(※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください)
5月10日の13時公演を観てまいりました。例によって例のごとく、またしても観てから2週間経っちゃってまして、もう記憶がありません。

それに正直お芝居の方は印象が薄くて……あまり好みではなかったので、もう感想書かなくていいか?ぐらいの気持ちだったり。

作・演出は謝珠栄先生。2020年星組の『眩耀の谷』の時もそうでしたが、こう、「ここでこう来るだろう」というのが来なくて、「え?これで終わり?どこがクライマックスだったの…?」という感じなんですよね。
オリジナル作品でもあり、展開の予想が微妙にはずれていくので「どうなるの?」という緊張感はずっとあるんだけど、見せ場らしい見せ場がないまま終わってしまう。うーん、ベタでもドラマティックに敵対して誰か死んじゃったりする方が私は好みだなぁ。

『Lilacの夢路』、「ドロイゼン家の誇り」というサブタイトルがついていて、彩風さん扮するハインドリヒはドロイゼン家の長男。二番手朝美さんは次男のフランツ、三番手和希さんは三男ゲオルグ。そのまんまやん!みたいな配役です。
ドロイゼン家にはさらに四男ランドルフ、五男ヨーゼフがいます。ランドルフは一禾あおさん、ヨーゼフは華世京さん

五人も男の子産んでお母さんすごいなぁ、と思ってしまうけど、お母さんは心臓が悪かったらしく、すでに亡くなっていて、お母さんと同じ病気をヨーゼフが受け継いでいる、みたいな。

お母さん、持病あるのにほんとによく五人も。

ヨーゼフは音楽の才能があり、体が弱くて時々発作を起こし、お話の途中で亡くなってしまいます。ちょっと『若草物語』を思い出しますね。芸術の才ある優しい子はなぜか短命なのだ……。

お父さんもすでに亡くなっていて、ドロイゼン家の現在の当主は長男ハインドリヒ。兄弟5人、力を合わせて家を盛り立てていけ、というのが父親の遺言。
時代は19世紀のプロイセン。ドロイゼン家はユンカーと呼ばれる貴族。イギリスでは産業革命が起こり、ハインドリヒは「鉄道こそがドイツ諸邦の発展と統一に繋がる」と信じ、自分達で鉄道事業を立ちあげようと奮闘します。

今年は阪急グループの創始者小林一三翁の生誕150年の記念の年、それもあってこの題材?と思ったのですが、謝先生は『鉄道のドイツ史』という本から着想を得たそうで、生誕150年と合致したのは偶然のよう。

偶然に潜む必然。

鉄道のレールを作るためにはまず鉄を作らなくてはいけません。製鉄所で鉄を作る様子がダンスとして表現されるの面白かった。振付もすべて謝先生で、製鉄のところだけでなく、全体にダンスシーンの使い方は良かったです。

レールに機関車、鉄道事業にはとにかくお金がかかります。労働者たちから「給料上げろ」と言われたり、続けていくのは大変なんだけど、ハインドリヒは諦めることなくあれこれ手を尽くして突き進んでいく。弟たち4人は兄に協力するしかなく、次男のフランツは女性絡みもあって兄への反発を強めます

銀行頭取の娘ディートリンデという女の子がいて、頭取さんはハインドリヒに「うちの娘と結婚するなら融資してあげてもいいよ~」などと持ちかけるんですね。でもハインドリヒはそれを受けない。頭取一家とドロイゼン家は昔から交流があるらしく、ディートリンデはハインドリヒに気があり、フランツはディートリンデに気があり……。

同じドロイゼン家の子息なんだから兄ちゃんがダメなら弟と結婚したっていいようなもんですが、「貴族と肩を並べたい」頭取さんにとっては「当主の長男」と次男では月とすっぽん、ディートリンデの方も「自分を見てくれない」ハインドリヒを振り向かせたい、そのためならどんな手段を使ってもいい、だって私にはそれだけの魅力があるはずでしょ!?みたいな。

「同じドロイゼン家の息子」でも家督も財産もすべて兄のもの、なのにその兄は夢を追いかけ浪費三昧、財務担当のフランツに「なんとかならないか」と無茶ばかり言ってくる。
そりゃあむかつくよね、怒って当然だよね

よし、ならば決闘だ!

となるかと思ったらならない。
フランツは一応ハインドリヒに向かって不満を打ち明けるけれども、それで家を出ていくとか、兄ちゃんの敵側について事業を失敗させようとか、そんな悪いことはしない。
それどころか「ああ、これは嫉妬なんだな、僕は兄さんに嫉妬してるんだ」みたいに自覚して、自分の中だけで解決しちゃう。

えええ、そんな。

いや、いい子だけど、なんか、ドラマとしてはちょっと、盛り上がりに欠けちゃう……。
辛抱役なので朝美さんの魅力があまり発散されない、見せ場も少ない。ディートリンデとのやりとりは悪くなかったけれども。

ディートリンデは野々花ひまりさん。朝美さんとは『ほんものの魔法使』でもコンビを組んでいましたね。ちょっと(かなり)困った自意識過剰のお嬢様、「よく似合っていた」と言うと語弊があるけど、巧く演じてらっしゃいました。

三男ゲオルグは軍隊に入っていて、和希さんの軍服姿が凛々しい。剣を持っての演習ダンスは格好良く、「お、いいぞ!」と思ったのですが。
やっぱりゲオルグもあんまりしどころのない役なのだ。
貴族のおぼっちゃんで人柄もいいゲオルグをやっかんだヴェーバー少佐に、「おまえの父ちゃんデベソ」ならぬ「おまえの父ちゃん、小作人の女に手をつけて捨てたんだぜ」という噂を広められ、その真相を調べるためだけに存在する役。

「その小作人の女は実は魔女で、ゲオルグたちの母親は魔女に毒殺されたのだ」という話もあり、ゲオルグは当時のことを知る人間を探して奔走する。

噂の前段が真実なら、ドロイゼン家には5人の兄弟の下にもう一人子どもがいるはずで、「あ~、つまりこいつだな」と、ここはすぐにその正体の予想がつきます。
製鉄所に技師として雇い入れられる青年アントン、縣千さんというキャストといい、教会(修道院だったかな?)で育ったという出自といい、「ははぁん、これが6人目だな」とピンと来る。

『若草物語』かと思ったら『カラマーゾフの兄弟』か、スメルジャコフ的復讐展開来るか?と思ったらこれも来ない。
「捨てられた恨み」とかなんもなくハッピーエンドになるのよね……。みんないい人すぎか。

まぁ実際捨てられたわけではなく、「魔女」と呼ばれた女は毒殺どころかハインドリヒたちの母親に薬を煎じていた立場、異民族の流れ者(?)だったために周囲から誤解を受け、自分から身を退いた、みたいな。

美穂圭子お姉様率いる「魔女」たち、時々出てきて思わせぶりなことを言っていくんだけど、「今こそ私たちの正体をお話しましょう」とか大々的に宣言するわりには「うん、知ってた」という内容で、なんか、うん、全体的にこう……私の趣味には合わなかったなぁ……。

彩風さんはクラシカルな貴族の衣装がとてもよく似合って格好良く、難しい長台詞も多いのに難なくこなして、歌にもますます磨きがかかり、素敵だったけれども。

新娘役トップ、夢白あやさんは音楽家志望の娘エリーゼ。女性が弦楽器のプロ演奏家になるなんて――という時代に夢に向かって果敢に進んでいく、明るくしっかりした女性。
夢白さん、少しおてんばな感じのエリーゼを好演。でもちょっと歌は弱いかな。野々花さんとぱっと見が似てる感じが。

女であることや異民族であることでいわれのない差別を受けてきた時代から、産業革命を経て新しい時代へと、ドロイゼン家の男達も「領主貴族」であることにあぐらをかかず、自分たちで産業を興し、兄弟力を合わせて進んでいこうとする。
エリーゼもただ精神的にハインドリヒを支えるのでなく、金銭的にも支えることになるし、そこにはディートリンデの姿も。さらにこれまでなら排除されていたであろう「魔女との間にできた私生児」も暖かく迎え入れられ、その技術力で兄たちを支えていく。

新しい貴族、新しい女性の姿。

新生雪組の船出の作品としてはよくできているのかもしれない。私としてはもうちょっと派手に対立してフランツあたりがドラマティックに殺されてほしかったけれども(おい)。

ショー『ジュエル・ド・パリ!!~パリの宝石たち~』はタイトル通り、耳馴染みのいいシャンソンに乗せてカラフルなレビューが繰り広げられます。音楽のアレンジが面白かったですね。「パリの空の下」「すみれの花咲く頃」「愛の宝石」etc.

中詰め、ラテンアレンジの「すみれの花咲く頃」が印象的。縣さんメインの「バスティーユ」の場面は曲ともども『ベルばら』のバスティーユを彷彿とさせ。

あ、今思い出した。
プロローグのあと大階段に彩風さんがいるんですけど、女装で頭にすごいかぶりものしてて、まるで小林幸子! それがパーンとはずれて一瞬で男装になる。これはスペクタクルでしたね。
引き続き初舞台生のロケットになるのも、「え?いきなり!?」で面白かった。衣装が確か黄色でなかなか派手で。

和希さんがクレオパトラ風な衣装で妖しく踊る「コンコルド広場」の場面、奏乃さんの歌もとても良くて、めちゃくちゃ印象に残るシーンでした。和希さん、細い、綺麗、腹筋!

フィナーレ前の男役大階段も良かったはず…良かったはず……あああああ、もう記憶が。

彩風さんは衣装や髪型ですごく雰囲気が変わりますよね。どの彩風さんも素敵でした。お芝居に引き続き、ショーでもほんとによく声が出てて、歌が良い。望海さんの歌のうまさとはまた違う良さがある。

お芝居では一人完全に悪人だったヴェーバー少佐役、久城あすさんもショーでは素敵に歌ってらした。久城さんの声も好き。

そしてそして、エトワール音彩唯さん『ODYSSEY』の時にその実力はたっぷり見せてもらっていますが、やっぱり歌うまい~! 顔も可愛い~~~~~!!! 新人公演ではヒロイン・エリーゼ役。お芝居はどんな感じなのか、気になります。

次の雪組さんは11月。ショーは雪組100周年を記念したものになるようで、今から楽しみです。