というわけで、滑り込みで2月28日の13時公演を観てまいりました。

B席の一番端っこ、「R」のつく席で舞台からはだいぶ遠かったですが、宝塚大劇場はどこからでも見やすく作られているので、銀橋もちゃんと見え無問題。ただ、若手スターさんはもともと名前と顔が一致しない上に遠くて全然判別できないので……いつも通りストーリー偏重な感想です。
ネタバレもしまくるので、これから東京公演等ご覧になる方はご注意ください。


まずは「幻想歌舞録」と銘打たれたお芝居、『眩耀の谷~舞い降りた新星~』
礼さんと舞空さんの大劇場トップ披露公演、そのものずばり「新生星組」をタイトルにした演目。礼真(れいしん)、瞳花(とうか)という主人公たちの名前もトップコンビの名前から取られ、これぞ座付き作者さんのオリジナル!といった感じ。

新生星組がどんな感じなのかはもちろん、謝先生の初のオリジナル作品ということに惹かれて観に行ったんですが、中国武術を取り入れた剣舞、布を使っての娘役の美しい舞、さすが謝先生!という舞踊シーンが多く、エスニック好きにはたまらない舞台でした。

「ダンス」じゃないのよね。
「舞」なのよ。
群舞も多くて、大変私好み。
作・演出だけでなく振り付けも謝先生(他の先生も参加してらっしゃるけど、メインは謝先生)。ここまで全部やるの、宝塚始まって以来なのでは。

音楽も中国琵琶?みたいな音がふんだんに使われ、大好物。「サントラ欲しい!」と思っちゃいました。音楽の玉麻尚一さん、外部の方?と思ったけど、これまでも『MESSIAH』等手がけてらっしゃるんですね。知らなかった。

で。

内容は中国古代(紀元前800年頃)を舞台にした歴史ファンタジー
周王朝の宣王は少数民族「汶族」の聖地「眩耀の谷」を探していた。汶族の持つ優れた漢方、そして谷に秘められた「黄金」を求めて。
宣王の家臣であり、汶族討伐に功のあった管武将軍を愛月ひかるさん、将軍に心酔する若き太夫丹礼真を礼真琴さんが演じます。

愛月ひかるさん、宙組から専科へ行って、全国ツアーの『アルジェの男』から星組に配属、二番手男役の立ち位置だと思うのですが。

すごく「おじさん」感あった。

おじさんっていうか、年上感
礼真が「理想に燃える純朴な好青年」なので、その対称として「武功に秀で、出世欲も強い上司」が置かれているんでしょうが、その年齢や立場や経験の違いがめちゃめちゃ出てるというか、プログラムのショー扮装写真と同一人物と思えないぐらいで。

もともとよく知らないスターさんということもあり、「え?このおじさん誰!?」ぐらいに思ってしまいました。
それだけ巧いということなのか…。
声もダミ声というかちょっと割れた感じでセリフが聞きにくかったんだけど、ショーで歌ってる時にはそうでもなかったので、あれも「役作り」としてわざとああいう声の出し方してるのかな。そうだったらすごい。

すごいけど、管武将軍、今ひとつしどころのない役なんだよね。
最初は、専横な宣王(駄洒落か!)に比べればマシな人物として描かれていて、少数民族を見くだしてはいるけど、彼らを侵略し彼らから色々奪うのは「こちらの民の飢えを救うため」みたいに言ってる。

だから礼真も最初は心酔、「将軍のためにも身を粉にして働きます!」となるんだけど、その後礼真が汶族の末裔と交流して「侵略の事実」を知ると、「人は義では動かん、利のみだ!」って逃げを打つだけ。

ヒロインとなる汶族の舞姫瞳花を妾にして子どもまで生ませているので、瞳花をめぐって礼真と三角関係になってもいいようなものなのに、そこもスルーされる。
というか、管武将軍が瞳花と、その間に出来た息子をどう思っているのかはあんまり描写がなくて、宣王に「汶族と通じている」と疑いをかけられそうになると、そんなに葛藤するふうもなく、さっさと部下に息子の殺害を命じてしまう。

瞳花はすでに逃げ出して汶族の村にいるし、別に探し出そうともしてないし、三角関係を作るほどの愛情はなかったっぽい。(てか、瞳花の行方を探すことは「眩耀の谷」を探すことにもなったと思うのだけど、なぜ放置だったんだろう)

礼真は謎の妖精みたいなのと、尊大な態度で話しかけてくる「謎の男」に導かれて「眩耀の谷」に入り、そこで汶族と瞳花に出会う。
瞳花は管武将軍のところから逃げ出してくる時に目をやられたようで、盲目。
トップ披露がいきなり盲目で経産婦のお姫様(ただの舞姫ではなく、汶族の亡き先王の妹)って難易度高いよね、舞空さん。

あまり巧いとは思わなかったなぁ。礼さんが歌もお芝居もうまいから、どうしてもこう、「下手」に聞こえる……。
顔の感じもあまり私の好みではなくて、なんで歌劇団はこういう顔の子が好きなんだろ?と思ったり。(星風まどかさんとか同じ系統の顔な気が)
たとえば真彩さんだったらこの役どんな感じだったかな、とか考えてしまった。

で、瞳花はヒロインなんだけどもすでに「お母さん」なので、管武将軍のもとに残してきた5歳の息子が心配で、息子の消息を知りたいがために礼真を助ける。

ヒロインがまず「母」として主人公に接する、って珍しいよね

礼真は礼真で亡き母の面影を常に胸に抱いているし、母から習った子守歌が物語の鍵にもなっているので、「健気な母」としての瞳花に心打たれ、その舞姿の美しさも相まって惹かれていく。瞳花は瞳花で礼真の真摯な人柄に惹かれていく。

でも「互いに憎からず」ぐらいの距離感で、がっつりラブロマンスという感じではない。
ヒロインともそんなにロマンスせず、敵役たる二番手男役とも丁々発止のやり合いはなく――あれ、じゃあこのお話の見どころ、どこ……?

礼真を導く「謎の男」の正体と、礼真自体の「正体」がだんだんわかってくるとこ、そして汶族と自身の属する世界との板挟みで葛藤しながら礼真が「自分の道」を選び取っていく過程が見どころなんだと……うん、ちょっと、途中退屈に感じたところもあったけど、全体としては音楽も群舞も好みで楽しめたし、汶族の若者という形で色んな生徒さんに出番があるのも良いなと思った。

「謎の男」の正体はすぐに予想がついたし、礼真のお母さんがクローズアップされてるところからして礼真自身が実は汶族の血を……っていうのも予想できる。
予想できるからダメなんじゃなくて、むしろ見ているが方が「こうだろうな」とある程度予想して、期待しつつ進行を見守れるのって、大事な気がする。
そこのさじ加減。

「謎の男」、実は汶族の王でヒロインの兄(の亡霊)。演じるのは瀬央ゆりあさん。見た目も濃ゆく、豪放な感じがよく出てました。
管武将軍よりも出番多かったのでは。謎の男の方が印象に残ってるなぁ。

「眩耀の谷」の場所を知られ、宣王側の軍と戦って玉砕するしかない!と逸る若者達を説得して礼真が選ぶ道が「逃げる」なのもなんか新しい。

汶族お引っ越しするところでお話が終わりなんだもん、ええっ、戦闘シーンとかないの?って。
管武将軍見せ場ないよね……武人的にも恋敵的にも。
「恋敵」という設定がそもそもされてないし。

生きて未来に命を繋ぐ方が大事で、「谷」を守るよりも、命を――人を守る方が大事なのだ、生きてさえいればそこが「我らの国」。
戦って華々しく散るのは格好いいけど、格好いいだけで、大抵の場合はただの無駄死に。

今の時代、「無駄に争わない」というメッセージは重要なんだろうな。真に大切なものは何ですか?っていう。

新しいリーダーが新天地へと民を連れて行くシーンで終わる、というのは「新生星組」の船出を表してもいるんだろうけど、アクション好きとしては最後にもう一場、派手な戦闘シーンが欲しかったですね。せっかく中国武術の方に指導で入ってもらってることだし。

まぁ、さすがにお引っ越しシーンで「完」となるわけではなく、語り部としてこのエピソードを紹介してきた娘が「実は私は2人の娘です」っつって自己紹介して、王と王妃となった礼真と瞳花が堂々たる姿で寄り添っているところに幕が下りるんですけども。

この語り部の娘の役は有沙瞳さん
『霧深きエルベのほとり』ではヒロインの妹役で、姉の婚約者たるフロリアンを愛するせつない心情を細やかに演じていたよねぇ。有沙さんが次の娘役トップになるんだろうと素人は思っていたのに……。
「語り部」だし、お話の「外」にいる存在だから、やっぱりしどころはあんまりなかった。

娘役で印象に残ったのは、宣王に対して絶大な影響力を持っているらしい巫女・敏麗役の音波みのりさん。バーンとした強い「女役」で、滑舌もいいし、出番はさほど多くないけど格好良かった!

音波さん、昨年5月の全国ツアー『アルジェの男』ではヒロインを務めてらしたのね。なるほど、と思っちゃう。『エルベ』の時は主人公カールの昔の恋人かな、アンゼリカ。あの役も良かったよね。
2005年初舞台ということはもう研15!?いや、16?え???
綺麗だし、素敵な娘役さん。末永くがんばってほしいなぁ。こういう「バーンとした役」ができる娘役さん好き。


ショー『Ray~星の光線~』は大好きな中村一徳先生の作。
中村先生がお使いになる音楽、私の好みにピタッとはまるのよね~。今回も主題歌格好良かったし、タンゴの場面、音楽も衣裳も振り付けも素敵だった♪
続く愛月さんのジャズの場面も良かったし、次から次へとスターが繰り出される中詰め、客席降り。
万里組長から「令和という新しい時代に新しいトップスター礼真琴、そして今年令和2年、日本ではオリンピックが」というような口上があり、古代ギリシャ・オリンピアのシーン。そうか、「Ray」という作品タイトルには令和のレイもかかっていたのか。

男役燕尾の大階段は本当に格好いいし、フィナーレで娘役さんがずらっと銀橋に並ぶのも良かった。銀橋にあんなふうに娘役さんが並ぶの、あんまり見ない気がする。曲は「You are my sunshine」だったはず。最近記憶力がアレなので間違ってたらごめんなさい。タンゴのシーンも絶対知ってる有名曲なのに曲名思い出せなくて……うう。

お芝居ではあんまり出番のなかった美稀さんのお歌も少し聴けて嬉しかった。

OPから星の映像(CG?)もすごくて、あっという間の55分。
礼さんは歌うまいから安心して聞けるし、なんというか、色気があるよね。雰囲気というか。
私が大劇場で見た作品ではおおむね「いい人」「好青年」、今回も「実直な若者」で、もちろんそれも素敵だけど、なんか、すごく悪い、黒い役もやってみてほしいと思った。
端的に、「血で、書くのです」っていう『悪魔の微笑・天使の涙』のメフィストフェレスの台詞が思い浮かんだんだよね、礼さん見てて。

美しく妖しく哀しい悪魔、めっちゃハマりそうじゃない?

なので次の大劇場公演『ロミオとジュリエット』よりも全国ツアー『エル・アルコン』の方が気になるんだけど、梅芸のチケットなんてまったく取れる気がしない。
それにティリアンは同じ「悪い男」でも系統がだいぶ違うよね、メフィストとは。妖魔とは対極にある骨太な男って感じだから。(トウコちゃん(安蘭けい)時代の『エル・アルコン』の感想記事はこちら

そして。

奇しくも公演中止前の最後の舞台になってしまったので。
パレードの後、閉じかけた幕がもう一度上がり、万里組長のご挨拶がありました。
「新型コロナウイルスにより、明日から8日まで公演中止となりました」と……。「9日千秋楽に皆様と会えることを祈っております」とかそういう(もう全然ちゃんと覚えてないです、すいません)。

この公演は華形さんのサヨナラ公演でもあり、って言及されたのだけ覚えてる。「あ、そうか!」ってそれ聞いて思いだしたから。

専科の華形ひかるさん。割とよく出演されてた気がする。私の観劇作品への出演率が高いというか。『眩耀の谷』では宣王として、ショーでもしっかり歌ってらした。なんとか千秋楽、上演されて大劇場での「最後」を締めくくれるといいなぁ。

すっかり忘れてたけど万里さんもこの公演を最後に専科に移られるんだよね。組長として――星組組子として大劇場の舞台に立つのは、9日が最後になる。
「我が青春の星組」の最後の砦だった万里さん、万里さんにも無事9日を迎えてほしい。

礼さんも挨拶されて、「皆さん元気でいてください。皆さんが元気でいてくださることが励みです、私たちも元気でいます、元気で!」という感じのことをおっしゃってた。
ウイルスのせいで公演中止なんだもん、ほんと、元気でいるしかしょうがないよね。世の中が落ち着いても、生徒さんや大劇場スタッフに患者が1人でも出たらまた中止になっちゃうだろうし、私たち観客だって万一感染して、「○日には宝塚に行ってました」になったら大劇場を消毒!ってなるんだろうしなぁ。

宝塚のためにも元気でいなければ。

これを書いている3月5日14時現在新しいニュースは出てないから、なんとか9日の幕は開くのかな。開いてほしい。開きますように!




【2020/03/07追記】

3月6日、歌劇団から9日以降上演を再開するとのお知らせが出ました!
良かった。本当に良かった。
劇場入り口にサーモグラフィーを設置するなど、再開にあたって劇団側のなみなみならぬ努力がうかがえます。はぁ、ほんと大変だろうなぁ。
世の中的にはまだ自粛&中止が多い中、再開を決断&実行するのは覚悟がいったはず。個人的には中止期間も中止する必要はなかったのでは、と思ったりもするのだけど、サーモグラフィー等対策をする準備期間でもあったのでしょう。

どうぞ無事、毎日の幕が開きますように。
礼さんの言葉どおり、出演者も観客も、みんな元気で!


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