『百億の昼と千億の夜』をコミック化した萩尾望都さんと、原作者である光瀬龍さんによるコラボレーション作品『宇宙叙事詩』。
私はこの本を、高校生の時に友達のT姐に借りました。
おそらく、私に『百億の~』ことを教えてくれたのも彼女だったのでしょう。『グイン・サーガ』も彼女から借りて読んだのだったし、塩野七生さんを薦めてくれたのも彼女でした(もっともその時は、手に取らずに終わってしまったんだけど)。
当時私が書いていた『はるかなるアトランティス』という長編小説を「面白い」と言って励ましてくれたのもT姐。
卒業後、連絡を取ることもなくなってしまいました。今、どこでどうしているのかな。
T姐に借りた『宇宙叙事詩』は、上下巻のうちの下巻のみ。上巻は手に入らなかったと言っていたような気がします。
光瀬さんの紡ぎ出す流麗で憂いに満ちた物語と、萩尾さんの美しいイラスト。
それはそれは強烈な印象でした。
すべてを書き写すのは無理だったけれど、各章の最後に置かれる警句のような詩片をネタ帳に書き写し、たびたび読み返したものでした。
「この地に出でて またこの地に還る
石ありていう
この地に生誕あり また死ありと」
「今一度 追憶の都に篝火を焚け
盲いた土俗の神のために」
『百億の~』を読み返し、遠い日のネタ帳を引っぱり出してこの詩片を読み、そして。
別の本を探そうと本棚を漁っている時。
なんと、文庫版の『宇宙叙事詩』上下巻が出てきたのです!
えっ、持ってたの!?

買ったことをすっかり忘れていました。きっと私にとってこの本は、T姐の思い出とともにあるものだからでしょう。
文庫版は、1995年10月の発行。本屋でこの美麗な表紙を見つけた14年前の私はさぞ狂喜してレジに持って行ったんだろうな。
単行本は、1980年に出たと書いてあります。もう30年近く前の話ですね。
単行本も、文庫本も、現在は中古でしか手に入りません。こんな素敵な本が、絶版なんですねぇ……。
中のイラストも、カラーなんですよ。カラー刷りで1冊580円! 昔は文庫本は安かったな。
久しぶりに読み返して、ほぅとため息をつきました。
上下巻それぞれが12の章からなっており、独立した短いお話もあれば、10章を費やして語られるちょっとした中編もあり。
そのすべてに、滅びの風が吹いている。
様々な理由で、滅んでしまった惑星。それは地球のこともあれば、どこか遠い星のこともある。
他の星からの探査船が、思いがけず未知の菌類をもたらし、その星を絶滅へと導く。
明確に侵略の意図を持ってやってきた船もあれば、そのように、ただ「探査」するだけのつもりで、おおいに星の生態系を乱してしまう船もある。
モチーフは古典的なのですけど、そこに吹く風の色が、響きが、なんともいえないのですよね。
淡々としていて、美しく、儚く、諦めにも似た……。
どんな星のどんな文明も、永遠に繁栄を謳歌することはできない。いずれ、このような荒涼とした風景が広がるのだろう。
直接的には他の惑星の宇宙人の仕業だったとしても、それは決して避けることのできぬ宿命。
けれど、そうであればこそ。
やがて滅びることを知っているからこそ、人は“今”を慈しみ、美しい輝きを見せるものでもあろう――。
上巻の方に一つだけ、阿修羅王が出てくる章があります。
そのお話がまさに、そのことを語っているのですね。
阿修羅王のセリフ。
「生も、死のひとつの象(かたち)。死もまた生のひとつの相(すがた)にすぎない。人の情も夢も、限りある生命なればこそ。その生命が永遠ときそい合って、何を得んとはするか」
私をこの本と出逢わせてくれたT姐に改めて感謝。
そしてT姐との出逢いに感謝します。
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