2012年6月14日木曜日

『黄泉からの旅人』/レイ・ブラッドベリ



早速借りてきて、早速読みました。『死ぬときはひとりぼっち』の続編。

『死ぬときは』よりもとっつきやすいお話だと思います。

舞台は1954年、私は32歳のシナリオライターに成長。1作目から5年を経て刊行され、ちゃんと物語の中でも5年の月日が流れています。

マクシマス・フィルムという大きな映画会社の広大なスタジオ。親友のロイとともにホラー映画製作にとりかかっていた「私」のもとに、謎の招待状が届く。

「真夜中の12時、スタジオに隣接する墓地にやってこい。びっくりすることが待っている。傑作シナリオの材料だ」

それはハロウィーンの夜。怖じ気づきながらも言われた通り墓地に向かった「私」はそこで死体に遭遇する。その死体の顔はマクシマス・フィルムの経営者アーバスノットのものだった。

「馬鹿な!彼は20年も前に死んでいる!!!」

生き返ってまた死んだのか?幽霊?「私」の見間違い??? お約束通り翌朝見に行ってみると死体は消えており……。

ふふふ。「つかみはOK」な出だしですねぇ。

そして今度はロイの方に招待状が届く。「とあるレストランに来てみろ!ついに怪物が誕生したぞ!」

ロイと「私」の二人は新作映画に登場させる「怪物」のデザインを決めかねていたのです。指定されたレストランにはモデルにうってつけの「怪物」がいました。つぶれて裂けた人間の顔とも思えない代物を首の上に載せた紳士。

その「おぞましい顔」に感動したロイは「これこそ求めていた怪物だ!」と早速粘土細工を作りにかかる(ロイは恐竜や怪獣をその手で作り出す特撮用造型技術者)。

しかし素晴らしい出来映えのその怪物のマスクを見たマクシマス・フィルムの責任者マニー・レイバーは激昂し、ロイをクビにする。

一体何が彼の逆鱗に触れたのか。レストランに現れた「怪物」をマニーは知っているというのか???

20年前に死んだ男の顔を持つ死体。誰だかわからないほど醜くつぶれた顔を持つ「怪物」……となると大体その関係性は想像ができてしまいますが。

広大な敷地の中にいくつもの国や街を抱えた映画スタジオ。華やかな「光の都」と、その隣に広がる墓地、「影の都」。「もうひとつの二都物語」という副題がつけられています。

20年前に死んだはずの男が生きているのか―?ということで邦題は「黄泉からの旅人」となっていますが、原題は「Graveyard for Lunatics」=狂人たちの墓場。

作中にもコンスタンス=ラティガンがスタジオの正面ゲートを見上げてこんなふうに言う場面があります。

「ここは病院なんかじゃない。すばらしいアイデアが死にゆく場所よ。狂人たちの墓場だわ」 p211

「映画」という夢、金、名声に囚われた人々の、華やかな光の部分と影の部分。前作以上にエキセントリックな映画界の面々が事件に巻き込まれつつ、「こいつが犯人か?」という疑いをまき散らしつつ、「私」の周りをぐるぐると渦巻いてくれます。

前作で魅力的だった往年の名女優コンスタンスが56歳ということも明かされ、刑事のクラムリー、世界最高の盲人ヘンリーも健在。(291ページに「世界高の盲人」って箇所があったけど、「世界最高」の誤植ですよね?)

「クラムリー?」
「うん?」
「あなたが大好きだ」
「だからといってなんでもうまくはいかんぞ」
「わかってます。でも夜を過ごすことはできた」
 p155

クラムリーと「私」の父親と息子のような、叔父と甥のようなこの関係、ほっこりさせられます。

一方ヘンリーは「夜遅くにごめんね」と言う私に

「どうしてだね」ヘンリーは優しく笑った「夜とか昼とかってのは、子どものころ噂に聞いたことがあるだけさ」 p295

なんて応えてくれるし。

「思春期までガキ大将にいじめられてきた私のような男が?」(p10)とヘタレを自認する「私」を、ヘンリーは「無邪気さの袋詰めってものがあるならそれはあんたさ」と言ってその訪問を歓迎してくれる。

真夜中の墓場や奇怪な怪物、変死、行方不明……一方では「狂気」があり、一方では「ぬくもり」がある。

そしてもちろん「映画」が。

懐かしい映画のタイトルや俳優の名前が山ほど出てきます。わかれば一層楽しいのでしょうねぇ、この小説。

途中「私」がとある映画のシナリオの書き直しを頼まれて、キリスト役のJ・C(キリストを演じるために生まれてきたような人らしく、名前までキリスト)と問答するシーン。

「現れたのはぼくら、愚かで哀れな人間たちなんだよ、J・C。到来したのがキリストであろうとぼくらであろうと、同じことだ。世界、もしくは神は、世界を見るため、知るためにぼくらを必要とした。だからぼくらは出現した!」 p224

クリスチャンじゃないけどここのセリフ好きです。

箸にも棒にもかからないような失敗作が「私」のおかげで素晴らしい作品になる。羨ましいなぁ、その才能。

周囲の人々からも愛されて。

あ、そうそう。前作では電話の向こうにいた恋人ペグ。今作では「私」は彼女と結婚しています。旅行か何かで留守にしてる彼女、相変わらず電話の向こうで、やっとラストシーンで帰ってきた時には「おおっと!」というオチ(?)が。

最終作『さよなら、コンスタンス』も借りてあります。引き続き「私」やクラムリーと付き合いますわ♪

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