2013年10月20日日曜日

修道士カドフェル2『死体が多すぎる』/エリス・ピーターズ



2冊目もあっという間に読んでしまいました。やめられない止まらない♪

1冊目はシュルーズベリからウェールズへ聖女の遺骨を求めて出張していましたが、今回はシュルーズベリにでんと腰を据えてのお話。

カドフェルのいる修道院のすぐそばにはシュルーズベリの城があり、そしてそのすぐそばには城を攻め落とさんとするスティーブン王の野営地が。

でんと腰を据えているのはむしろスティーブン王で、カドフェルは老体(57歳を老体と言うのは失礼かしら)にむち打って今回も八面六臂の大活躍。

12世紀当時のイングランドは、内戦中でした。

先王ヘンリー1世は王子を亡くし、アンジュー伯ジェフリーと結婚していた娘モードを後継者に指名。しかしヘンリー1世が亡くなった時モードは夫の支配地フランスにおり、イングランドの多くの貴族達はヘンリー1世の妹の子スティーブンを王とすることに同意。

フランスにいるモードとスティーブンの間で王位継承争いが起き、貴族達もどちらにつくかで争って、内乱は十数年にわたって続いたそうです。

で、今作の舞台は内乱が始まって3年ほど経った1138年夏。シュルーズベリ城を陥落させたスティーブン王は城を守っていた兵すべての処刑を命じます。その数なんと94名。

縛り首となった94人の遺体を埋葬する仕事を負ったカドフェルは、死体が一つ多すぎることに気づきます。明らかに他の死体とは違う、若者の死体。誰かが彼を殺し、「木は森に隠せ」とばかり処刑された遺体の中に潜り込ませた。

それをそのまま見なかったことにはできないカドフェルは、「この件を調べたい」と王に申し出ます。殺された若者は一体誰なのか。なぜ殺されたのか。そして、処刑を隠れ蓑に使おうとした卑劣な犯人は果たして……。

「こんな若者がなぜ殺されたのだろう。殺して奪うほどのものを持っていたとも思えんが」と言う王の側近に対して、カドフェルはこう答えます。

「この世には、乞食が一日かかって稼いだほんの数枚のコインを奪うために、殺しをする者さえいる。王がたった一度の勝利で、ただ敵方にあって戦ったというだけの理由で九十人以上もの人間の命を奪うのを目にすれば、ごろつきがそれを殺しの言い訳に使ったとしても、なんの不思議もない!」 (P84)

素敵ですねぇ、カドフェル。

彼自身、かつては剣を取り、兵士として戦った身。だからこそ、殺し合うことの無意味を知っている。

(だが、権力を手にしたとき、われわれは他人の人生に最悪の結果をもたらす)カドフェルは中庭に並べられた長い死体の列をながめながら思った。 (P85)

「一人多い死体」の謎解きと並行して、修道院に身を寄せた娘の逃避行、彼女の行方を追っているらしい貴族ヒュー・ベリンガーの怪しい行動が絡み、「どうなるの?」とページを繰る手が止まらない。

ホントこのベリンガーという青年貴族がですね、わかんないんだよ、真意が。

敵なの!?それとも味方なの?どっちなのぉ~~~~~!と大変気を持たされる。

まぁ、冷静に考えれば、そうそう「人の真意」なんかわかるもんじゃないですし、スティーブン派モード派と別れて戦っていると言っても、「たまたま」というか、「今はこっちに付いてる方が得だから」みたいなノリだったりするわけですよね。個々の将軍や兵士や、ましてその家族に恨みつらみがあるとは限らない。

ある面を見れば味方と言ってよく、また別の面では敵にもなる。

正義と悪はスパッと二つに分かれるものではないのです。

ベリンガーとカドフェルの静かな、でも熱い丁々発止の「だまし合い」には手に汗握らされます。睡眠時間削って奮闘するカドフェルすごいし。

また事件の解決の仕方がなんともいいんですよね。1作目と同じく、必ずしもすべてを公にはせずに。

神頼みなところもある、かなり無謀な決着のつけ方で、そこは「12世紀の修道院が舞台」ならではの「ファンタジー」だけど、でもカドフェルは決して盲目的に神を信じているわけじゃない。

(わしの心を悩ますのは、これまでの世間での長い経験に照らして、神の計画は……絶対にまちがいはないといっても……われわれが期待し望むとおりの形をとるとは限らないということなのだ) (P344)

神が必ずしも人間の願いを聞き入れてくれるわけではないことを、カドフェルはちゃんと知っている。そしてそれは不敬ではなくむしろ、人の分をわきまえた、謙虚なことと思える。人の真意を測ることさえ簡単ではないのに、神の真意など……。

「ともあれ、自分の人生には最善を尽くすしかない!」 (P85)

タイトル通り、「死体が一つ多すぎた」事件。でも最後に、タイトルの意味はそれだけじゃないとわかる。

悔い改めもつぐないもする時間を与えられないまま、人生の盛時に命を絶たれた死体は、たったひとつでも多すぎる! (P362)

なんだかじーんとして、うるうるしてしまいました。

著者ピーターズさんの、人に対する温かなまなざしを感じます。


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