(※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください。記憶違い等はご容赦を)

華世京さんの初主演作『ステップ・バイ・ミー』、8月31日の千秋楽公演をライブ配信で楽しみました。できれば生で観たかったですけど、バウ公演はなかなかチケット取れないですよねぇ。

作・演出はこれがデビュー作となる菅谷元先生。ストーリーは他愛もない…というか、展開の予想ができるわかりやすい青春もので、「めっちゃ面白い!」というのでもなかったですが、うまくまとまっていて、最後まで飽きずに観られました。キャストそれぞれに見せ場があるバウ公演ならではの楽しさがありましたねぇ。

華世さんは初主演映画の撮影を控える売り出し中の若手俳優ユージーン役。華世さん自身とかぶる設定ですよね。でもお話はヒロイン・エイミーの方から始まる。事故で記憶をなくしている大学生のエイミーは毎晩同じ男性の夢を見ていて、ある時それがユージーンにそっくりなことに気づく。サラとアリソンという二人の親友に付き添われ、ユージーンに会うためニューヨークからはるばるロサンゼルスまで出かけることに。

ここ、女の子3人でけっこう長い尺があって、珍しいなと思いました。プロローグで華世さんたち男役さんも顔見せしているものの、いきなり娘役さんだけでのお芝居と歌。バウっぽくて面白かった。

エイミー役は星沢ありささん。2022年初舞台なので、まだやっと研3? それでもうバウヒロインとかすごい。サラ役は愛陽みちさんで、アリソン役は白綺華さん。愛陽さんは研8、白綺さんは研5。昨年の『ベルばら』新人公演では見事なアントワネット様を見せてくださって、配役見た時「え、白綺さんじゃない子がヒロインなの??」と思ってしまいました。白綺さんが主演する前に星沢さんが来ちゃったのかと。

白綺さん、今回も謎のベテラン感があったなぁ。どーんとしていて素敵。

星沢さんは背が高くて、全体にひょろっと長い感じで、今回の儚いイメージの役には合っていたし、お芝居も良かったけど、私はあまり好きじゃないお顔立ちだったなぁ。歌劇団はこのタイプの娘役さんが好きっぽいけど。

エイミーたちが向かったロサンゼルスではユージーンの映画の撮影が始まろうとしている。でもユージーンはちょっとスランプ状態。特に恋愛模様を演じるのが苦手で「こんなありきたりな青春ものじゃなくてアクションものとかをやりたい」と言っている。(「ありきたりの…」のくだりは演出家の先生の自虐ネタにも聞こえますねw)

彼が恋愛ものをやりたくないのは、「忘れられない人がいるから」。

と言うことで舞台は一気に10年前、ユージーンが大学に入学する場面へ。ユージーン、実は地元の名家のお坊ちゃん。母親からは目に入れても痛くないほど可愛がられ、父親にも期待をかけられている。というのも兄のフレッドがすっかりグレてしまっているから。

同じ大学に入学してきた弟をさっそく揶揄しに現れる不良兄ちゃん。いやー、確かに「ありきたり」、すんごくわかりやすい設定です。

そしてユージーンは運命の人、リリーに出会います。リリーは4年生(というか最終学年)。チアリーディング部に入っていたけど、急に辞めると言い出して親友ジェシカを心配させています。

で、このリリーがやっぱり星沢さん。つまり、エイミーそっくりなのです。彼女の父ライアン教授が遺伝学の研究者、ということで、「ああ、なるほど、クローンか」とすぐに当たりがつきます。冒頭、サラやアリソンとのシーンでも「ライアン先生に相談してみたら」という台詞がありましたし、ライアン教授の研究室には「あなたの遺伝学と私の細胞研究があれば!」と製薬会社の人(?)ジャックが売り込みにも来ている。

ライアン教授役は専科の英真なおきさん。きゃー、英真さーん♡ 我が青春の星組スターさん、安心して見ていられる素敵なお芝居、歌も少しあって嬉しかった。最後、プロムの場面ではとてもチャーミングに踊ってらっしゃるお姿も拝見でき、眼福。

ジャック役は咲城けいさん。咲城さん綺麗だよねぇ。とにかく見た目が好き()。DNAの歌、面白かったし(宝塚で「デオキシリボかくさーん♪」って歌を聞くとは)、らせんの舞台装置も良かったけど、全体的にあんまり出番多くなくて、なんか中途半端な役でした。どうせならもっと悪い野心家の方が面白かったのに、最後素直に反省して謝って、めっちゃいい人だった…。

ユージーンとリリーはすぐに惹かれあうんだけど、それを邪魔しようとするアメフト部のキャプテン(?)ベンと、応援するジェシカ。ベンもリリーのことが好きなんですが、ベンとは高校からの付き合いのジェシカはベンのことが好きで。

ちょっとした四角関係。

よーし、じゃあ勝負だ!男同士の勝負といったら酒の飲み比べだ!!とハロウィンパーティの場でユージーンとベンの一騎打ち。――って、ユージーン大学1年ですよね? 「俺、未成年だけど!?」と本人も一応は言うのだけど、女の子たちもやんやと囃し立て、「テキーラ♪」まで飛びだして、飲みまくり。

まぁ体育会系男子が酒飲み勝負を始めるのはしょうがないけど、リリーもジェシカも止めるどころか率先して飲ませようとするあたり、令和のコンプラ的にどうなんですかね。

結果はユージーンの勝ちで、ベンは「か弱いお坊ちゃんだと思ってたのになかなかやるじゃないか」とユージーンのことを認めてくれる。うーん、ベンもいい奴だな。

ベンを演じるのは諏訪さきさん。アメフト部っぽい(?)ガタイの良さとしっかりしたお芝居でお話を支えてくれてましたね~。終盤、ユージーンが家族と「和解の歌」を歌ったあとに「忘れられてると思ったよ」とぼそっと言う“間”も最高。

ジェシカは華純沙那さん。とにかく可愛い。良い。好き。前半のチアリーダー姿もすごくキュートだし、後半、髪をまとめて「大人の女性」になってるのもすごく良い。なんで華純さんがヒロインじゃないのよー!と思ってしまう。

で、ユージーンとリリーは友だち以上恋人未満な感じになるものの、実はリリーは遺伝性の疾患で余命いくばくもなく、わざとユージーンにひどいことを言って遠ざけ、彼が地元を去ってほどなくして亡くなってしまいます。

ケンカ別れしたまま亡くなってしまった女性――その思い出ゆえに恋愛ものを苦手にしていたユージーンの前に、エキストラとして現れたリリーそっくりのエイミー。相手役の女優が急遽降板したことでエイミーがヒロインを務めることになり、まるで10年前をなぞるようなシーンを二人で演じることに。

10年前から「現在の映画撮影」にシームレスに繋がっていく構成とか、よくできてましたねぇ。観客に「あれ?」って思わせつつ、お話を進めていく。

ユージーンの母校でロケが行われることになり、ユージーンはベンやジェシカと再会。なんと(というか観客にはとっくに察しがついていたけど)映画の脚本を書いていたのはベン。ベンとの間にあったわだかまりも消え、撮影は順調に進んでいくのだけど、エイミーの中に「リリーの記憶」が甦り、エイミーは倒れてしまう。そしてまだ紹介もされていないジェシカの名を呼び……。

そこへライアン教授の登場。種明かし。

予想通りエイミーはリリーのクローン。母親の遺伝性疾患を受け継ぎ、早逝してしまったエイミー。おそらくは妻や娘を治したい一心で遺伝学を研究していたのだろうライアン教授、ジャックの誘いに乗って彼女のクローンを作成。たった10年で20歳ぐらいにまで成長するところがすごいですが、しかし肝心の「遺伝性疾患」からは逃れられず、エイミーもまた早逝する運命。

遺伝子からは逃れられないのか?
運命は変えられないのか?

みたいに教授が嘆いていましたが、実際のところどうなんでしょうね。そもそもクローンにオリジナルの記憶が本当に宿るものなのか。「細胞にも記憶がある」はSFではよく描かれるけど、あんなにもくっきりはっきり「リリーの記憶と人格」が再現されるものなのか。

まぁそこはこのお話のテーマではないでしょうけども。

自分がクローンだとは知らず、「事故に遭って記憶を失った娘」として一年ほどを過ごしてきたエイミー。短いながらもサラたちと「自分の人生」を生きてきたエイミーとしての自我の立場は。「私は何のために生まれてきたの?もう一度死ぬため?」と言うエイミーが哀しい。

かつてケンカ別れした同じ場所で互いの想いをぶつけ合うエイミー(リリー)とユージーン。煙草の匂いで「僕の方が年上になってしまった」を実感させるところとか、「死んでも離さないよ」「死んだこともないくせに」「世界で君にしか言えない台詞だ」なんてやりとりが洒落てました。

奇跡が起きてハッピーエンドになるかな、と思ったらそうはならなくて(エイミーの死ははっきりとは描かれないけど)、「あの日の後悔を清算するためだけにもう一度生まれてきた」かのようなエイミー。うん、「愛」が「運命」に勝って病気が消えたとかいうのはあまりに安易だし、互いの想いを伝え合えた、それだけで再び別れが訪れる方が良い結末だとは思う。

とはいえやはり可哀相だよなぁ、エイミー。

ライアン教授やユージーンパパ(奏乃組長)も加わるプロムシーンはとても楽しかったし、ベンがジェシカにプロポーズする場面も良く。指輪を見せながら「僕とプロムに行ってくれ!」「台詞が違うでしょ!」――ふふふ。

ユージーンの衣装も凝ってて良かったなぁ。またそれがとても似合う。華世さん脚長い~。10年前の大学生の場面の方がやっぱりまだ「似合ってる」感じだったけど、堂々たる主演。「スター」の輝きがありますよねぇ。最後、挨拶では初々しく可愛く、「稽古場でいっぱい泣いた」ともおっしゃってましたが。

3回ぐらいカーテンコールがあったかな。隣で見守ってる諏訪さんの「お兄ちゃん感」がまた良かった。頭撫でたりしてましたよね??? 優しい~。華世さんの英真さんへのコメントも良かったし、応じるニコニコ英真さんも好き~~~。

配信ででも観られて良かった。次の雪組さん大劇場公演も楽しみです。