橋本治さんが亡くなられてしまった。

何年か前(もう10年くらい前になるのだろうか)に難病で療養され、最近も癌で治療を受けられたということで、ずっと「闘病中」ではあられたのだろうけれど。

(難病で入院されていた時のお話は『橋本治という立ち止まり方』に詳しい)

落語世界文学全集の刊行も始まり、体調も落ち着いていらっしゃるのかと勝手に思っていた。

まさかもう逝ってしまわれるとは……。

 
このblogを読んでくださっている方はご存じの通り、「橋本治の恵み」というまとめページを作ってしまうほど、私は橋本さんの著作が大好きで、読んでは感想を書き、読んでは感想を書いてきた。

最近は少し世の中に倦んで、世評的なものを読む気がせず、「子どもの頃読んだ本を読み返す」プロジェクトを遂行、橋本さんの新刊も手に取らぬままになっていたけれど、今思えば「まだ読んでいない橋本さんの本」を残しておいて良かったのかもしれない。

もう、この先、橋本さんの新刊は出ない。

でもまだ私には未読のものが――読み返すのではなく、まっさらな状態で読める本がある。

もちろん、昔読んだものはうろ覚えになってしまっているし、blog以前のものについては「感想記事」もないので、読み返してあらためてアウトプットする楽しみがあるのだけれども。

若い時に読むのと今とでは、『桃尻娘』などずいぶん印象が変わっているかもしれない。

 
私が初めて橋本さんの著作に触れたのは友だちが貸してくれた『桃尻娘』で、気に入ってすぐ他の著作も読みあさった。

『桃尻娘』シリーズの中では最終巻の『雨の温州蜜柑姫』が一番のお気に入り。

『窯変源氏物語』と『双調平家物語』はそれぞれ二回読んで、二度目はやはり一度目とは違う部分で心を打たれた。どちらも大部で読み通すには覚悟がいるけれど、死ぬまでにもう一度ひもといておきたい。きっとまた別の感想、別の感動を覚えることだろう。

(『平家』は2回目に読んだ時各巻ごとに記事を書いたので『橋本治の恵み』からご覧ください)

『平家』を書かれる過程で橋本さんが調べられた膨大な資料をもとに、「日本という国」「日本人というもの」について考察を重ねられた『権力の日本人』『院政の日本人』は、全日本人必読の書。
時評集『ああでもなくこうでもなく』のシリーズはリアルタイムに読むのが一番面白かっただろうけれど、読み返すと「そういやそんなこともあったなぁ」と時事が思い出され、また、「結局この時から何も変わっていないのでは……」と震撼とする気がする。

橋本さんの言っていることはいつも同じ。

「自分の頭で考えなさい」

それだけだ。

 
歴史とか時評とかめんどくさい、という人には『ひらがな日本美術史』のシリーズを。「美術史」なんていうと難しそうに聞こえるが、橋本さんの手にかかれば超絶面白い読みものに。特に1巻は埴輪や有名な仏像などとっつきやすいところなのでおすすめだ。

 
……と、挙げていくとキリがない。

はぁ。

「美空ひばりが死んで本当に昭和が終わった」みたいなことを橋本さんが書いておられた気がするけれど、橋本さんの死と平成の終わりがシンクロすることになるとは――。

新しい元号の世に、もうあなたはいないのか。
 
 

橋本さん、素晴らしい著作の数々をありがとうございました。