本
『モンテ・クリスト伯』第5巻/デュマ
※以下ネタバレだらけなので、真っ白な気持ちで読みたい方はご注意ください。
(1巻の感想はこちら。2巻の感想はこちら。3巻の感想はこちら。4巻の感想はこちら)
いやー、5巻はさらに物語が動いて色々てんこもりで、面白かったです。さくさくと6巻目に突入してしまっているので、5巻で何があったのかもう忘れかけてますが(笑)。
えーっと、4巻の最後は確かオートゥイユの邸に一同が会したところでしたよね。かつてヴィルフォールがダングラール夫人と密会を重ね、二人の間に生まれた赤子をこっそりと殺して埋めた邸。
だから当然ヴィルフォールとダングラール夫人は泡を食ってこっそり二人で会い、話し合うのだけども。ヴィルフォール的には「赤子を殺した」というわけではなく、「死産だったのを埋めた」だったらしい。まぁ、もしも死産でなければやっぱり殺していたんじゃないかと思うんだけど。
だってちゃんと赤ちゃんを入れる容器、用意してたんだもんね。
「死産だった」はダングラール夫人への配慮で言ってるだけかもしれない。
ともかくも「赤子を埋めた」という秘密が二人の間で共有されていたのだけど、実はヴィルフォールが一人胸に秘めていた秘密があって、ヴィルフォールは「その赤子が消えていた」というのを知ってたんだよね。
今はモンテ・クリスト伯の下僕となっているベルツッチオに殺されかかったヴィルフォールは、怪我の癒えたあと、埋めたものを掘り返してみた。そしたら、赤子の遺体はなくなっていた……。
検事さんだから、「うわぁ、ない!」だけじゃなくて、「実は生きていたのではないか」「養育院にでも預けられたのではないか」とちゃんと調査する。ただ、調査の糸は途中で切れて、子どもの行方はわからないまま。
すでに、二人ともその、「実は生きていた赤子」に会ってしまっているのだけど。
そう、アンドレア・カヴァルカンティ。
わざわざエドモンがイタリアの貴族の息子に仕立て上げ、パリに連れてきた青年。ヴィルフォールに対する切り札であると同時に、ダングラールに対する「餌」にもなっているらしい。
ダングラールの娘ユージェニーはフェルナンとメルセデスの間に生まれた息子アルベールと結婚の話が進んでいるけど、ダングラールはアルベールなんかよりずっと金持ちのアンドレアに目がくらんで、「うちの婿にしたい」と思っちゃうんだよね。
バカ。
おまえの目は節穴。
でもそれでダングラールはアルベールとの婚約を破棄すべくフェルナンの過去を探ろうとするんだから――エドモンはうまくそれを嗾すんだから、ほんとにまったく。
どこまでがエドモンの仕組んだことなのか。どこまでもすべて、エドモンの思い通りなのか。
「敵をもって敵を制す」、いやはやお見事。
一方ヴィルフォールの方はモンテ・クリスト伯がなぜわざわざオートゥイユの邸を手に入れ自分達を招いたのか、一体彼は何かを知っているのかと探りを入れようとする。
が、しかし。
呆気なくエドモンにしてやられるんだなぁ。
モンテ・クリスト伯の素性を知っているらしいブゾーニ司祭とウィルモア卿。ヴィルフォールはその二人に会いに行くんだけど……二人ともエドモンですから!同一人物ですからっ!!!
しかし8時にブゾーニ司祭としてヴィルフォールに会い、10時にはウィルモア卿として会うってどんだけ忙しいの、エドモン。それぞれの家までちゃんと用意して、変装や言葉遣い(というか使用言語がそもそも違う)まで完璧って、どんだけアルセーヌ・ルパンなの!
ルパン以上かもしれない。
ルパンと違うのは、ルパンがやたらの女に惚れまくっていたのと違って、エドモンは未だメルセデスへの想いを断ち切れてないところ。ただ「今も愛している」とかいうのじゃなくて、それはとても複雑な想いなんだろう。自分を陥れた男の妻になっている女に対して、もちろん怒りや恨みもあるだろうし。
フェルナンの家の舞踏会に招かれて、エドモンはメルセデスと二人で散歩する。メルセデスはモンテ・クリスト伯がエドモン・ダンテスだと気づいているのだけど、彼女が気づいているということを、エドモンの方はまだ知らない。
うん、確信としては知っていないと思うんだけど。
二人の会話、すごくドキドキする。
メルセデスに「伯爵さま、お腕を拝借いたします」と言われただけで、「ただこれだけの言葉を聞いて、伯爵はあやうくよろめこうと」してしまう。
そして一瞬、じっとメルセデスの顔を見つめた。それは、電光一閃とでもいったような瞬間だった。だが夫人には、それが百年ででもあるかのように思われた。伯爵の眼ざしには、それほどまでの無限の思いがこめられていた。 (P117)
メルセデスは彼をエドモンと知りながら、そうは呼びかけない。エドモンももちろん名乗らない。24年前、結婚する直前に引き裂かれた二人は、あくまでモンテ・クリスト伯とフェルナン夫人として言葉を交わす。
メルセデスは、彼をエドモンと知ってはいるけど、彼がなぜ偽名を使って自分の前に現れたのか、そして24年前に二人の仲を引き裂いたのが誰なのか、そこまでは知っていないんだよね。だから、たぶん、フェルナンの妻になってしまっていることを多少は後ろめたく思いながらも、エドモンが生きていて嬉しい、会えて嬉しい、と思っている。
そしてたぶん、彼をもてなしたいと。
フェルナン邸で出されたものを何も口にしないエドモン。メルセデスが庭の温室の葡萄や桃を勧めても、エドモンはいっさい食べないようとしない。それでメルセデスは両手で伯爵の腕をつかみ、「わたくしたちはお友だちではございませんかしら?」と訴える。
かつての恋人にそんなふうに「お友だちでしょう」と縋られ、
伯爵の胸には血があふれた。彼は、死そのものといったように青ざめたが……。 (P121)
いや、もう、ホントに、つらいよねぇ。
エドモンとしては復讐を成し遂げるため、ここで軽々に自分の正体を明かすわけにもいかないし。
ただ、「かつて愛した女は他の男のもとへ嫁いでしまった」と話すエドモン。「自分が死んでも貞節を守ってくれると思っていた女は、よそへかたずいてしまっていた」と。
きつい。
メルセデスにとってこの言葉は、何よりもきつい。
彼女にとっては、そうするよりなかったんだけれども。彼女だって、生きていかなきゃならなかった。親もないひとりぼっちの彼女に、フェルナンと結婚する以外どんな道があっただろう。身を落とすか、自害して果てるか。
他の男のものになるぐらいなら死んだ方がましだと、言うのは簡単だけど。
人は、生きていかなきゃならない――。
で。
一方、ヴィルフォールの家では、大変なことが起こる。ヴィルフォールの先妻の両親、つまりヴァランティーヌの母方の祖父母であるサン・メラン侯爵夫妻が相次いで亡くなるのだ。それも、誰かに毒を盛られたような死に方で。
まぁ、どう考えても犯人はヤス……じゃなくてヴィルフォールの今の妻なんだけど、ヴィルフォールも医者もそんなことはちっとも疑わず、あろうことかヴァランティーヌに疑いの眼を向ける。
侯爵夫妻が死ねばヴァランティーヌに多額の遺産が入る。ノワルティエ氏も毒を盛られていた可能性があり、ノワルティエ氏が死ねばこれまたヴァランティーヌに多額の遺産が……。って、別に今すぐ殺さなくても放っておいてもヴァランティーヌは遺産にあずかれるんだからさぁ。なんでわざわざ危険を冒して年寄りに毒盛らなきゃいけないのよ。
それでも検事総長か、ヴィルフォール。
サン・メラン侯爵夫妻が亡くなって、孫娘の結婚を見届けたかったサン・メラン夫人の遺言ともいえる意志を汲んで、ヴァランティーヌとフランツの結婚が急がされる。本当はマクシミリアンを愛しているヴァランティーヌはどうしたらいいのか、どうなってしまうのか!?
救い主はノワルティエ氏でした。
病気でまぶた以外はほとんど動かせない彼が見事にフランツとの結婚を打ち砕く場面はなんとも緊張感に満ち、その強固な意志と威厳は素晴らしいなと思うのですが。
しかし。
ヴィルフォールにとっては本当に、眼の上のたんこぶみたいな父親だよなー。ナポレオン派の父の、「子どもの出世のことなんか何にも気にせず信念貫きほーだい好きほーだい」な行動に振り回され、無実の男を陥れてまで守ってやったのに、今度は娘の縁談あっさりパーにされちゃうんだもんなぁ。
同じ一つの行動が、ある人にとっては救いとなり、ある人にとっては災いになる。孫娘にとってはいい祖父だけど、息子にとっては……。人間ってなぁ。
エデの父とフェルナンの関係も明かされ、いよいよ復讐劇は大詰め。
まさに巻を措く能わず。面白すぎる~!
(※続刊の感想はこちらから→6巻、6巻続き、最終7巻)
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