『裁くのは俺だ』に続いて、マイク・ハマーシリーズを手に取ってみました。シリーズの4作目に当たるよう。
原著は1951年(昭和26年)の刊行で、ハヤカワポケットミステリの記念すべき第1作に選ばれた作品。ポケミス版は1953年、私が読んだ文庫版は1978年が初版。

扉に「キャシーへ」という献辞がありますが、解説も訳者あとがきも何もないので誰のことなのかわかりません。

お話は、雨の夜、マイクが酒場である男を見かけたことから始まります。何やら包みを抱えて、ぐずぐずと泣いている男。見ているだけでいたたまれない気持ちになるその男が抱いていたのは、生後1年くらいになる赤ん坊でした。

男は赤ん坊を置き去りにして出て行き、気になって後を追ったマイクの目の前で何者かに殺されてしまうのです。マイクは犯人の男を撃つものの、その男も仲間の車に轢き殺され、二つの死体と、赤ん坊だけが残されます。

「この子を抱いて泣きながら入ってきたんだ。(中略)さんざ泣きわめいてから、赤ん坊に別れの挨拶をして、外にとびだしていったんだ。だから、俺は臭いと思ったんだよ」 (P20)
「この子の立場というのが俺には気になって仕方がないよ」 (P23)

『裁くのは俺だ』の時も親友のために奔走したマイク、今度は「大の男があんな泣き方をするなんて」と見ず知らずの男に同情し、残された赤ん坊のためにも「必ず俺が犯人を挙げる!」と誓うのですね。
「警察なんかに任せておけない」と、赤ん坊を連れ帰って自分で面倒を見ることまでします(まぁ実際には同じアパートに住む看護婦さんに預けていますが)。

タフが取り柄で殺人をも厭わない暴力探偵マイク・ハマー、実のところめちゃくちゃ人情に厚いですよね。前回も今回も、誰にも依頼されてないのに自腹で捜査してるし。

殺された男には窃盗の前科があり、悪い連中に脅されて高級アパートに盗みに入ったものの階を間違え、そのせいで悪い連中に消されたのではないか?と警察とマイクは考えます。
「間違えて金庫を破られた」部屋に住んでいたのは元映画女優のマーシャ・リー。もちろんこの美女とマイクは懇ろになるのですが……。

途中、他の美女ともよろしくやるし、うまい具合に美人助手ヴェルダはよそへ出張中、「仕事終わったからもう帰る」という彼女に「いやいや、キューバまで行ってこい」とか言うマイク、女の敵というかなんというか。

怪しむヴェルダが「わかったわ。愛してる?」と訊くと、しれっと「どうかな」と答える。ヴェルダちゃん、こんな男見限って他を探しなよ~。君ならどこでも引く手あまたでしょう~~。

殺された男は「階を間違えた」わけではない、というのは予想がつくので、つまりはマーシャが怪しいということになる。うーん、それって『裁くのは俺だ』とおんなじ展開では。競馬ののみ屋とか、警察も検察も手を焼く暗黒街のボスとか、裏の事情はなかなか複雑に絡んでいて、この作品だけを読む分には悪くないんだけど、「なんだ、こないだと一緒じゃん」と思わずには。

マイク・ハマーはもういいか、という気持ちになってしまいました(^^;)

預かった赤ん坊がマイクの拳銃を気に入っておもちゃにしようとするのがラストに生きてくる、そこは面白かったです。「THE BIG KILL」という原題はそういう意味なのかな、と。


図書館で借りたものは1991年の第五刷。帯裏の「ハイブックス」告知が懐かしい!


当時SFマガジンの増刊として「小説ハヤカワHi!」という雑誌が出ていて、私も何号か買ったことがありました。ググるとたった3年ほど、13号で終わったようで、その掲載作を文庫化したハイブックスもすぐに廃刊に。
なので貴重な帯ですよね、これ。