朝青龍が引退してしまった。

哀しい。

寂しい。

悔しい。

昨日、夕方のニュースで「引退」というのを見て、すぐに息子を体操クラブへ送っていかなければならなかったのだけど、本当に、動転して運転を誤りそうだった。

心は上の空。

昨夜の私の衝撃は、つぶやきのログを見ていただければわかると思う。

一夜明けても、まだまだ落ち着かない。

テレビがうるさく騒いでいるのを、見る気にもならない。「当然だ」とか「強い一方で常に品格が問われ」とか。

あふれるほどいい相撲があるにも関わらず、問題になった取り組みが映ることの方が多くて。

みんな、そんなに朝青龍が嫌いだったのかよ。みんな、そんなに嬉しいのかよ。

って、思っちゃう。

もちろん、暴力を振るったことが事実なら、何らかのけじめをつけることは必要だろう。「今までが今までだ」という話もあるだろう。

でも、たとえば「サッカー問題」については、本当にそんなに「大問題」だったのか?という気はある。決して“仮病”というわけではなかったし、朝青龍がやたらにモンゴルに帰国することは、そこが彼の故国である以上、当たり前のことだ。師匠が把握していなかったとかいうのは「師匠」の問題で、それに結局は、協会側が「オレ達を舐めやがって!」と怒っていた気がする。

土俵上で闘志あふれるあまり、だめ押しをしたり、にらみ合ったりするのは確かに「横綱としての品格に欠ける」かもしれない。でもガッツポーズで歓びを表すぐらいいいじゃないか。

自然に、抑えきれない感情でしょう。

そりゃ、「限度」はあるけど。

朝青龍に「横綱としての品格」はなかったかもしれない。でもそれを教え得なかったのは、「品格ある立派な横綱」に育てられなかったのは、協会側の責任じゃないか。

十代で外国から来た若者を、きちんと育て上げることができなかった。

あれほどの才能を持った逸材を、こんな形で辞めさせてしまった。

いつもいつも「非難」ばかりで、ただ「ふさわしくない」と怒るばかりで、「導く」ということをしなかったのは誰か?

高砂親方の責任は本当に重いと思うけれど、「一人横綱」として土俵を支える看板力士を、「自分達で支え、守り育てる」という意識は、協会にはなかったんじゃないのか。

土俵での朝青龍は圧倒的に強くて、そして「一人横綱」であったために、諫められる者がいなかったのかもしれない。「俺は土俵で結果を出している。とやかく言われる筋合いはない」と、きっと朝青龍自身思っていただろう。

非難するのじゃなく、親身になって、「おまえ、そんなんじゃダメだよ。もったいないよ」って言ってくれる人が角界にいたら。

これまでの、いくつかの「問題行動」の時に、腹を割って、本気で、朝青龍と向かい合ってくれる「師」がいたら。

……高砂親方は、「私が責任を取って辞めるから、朝青龍にはもう一度だけチャンスを与えてほしい」とか言うべきじゃないんだろうか。

よく、昔のお話であるでしょう。「こんな風に育てた覚えはない。おまえがこんなだったら、とてもご先祖様に顔向けできない。私も死んでお詫びするから、おまえも腹を切りなさい」と言って子どもに匕首(あいくち)を差し出す気丈な母親。

実際に腹を切る必要はないけど、でも「育てる方」にはそれぐらいの覚悟がいるって話。

「伝統」を重んじる「国技」を守り伝える親方衆なら、それぐらいの覚悟はあって当然でしょう?

決して朝青龍「個人の資質」だけの問題じゃないと思う。

朝青龍を辞めさせて、「いい厄介払いができた」で胸をなで下ろしているようでは、何も変わらない。

正直、今回の協会の対応って、「早く厄介払いしてしまいたい」って感じだった。「暴行事件」の真相は、なんだかうやむやのままで。

あれ、被害者の人、「一般人」とは言っても「玄人さん」みたいだったし、最初にマネージャーが「暴行を受けたのは自分」と言ったこととか、被害者側が途中で「暴行はなかった」と言い出したりとか、すごく「変」だったでしょ。

報道・情報が錯綜してて、実際に「どういう暴行」「どういう事件」があったのか、よくわからないまま、「世間が騒いでいるから」「これまでの素行が悪すぎるから」、めんどくさいからさっさと辞めてくれ、みたいな。

なんかね、あの暴行事件って朝青龍を辞めさせたい誰かが仕組んだんじゃないの?って邪推したくなっちゃう。

まぁ暴行に至らずとも、本場所中に朝まで飲んで泥酔ってどーなんだ、ってのはあるけどさ。

それでも優勝しちゃうんだから、朝青龍的には「なんか文句ある?」だよね。

ほんと、「四の五の言うんだったら土俵上で俺を負かしてみろよ!」って。

朝青龍が一人横綱で優勝回数を積み上げている頃、「他が弱すぎる(だから朝青龍の強さは本物じゃない)」みたいな言い方もされてたけど、周りが弱すぎるのは朝青龍のせいじゃない。

強い力士を育てられないあんたらのせいじゃん!

朝青龍は強いし、うまかった。

先場所の、把瑠都をまるで柔道着でも持つようにぶらさげて放り投げたのとか、「武道の達人」もかくや、の「腕ひねり」とか、ホントに素晴らしかったよね。

全盛期の「パワー」「瞬発力」は落ちてきてたかもしれないけど、それでも「うまさ」で優勝した。

朝青龍ってほんと、反射神経いいし、相手の出て来るところ、相手の力を利用してひょいっと投げたりするのがめちゃくちゃうまかった。

彼以前の、小錦とか曙とか武蔵丸っていう、「デカきゃいい」的な大味な相撲が、朝青龍の登場で本当にまた面白くなった。

相撲って、「体重別」のない格闘技で、小さい人も大きい人も同じ土俵で闘う。そして大きい人が勝つとは限らない。

長身力士はかえって小兵力士を苦手にしてたりして、小さい方が大きい方を投げ飛ばしたりするのって、ほんと相撲の醍醐味の一つ。

先代の貴乃花とか、千代の富士だって決して大きくはなかったし、「うまさで魅せる相撲」をまた復活させてくれたと思うんだ、朝青龍。

少なくとも、私にとってはそうだった。

朝青龍の相撲を見るのが、ホントに楽しかった。

あの気迫、集中力、精神力!

ほんと、昨今のひ弱な男の子達には朝青龍の爪の垢でも飲んで欲しい(笑)。

「品格がない」と言われたけど、あの「強い気持ち」があればこその朝青龍の「強い相撲」だったと思う。

もうあんな力士は出てこないでしょう。特に、日本人男子には無理だよ。あれだけの「気持ち」を持った男の子なんて……。

稀勢の里は「気持ち」ばっかの「空回り」だしね……。


白鵬が、会見で泣いてたの、せつなかった。

これから、白鵬が一人で角界を背負っていかなきゃならない。

もしも白鵬がいなくて、朝青龍が「一人横綱」のままだったら、今回の「処分」ができただろうか、ってこともちょっと思う。

「白鵬がいるから朝青龍はもういいや」って。

そうやって、白鵬に背負わせた荷物の重さを、協会は本当にちゃんと認識しているのかな。白鵬が重さにつぶされてしまわないよう、守っていく覚悟が、ちゃんとあるんだろうか。

白鵬は「優等生」だから、逆に「何も問題はないからほったらかし」ってことはないかしら。

所詮白鵬も「外国人横綱」だ、って気持ちはないかしら。

日本人横綱が誕生するまでの、「場つなぎ」みたいな。


はぁ。

まだまだ言い足りない気がする。

これだけ書いてもまだ、気持ちが治まらない。

きっと、春場所が始まったら、改めて「その不在」をかみしめることになるんだろう。

嗚呼――!
 

朝青龍、これまで素晴らしい相撲をありがとう。

本当に、本当に、ありがとう。