2013年4月5日金曜日

『モンテ・クリスト伯』第6巻~まずは1人~/デュマ



※以下ネタバレだらけなので、真っ白な気持ちで読みたい方はご注意ください。

(1巻の感想はこちら。2巻の感想はこちら。3巻の感想はこちら。4巻の感想はこちら。5巻の感想はこちら

6巻も怒濤の展開。すでに最終7巻を半分以上読み進んでいるため、もう6巻のことが思い出せません(笑)。

めちゃくちゃ面白かったことは確か。

何しろ、いよいよ収穫期なのです。

10年にわたってエドモンが周到に準備し、育ててきた復讐の種が、いよいよ実を結ぶ時。

うん、でも、種を蒔いたのは実のところ、それぞれの仇自身なのですよねぇ。ダングラールの没落にはエドモン自身の手がかなり入っているけど(嘘情報によって株取引で損をさせるといったような)、フェルナンがエデやその父に対して行ったこと、ヴィルフォールがかつて不倫の末に赤子を始末したこと、そしてろくでもない後妻をもらってしまったことは、エドモンの責任じゃないもの。

彼らが自分で蒔いた種に、エドモンは水と肥料をやっただけ。その実を熟させ、一番いい時に刈り取っただけ……。

最初の犠牲者は、カドルッスです。

カドルッスに対するエドモンの「復讐の念」は、いまひとつよくわからないところがあります。

フェルナンとダングラールの企みを知りながら黙っていた、という意味でカドルッスも「仇」ではあるけど、必要な情報を得た後に彼に宝石をやったのは、その宝石でかえってカドルッスが身を持ち崩すことを予想してのことだったのか。

その後、服役していたカドルッスをベネデット(アンドレア)とともに娑婆に出してやったのは、どういう意図があったのか。自分のやった宝石が彼を犯罪に走らせた、だからせめて……という気持ちでは全然なかったのかなぁ。

「毒をもって毒を制す」みたいに、手駒であるベネデットに対する重しとして利用する気があったのかしら。更正するならよし、悪の道から抜けられないようならその時は……。

カドルッスはベネデットにつきまとい、ベネデットの羽振りをさらに良くしよう、そのおこぼれにあずかろうと、モンテ・クリスト伯殺害を企てる。もうね、「飛んで火に入る夏の虫」どころじゃないよね。

モンテ・クリスト伯こそ自分の父ではないかと思うベネデットはまぁ仕方ないとしても(確かにその論法はわかりやすい)、だからモンテ・クリスト伯を殺しちゃえば遺産がどっさりだって、安易すぎるだろう、カドルッス。

ともあれカドルッスはモンテ・クリスト邸に忍び込む。そしてベネデットはいい厄介払いとばかりにその情報をモンテ・クリスト伯にたれ込む。自分につきまとい、金をせびる相手をモンテ・クリスト伯に始末してもらおうと考えて。

いや、もう、ホントに、たいした玉ではありますな、ヴィルフォールとダングラール夫人のお坊ちゃんは。

あらかじめ賊の侵入を知らされていたエドモンは、賊がカドルッスだと見て取るとブゾーニ司祭の格好で彼の前に現れる。そして、「おまえが無事に家へ帰れたら、わしもゆるしてやることにする」と言う。

そうして見逃してもらったカドルッスは邸を出たところで待ち構えていたベネデットに襲われるのだけど。エドモンは、賊の仲間らしい男が一人、外にいることに気づいてはいたのだけど。

「もしも無事に家へ帰れたら、正直にさえ暮らしていたら」とカドルッスに約束したエドモンの言葉は、きっと嘘ではなかったよね。「仇」だけど、「重罪」ではないと思っていただろう。

ベネデットに襲われ瀕死のカドルッスとエドモンとのやりとりがまた、たまらなくて。

「神の手」と名付けられた場面。

お前が友人を裏切ったとき、神さまは、お前を罰するかわりに、まず注意してやろうとお思いだった。 (P87)

ここのエドモンのくだりを聞くと、やっぱりエドモンには「その後正直に暮らすのなら許してやろう」という気持ちが、カドルッスに対してはあったと思える。けれどカドルッスは大人しくしていられずに、自分で自分の首を絞めてしまった。

カドルッスに直接手を下したのはベネデット。その種を蒔いたのはカドルッス自身。

そうして、いまわのきわにエドモンの正体を知ったカドルッスは、「おお、神よ!あなたはたしかにおいでになります!」と言って息絶える。

キリスト教的な神さまは信じていない私ですけど、因果応報という言葉は仏教にもありますし、なんともぞくぞくする場面でした。

そして二人目はフェルナン。

5巻でもフェルナンのギリシャでの所業が公になりかけていましたが、さらに詳しく、さらにはっきりと彼を名指した新聞記事が出て、議会での事情聴取、といったことになります。フェルナンは貴族院の議員ですから。

フェルナンの「悪事」を知った他の議員達の態度がまた、「さもありなん」という感じなんですよね。人間ってこうだよなぁ、と思わされるデュマさんの見事な筆。

だが、いつもの例にたがわず、誰ひとり、われから進んで攻撃の責任をとろうとするものはなかった。 (P144)

とか、

真に寛大な心をもった人たちにあっては、敵の不幸が、自分たちがそのひとにたいしていだいていた憎悪の限度を越えた場合、むしろ同情的になるというわけだった。 (P146)

といったくだり。

フェルナンは議場において自身の弁護をはかるのだけど、そしてそれは成功しそうになったのだけれど。

颯爽とエデ登場!

生き証人出てきたらどうしようもありませんよね。

その時エドモンはパリを留守にしていて、必ずしもエドモンがエデに「証言してこい!」と命令したわけではない。もちろんフェルナンがそうして告発されていることを知れば、エデは決して黙っていまいと考えていただろうけど。

むしろ、自分が留主にしていることで、いちいち自分に気兼ねしたり「それをしてもいいか?」と許可を求めることなしに、エデが本望を遂げられると考えたのかもしれない。

うん、きっとそうなんだろうな。

というわけで、フェルナンの面目は丸つぶれ。顛末を聞かされたアルベールは「裏で糸を引いていたのはモンテ・クリスト伯だ!」と理解しし、エドモンに決闘を挑む。

「父がギリシャでしたことは確かに褒められるべきことではないが、しかしあなたにそれを告発する権利はない」みたいな考えを持って。

これって、正しい論理なんだろうか。まぁ、「このために僕に近づいたのか!親切ごかして付き合いながら、エデ姫の仇が父だと最初から知っていたくせに!」と彼が激高するのはわかるけれども。

アルベールと親しく付き合っていたのでなかったら、エドモンには十分「エデの復讐を手助けする」という大義名分があるものねぇ。エドモン自身に復讐の理由がなくても、たまたま奴隷として買った娘が「悲劇の姫君」で、その身の上に同情し、パリまで連れてきてお膳立てをしてやった、っていうのは十分「紳士的なふるまい」じゃないかしら。

アルベールにしてみれば、父を売られたこと以上に、「友だち」だと思っていたモンテ・クリスト伯に「裏切られた」気持ちが強かったのだろうな。

一方、決闘を申し込まれたエドモンの方は。

まさに、青銅の心と、大理石の顔とをもった男だった。 (P201)

慌てず騒がず、格好いい~! 決闘まで予測してたんでしょうか。父の名誉を穢し、その子の命を決闘という形で奪う。フェルナンにとっては何より打撃であろう「一人息子の死」。ローマでは助けたふりをしながら……。

なんとか決闘を回避してはもらえまいかと言うアルベールの友人に対して、「モンテ・クリスト伯に命令できるものは、モンテ・クリスト伯以外にないのです」(P205)と言い切るエドモン。しかしその青銅の心も、メルセデスの前には揺れ動く。

息子がエドモンに決闘を申し込んだと知ったメルセデスは一人エドモンのもとを訪ねてくるのですね。そしてどうか息子を殺さないでくれと嘆願する。

ここの二人のやりとりがまた緊張感たっぷりでたまらないのですよ!この作品のクライマックスと言ってよいかも。

「最初からあなただとわかっていた」と言うメルセデス。だから、モンテ・クリスト伯ではなくエドモン・ダンテスとして、かつて愛した女と向かい合わざるを得ないエドモン。

そうした男と結婚するような女だったら、それをゆるしもするでしょうが、その女と結婚するはずだった男にとっては断じてゆるせぬことなのです。 (P218)

エドモンを牢獄に送った張本人は他ならぬフェルナンだったと知らされて、それでもメルセデスは私に免じて許してくれと頼む。今でもあなたを愛していると言いながらも、それと息子の命は別だという、母の愛。

フェルナンに報いが与えられるのは仕方ない、あなたを裏切った私が罰せられるのも。けれども息子の命だけは――。

まったく、「母」というものは。

「女」というものは。

(エドモン)「わたし自身、どうして神さま以上に親切になれます?」(メルセデス)「神さまは、人間には手のとどかない二つの物、《時》と《永遠》とをおもちになっておいでですから」 (P221)

そう言うあなたは私の苦しみが理解できるのか。牢獄にいる間に父を亡くした気持ち、愛しい恋人が自分を陥れた仇と結婚していたと知った時の……。

エドモンの悲痛な叫びに、メルセデスもまた叫び返す。

「でも、自分の愛していた人が、自分の息子を殺そうとしていることだけは見せられました!」 (P223)

いやぁ、もう、ホントに。

デュマさんの筆、惚れ惚れするわ。

エドモンはメルセデスの「母の愛」に敗北してしまう。「あなたの息子をお生かししましょう!」と言った時のメルセデスの喜びように、思わず涙するエドモン。

だが、そうした二滴の涙は、ほとんどすぐに消えてしまった。おそらく神が、誰か天使をつかわされて、神の目には、ギュザラートやオフィールの真珠よりもさらに貴く思われた、その二粒の涙を拾わせたからのことでもあろう。 (P224)

でも、アルベールを生かすということは、自身が死ぬということ。

エドモンには決闘をやめる気はなくて。挑んできたのがアルベールである以上、エドモンがそれを取り消すことはできない。決闘の場に現れず逃げるような不名誉もありえない。

「その代わり私が死ぬのです」と告げられたメルセデスが、それでもエドモンに感謝して――つまりは「息子さえ助かるならあなたは死んでもかまわないわ」という態度で帰っていったことに、エドモンは深く苦悩する。

もちろん、10年の長きをかけて準備してきた「復讐」という大事業が、一人の「母」によってあっさりと打ち砕かれてしまったことにも。

そして、決闘の朝――。



長くなったので続きます。(続きはこちら

3 件のコメント:

  1. はじめまして。過去記事へのコメント失礼します。
    先日一度読んですごく面白くて、モンテ・クリスト伯の感想ブログを巡ってます(*'▽')
    カドルッスについて「フェルナンとダングラールの情報を聞き出す手段」位に思って深く考えずに読み進めてしまったのですが、宝石を与えた後の展開まで策略があったかもって深読みも出来るんですね!
    泥棒に入った彼を神の手(と言ってもベネデットの手ですが)に委ねた辺り、かたき討ちはどっちでも良かったのかな?とか、偶然なのか思惑通りだったのか、どうなのか分からない所も面白いですねー

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  2. ��ななみさん
    こんにちは。
    コメントありがとうございます[E:happy01]
    私も最初の方ではカドルッスを「情報源」としか捉えていなくて、まさかその後こんなふうに出てくるとは思ってもいませんでした。
    恐るべしデュマさん(笑)。
    本当のところエドモンはカドルッスのこと、どう思っていたんでしょうねぇ。
    宝石をやった時は素直に「お礼」のつもりだったのが、その後の顛末を聞いて「やっぱりこいつもワルか」と失望したのかしら…。

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  3. とても魅力的な記事でした。
    また遊びに来ます!!

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