実は読み終わったのはもう金曜の話で、今は『悪霊』に入っているのですが。

面白かった、『罪と罰』。
ドストエフスキーを初めて読むならきっとこれが一番とっつきやすいのではないかと……って言えるほどドストエフスキーの作品を読んではないけど、『悪霊』はやっぱり読みにくくって……。最初がすごくとっつきにくい。そこをクリアすれば読めるけど、『カラマーゾフ』も最初を乗り越えるのがつらいから、「のっけからさくさく読める」『罪と罰』はホントにおすすめですね。

岩波文庫だと上中下3巻で、下巻の途中、いよいよ主人公ラスコーリニコフが老婆殺害をソーニャに打ち明ける……というところまでは本当に息もつかせぬ展開。
どんどんと頁を繰ってしまいます。
そこが終わると、息が切れた(笑)。

私は長い話が大好きで、ずっと読んできた長い話が「もうすぐ終わる」と思うとさびしくなって読むスピードが落ちるのだけど、『罪と罰』の場合はやっぱり「ソーニャへの告白」が最大の山場で、その後は「事後処理」みたいな感じがして、それまでの熱が少し醒めちゃった……。

それに、下巻ではスヴィドリガイロフというおじさんが活躍するんだけど、この人がものすごく謎。
「なんでこんなことするんだろう?」というのがよくわからない。
スヴィドリガイロフは、ラスコーリニコフの妹ドゥーニャが家庭教師に行っていた先の主人で、ドゥーニャに惚れてトラブルを起こした上に、妻が死ぬと早速ドゥーニャを追っかけてくる「好色な悪党」。
妻の死にも関与しているらしいことがほのめかされる。
悪党なんだけど、ソーニャの幼い弟妹を施設に入れるお金を負担したりして、ソーニャ自身にもお金を渡すし、なんだか本当に、「この人は一体何なの?」なのだ。

ラスコーリニコフについては「一件落着」になるけど、スヴィドリガイロフは「この人のことは自分で考えてね」という感じではっきり説明されないまま終わるので、何かとても気持ちが悪い。
「もうちょっとわかるように説明してください」と言いたくなる。

もちろん、説明しちゃったら面白くないんだろうけど。

それにしてもドゥーニャは変なおじさんによく好かれる。
ドゥーニャは美人で教養もあるらしく、ラスコーリニコフの友人ラズミーヒンも一目惚れしてしまうぐらいなんだけど、彼女が「お金のために」一旦は結婚を承知する相手、ルージンがまた困ったおじさんなのだ。

成金のルージンは、「品行がよくて貧乏な(ぜったいに貧乏でなければいけない)、ひじょうに若く、ひじょうに美しい、上品で教養のある、ひどくおびえやすい娘、人生の不幸という不幸を味わいつくして、彼には頭もあがらぬような、生涯、彼だけを自分の救い主と考えて、彼だけをうやまい、彼だけに服従する娘」と結婚することをずっと望んでいた。
そしてドゥーニャはまさに彼の理想にぴったりな娘だった……って、おい!
いくら100年以上昔の話だからって、そんな「理想の女の子像」があるか?

ルージンが自分をそのように見ているということに気づいて結局ドゥーニャは婚約を解消するのだけど、ルージンには「なんで破談されなければならないのか」、それがいっこうに理解できない。どうしてあの貧乏な母娘が自分の支配から抜け出せるのか、どうしてそんな無謀なことができるのか、
てんで予想もつかないのだ。

この人の描写だけでもドストエフスキーってすごい、と思います。ものすごい観察眼っていうか。
女としてはこんなおじさんホントに「ぺっぺ!」だけど、「いるよなぁ」って思うもんね。世の中の男なんて実はみんなこんなもんなんじゃないの、って気がするくらい(笑)。

しかもこのルージンってば、破談にされた腹いせに、ソーニャに対してとんでもない嫌がらせをするんだよね。
自分がドゥーニャにふられたのはラスコーリニコフのせいだと思って、彼の恋人らしいソーニャを貶めることでラスコーリニコフを貶めようと……。
ほんま、最っ低な奴。

まぁある意味ものすごく印象深いキャラクターではありました。
ドストエフスキーの小説に出てくる人はみんなホントに強烈なのよねぇ。ルージンなんて実際可愛いもんで、逆に「愛すべき」人間のような気もするな。近くにいたら嫌だけど(笑)。