思うよ。そういつもいつもうまく脱出方法を思いついたり、救い手が現れたりしないと思う……。

なぜぼくは、ひとりでこんなところへやってこないで、キャノンボールのところへいって、何もかも話してしまわなかったんだろう、ジュナは、歯をくいしばりながら考えた。 (P204)

いつも、一応後悔はするんだけどね。次の事件になると忘れてるよね(´・ω・`)

しばらく夏休みのお話が続いていましたが、この6作目の季節がいつなのかははっきりしません。何日かホテルに泊まってサーカス見物をするというんですから、学校は休みっぽいですが。

最後のシーンでアニーおばさんが「涼しげな木綿服」を着ているところからして、冬ではなさそうです。この後の7作目ではトミーはもうフロリダに引っ越して数ヶ月は経っているようで、クリスマス休暇を利用してジュナがトミーのところへ遊びに行くという設定でした。

うーむ。やはりコナン君よろしく季節はめぐってもいっこうに学年は変わらないというヤツなのでしょうか。

ジュナがソッカーのことを

「ぼく、この二、三年は、あの人と仲よくしてるんです。とても腕ききの新聞記者なんですよ」 (P175)

と言っていて、もしも知り合ったのが1作目ならそれから2~3年経ってるってことになるんですが、ジュナの原著での設定ってホントは何歳なんだろう……。

あと、この「二、三年は」の台詞、悪党達に「おまえあの新聞記者と一緒に泥棒を捕まえたとかいう小僧だろう?」と問い詰められてるところで出て来るんです。少年探偵としてあまり有名になっちゃうと悪党に身バレしちゃって大変だという。



このジュナシリーズ、毎回色々な「楽しみ」が取り上げられていることについて、解説の都筑道夫さんが

いま世界でどんなことがおこっているか、ということでしたら、新聞を読めばわかりますけれど、世界じゅうの人たちのくらしぶりをあじわうことはできないでしょう。けれど、すぐれた文学を読めば、いろいろな生活、いろいろな人間を、しることができます。 (P240)

とおっしゃっています。

ほんまそうですよねぇ。子どもの頃翻訳物ばかり読んでましたけど、よその国の風物がファンタジックで非日常で、別に異次元ファンタジーじゃなくても十分「異世界」で楽しかったんですよねぇ。結果、日本の作品をほとんど読まない大人に育ってしまいましたけども。


いよいよ次はシリーズ邦訳最終巻。図書館で借りたのでなければ、少し間を置くところなのですけどね。読み終わっちゃうの寂しいから……。


【関連記事】

『金色の鷲の秘密(ジュナの冒険2)』/エラリー・クイーン

『赤いリスの秘密(ジュナの冒険4)』/エラリー・クイーン

『茶色い狐の秘密(ジュナの冒険5)』/エラリー・クイーン

『黄色い猫の秘密(ジュナの冒険7)』/エラリー・クイーン(村岡花子訳)

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