ジュナの冒険シリーズ1作目『黒い犬の秘密』が県立図書館にもなく、入手不能なので思い切ってKindleで原書を買ってみました。

Kindleで本を買うのも初めてなら(無料の書籍を読んだことはあるけど)、原書にチャレンジしようなどと思ったのも初めて。

私にここまでさせるエラリー・クイーン恐るべし(大袈裟)。

10月1日から消費税込みになって値段が上がるらしかったので、9月の30日にポチりました。もちろんちゃんとポチる前に無料サンプルで「果たして私に原書が読めるのか」を確かめた上でのことです。サンプルはけっこう分量があって、第1章のかなりの部分を読むことができました。

ジュブナイルミステリということもあるのか、文章はさほど難しくありません。台詞の部分は略語とか、高校生用の辞書には載っていないような慣用句とかが出てきてちょっと意味の取れないところもありますが、まぁわからないところを飛ばしても、筋を追う分にはあまり支障がありません。もちろん、単語力がないので辞書を引き引き、数ページ読むだけでめちゃめちゃ時間がかかりますけれども。

せっかくだから、と思って日本語に翻訳しながら読んでいるのでよけいに時間がかかります。ただ筋を追うだけならもう少し早く進められるんだけども、「読みやすい日本語の文章」にしようと思うとやはり言い回しとか、語順とか考えるので、なかなか捗らないんですよね~。

でも久しぶりの長文和訳、楽しい。

別にテストに出るわけでも誰かに添削されるわけでもない、単に趣味で訳すのは楽しいですよ、うん。もともと和訳は好きだったんですけど、長編小説を頭から全部読んでいくっていうのは本当に初めての経験で、登場人物の口調を自分で考えたりするのが面白い。

ハヤカワ文庫のジュナの冒険シリーズはすべて訳者が違って、たまにジュナが「~だぜ」と言うのが気になっていましたが、いざ自分で訳そうとすると「~だぜ」と言いたくなることが確かにある(笑)。

お年寄りだからって1人称を全部「わし」にする必要もなくて、実際うちの義父などは「僕」と言っているのだけど、「僕は違うと思うよ、ジュナ」って日本語で書くとやっぱり若者が喋っているような気がしてしまう。雑貨屋の主人とか警察署長とか、日本語はいちいち一人称に何を使うか、二人称に何を使うか、そして語尾をどうするか、考えなくちゃいけないんですよねぇ。

あと犬が「He」で受けられてるんだけど、日本語で犬を「彼」と言うのかどうか。「その犬」といちいち言う方がいいのか。「Oh!」や「Well」、「Sir」をどう訳すか。特に訳さない方が日本語としては自然な気がする場合も。

アニーおばさんの口癖らしい「Glittering glories of Golconda!」なんてどう訳せばいいんですか……。

アニーおばさんと言えば原書では「おばさん」という言葉はまったく出てこなくて、単に「Miss Annie Ellery」なんですよね。何歳なんだかわからない。ジュナも何歳なのか説明されていません。少なくとも第4章まで読んだ限りでは(まだ全体のたった18%しか読めていません!)。

エデンボロには家が12軒しかないこと、クリントンまでは3マイル、そして鉄道の通っている街リヴァートンへはクリントンからさらに10マイルかかることがわかりました。

ピンドラーさんやブーツさん、トミー・ウィリアムズにクララベル。すでに日本語で他の作品を読んでいるおかげで、地名や登場人物のあらましがわかっているのは助かります。何も知らずいきなり原書だったらもっと苦労してそう。

和訳が楽しいのはもちろんお話が面白いからで、この作品で初登場のジュナ、まだ彼がどんな子なのか読者は知らないわけですが、最初にちゃんと彼の「観察力と推理力」が描かれていて、なるほどうまいな、と思わされます。

農場で犬が死んだ鶏を咥えてきて、農場主は犬が鶏を殺したと思って犬を処分しようとするんですけど、そこへジュナが「ちょっと待って!この傷口を見てください。これは犬のやり口じゃないですよ」って犬の濡れ衣を晴らしてあげるんです。

この子はずいぶん賢い子らしいぞ、という印象を読者に与えてから、本物の事件が起こるわけ。

クリントンに買い物にきていたジュナの目の前で銀行強盗が逃げ、チャンプが強盗の車のあとを追いかけてゆく。ジュナは気が気でなかったんですが、「おまえがそこに立っていたおかげで銃が撃てなかった。そのせいで泥棒を取り逃がした」って警察署長になじられるんです。

なんてヤな奴なんだ、クリントンの警察署長(´・ω・`)

ジュナが「でも泥棒だったら……」と意見を言うと「おーっ、リアル・シャーロック・ホームズだぞ!」なんてわざとらしく感嘆の声を上げたりする。ジュナのもっともな意見は鼻であしらっておいて「なんであんな近くにいて車のナンバーを見てないんだ!」と怒ったりして。

「僕のいた位置からでは見えませんでした」

冷静なジュナ。

後でトミーが「あの署長、ヤな奴だったな」って言ってもジュナは、「彼は強盗騒ぎでカッカしてただけさ。誰かに当たらずにはいられなかったんだよ」なんて立派なことを言っちゃう。

どっちが大人なんだか。

ジュナお得意の「僕にも(自分が何に引っかかっているのか)わからないんだよ」も出て来て、思わずにやにや。やはり他の作品を日本語訳で先に読んでいると色々わかりやすいですね。

毎日読んでいるわけでもないし、1日2~3時間頑張っても数ページしか進まないので、一体最後まで読み終わるのにどれだけかかるかわからないんですけども、できれば日本語訳が入手できなかったシリーズ3巻目と9巻目も原書にチャレンジしてみたいなぁ……と。5ヶ年計画くらいで(笑)。


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  『黒い犬の秘密』の角川つばさ文庫による新訳版。今どきのポップなイラスト入りで読みやすいですが、解説がないのが残念。

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