SNSで「お勧めのSF」について話した直後に図書館行ったら、入ってすぐの新刊の棚にこの本がどーんと表紙を見せて並んでいました。これは借りざるを得ません。

「新刊」と言ってもこれ、昨年の12月に刊行されてるんですけどね。

タイトル通り、800点近い創元SF文庫を古い順から1冊ずつ(もしくはシリーズ毎に)紹介したもの。冒頭には初版時のカバーを並べたカラー口絵が8ページにわたって掲載されており、実に壮観。往年のSFファンの方にはどれも懐かしい表紙ではないでしょうか。

創元SF文庫の創刊は1963年9月。現存する文庫SFレーベルの中でもっとも古い歴史を持つ……って、現存するの、他にハヤカワしか思いつかないけど、ハヤカワSF文庫は1970年8月創刊だそう。ハヤカワは「SF文庫」として出発したものが現在は「ハヤカワ文庫」の中のSFシリーズ、という位置づけになっているようですが、創元の方は「創元推理文庫のSFマーク」として創刊され、1991年10月に現在の「創元SF文庫」という形になっています。

巻末の『SF文庫以外のSF作品(牧眞司)』というコラムに「SFマーク」とともに、「おじさんマーク」「拳銃マーク」「猫マーク」などが載っていて、非常に懐かしい。あああ、これ知ってる、知ってるよぉぉぉ。
「おじさん」は本格推理、「拳銃」はハードボイルド、「猫」はスリラー・サスペンス、「時計」はその他の推理小説、「帆船」は怪奇&冒険小説というジャンル分け。家の本棚をひっくり返せば実際に背表紙にそのマークが付いているやつが1冊ぐらいは出てくる気がするんだけど…。

創元SF文庫最初の一冊はフレドリック・ブラウンの『未来世界から来た男』(→Amazonで見る)。そこから2023年6月刊行の『ロボット・アップライジング』(→Amazonで見る)まで、海外編と国内編に分けて掲載されています。

そのうち私が読んだことがあったのは以下の通り。

E・E・スミス『レンズマンシリーズ』全7冊
ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』
ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』(たぶん『月世界へ行く』も読んだ)
レイ・ブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』
シルヴァン・ヌーベル『巨神計画』
シルヴァン・ヌーベル『巨神覚醒』
シルヴァン・ヌーベル『巨神降臨』
アイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡』全3冊
アン・レッキー『叛逆航路』
マーサ・ウェルズ『マーダーボット・ダイアリー』
マーサ・ウェルズ『ネットワーク・エフェクト』
マーサ・ウェルズ『逃亡テレメトリー』


え?これだけ???
意外と創元読んでませんでした……ごめん。
ディックの『ヴァリス』三部作はハヤカワの新訳版で読んだし、新井素子さんの『グリーン・レクイエム』も別版で読んだ。ってゆーか、今回この解説を見るまで『グリーン・レクイエム』と『ひとめあなたに…』が創元SFに入っていることを知りませんでした。

あと『十五少年漂流記』ってSFなんだ!?とも思いましたね。創元SF版を読んでおきながら今さらですけど。

上記の「読んだ本」のうち、『レンズマン』だけは大昔――高校生ぐらいの時に読んだので、感想記事がありません。逆に他の作品はすべてblog開設後に読んでるわけで、ようやく今になって創元SFを手に取っているのか、と思います。

1984年に『レンズマン』のアニメ映画が公開されるのに合わせて原作を読んだんですが、地元の小さな書店でシリーズ全作を揃えるのは難しく、梅田の阪急百貨店で見つけて、父に買ってもらったことを覚えています。当時、うめだ阪急には書籍売り場があったんですよね。玩具売り場の階だったかな、さほど大きくない売り場だったけど、時々お世話になってました。

あの時買った『レンズマン』シリーズには今はなき「SFマーク」が付いていたはずなんですが、もう手放してしまって手元にない……あああああ、どうして残しておかなかったんだ、俺(※置き場がないからです)。
初版が1966年ということもあって、1984年当時でもかなり訳が読みにくく、「何言ってるかわからない」部分も多かった記憶が(^^;)

なので2002年から刊行された新訳版を読みたいリストに入れてあるんですが、放置して早や幾年。

同じスミスの『スカイラーク』シリーズ全四巻や、バローズの『火星シリーズ』全11巻『金星シリーズ』全5巻など、大部のシリーズ物けっこう多いなぁ、と思ったし、何よりバローズさんの本めっちゃ多い!
E・R・バローズさんって『ターザン』を書いた人で、『ターザン』も創元SF文庫に入っています(→Amazonで見る)。「あ~ああ~~~!」というアレしか知らないので、「ターザンもSFなの???」と。
SF、間口が広い。

マリオン・ジマー・ブラッドリーの『ダーコーヴァ年代記』シリーズは全22冊が刊行。これ、学生時代にお友だちに勧められて、書店の棚で何度も「買おうかどうしようか」と眺めて、結局買わなかった思い出のシリーズで。
ブラッドリーの『アヴァロンの霧』シリーズはめちゃめちゃ好きで、『ファイアーブランド』シリーズ、『聖なる森の家』シリーズも読んだんですが、『ダーコーヴァ』だけ巻数多すぎてチャレンジしなかったという。
本書の解説では、ブラッドリーの性的虐待問題にも触れられています。『アヴァロンの霧』に大感動しただけに、残念……。

シリーズ全作がしっかり訳されているものも多い一方、「残念ながら3作目は未訳」などと書かれているものも複数あり。翻訳物、あとがきや解説に“続きがある”って書いてあるのに全然訳されないまま終わるの、ありがちですよね。ハヤカワのSFやFTでも待ってたのに出なかったアレとかソレとか。
創元さんはとりあえずフレーヴィアシリーズの続きを出してくれませんか!!! SFじゃなく推理文庫の方だけど。

ブラッドリーの件もそうですが、他の訳(たとえばハヤカワ版)への言及がきちんとあったり、他の出版社(たとえばサンリオSF文庫)からの引き継ぎ出版ということが明記されていたり、ただの作品紹介にとどまらず、広い視野で解説されていて、「読みもの」としても面白かったです。
気になる作品には付箋を付けて読みたいリストにぶちこみましたが、初期~1990年代ぐらいまでに出版されたものは図書館にもないものが多く、今から読もうと思うとなかなか大変。結局全然読まずに終わるかも……(弱気)。

巻末には4つのコラムも収録。
・高橋良平さんと戸川安宣さんによる対談『草創期の創元SF』
・加藤直之さんと岩郷重力さんによる対談『創元SF文庫の装幀』
・大森望さんによる『創元SF文庫史概説』
・牧眞司さんによる『SF文庫以外のSF作品』


『草創期の創元SF』が特に面白かったです。SF文庫以前の日本の出版界の様子がうかがえて、懐かしい現代教養文庫の名前も出て来たりして。
1950年代、講談社から「少年少女世界科学冒険全集」が出ているんだけど、なぜ児童書だったかというと、当時はその手の作品は「荒唐無稽」として大人が相手にしなかったからだ、と。
あー、なるほどなぁ。
以前講談社の『少年少女世界文学全集』を読んだ時に、『少年少女世界科学名作全集』の案内が載っていたんですけど、それとはまた別に「科学冒険全集」があるとか、ほんとにどんだけ全集出すの、講談社。


ともあれ小学生の時に図書館のミステリとSFの棚を漁っていた私には「児童向けのSF全集」は懐かしく。どこの出版社のやつだったかもう覚えてないけど、『ジキルとハイド』とか、脳だけ生かされている博士の話とか、その手の児童向けシリーズで読んだんですよねぇ。

「児童ものの世界ではミステリよりSFの方が盛況だったと思います」 (P260)
「なかに科学読物も混ざっていたんです。そうした科学や未来、宇宙といった知識を、これからの子供たちに向けて送り出す、という感じがしました」 (P260)

そんな中、大人向けに文庫でSFのシリーズを出すというのは画期的だったわけですが、意外とこれは「冒険」ではなかったようで。

「海外著作の版権を取って出すという翻訳出版は、小出版社を続けていくのに一番よかったんです」 (P261)
「回転させて少しずつ利益が出て読者も増えていくというのは、SFやミステリといったジャンル出版のいいところだと思います」 (P261)

最近は翻訳物があんまり出版されなくなってると感じますが、かつては「小規模なお金で健全に出版を続けられる手法」(P261)だったんですね。
言われてみれば確かに、新しく日本の作家さんを発掘するより、すでに海外で実績のある面白い作品を紹介する方が、安上がりで「当たる」確率も多そうですが。

あと、「中学生ぐらいなら楽に読めたし、しかも百円とちょっとで買えるという値段の安さもありました」(P261)というくだり。

そう!
昔は!!
文庫が!!!
安かったの!!!!!

300円~500円ぐらいでしたよね? お小遣いで十分買えた。
今、手元にあるコバルト文庫の『星へ行く船』(※昭和60年版)を見たら260円でしたよ。やっす!!!
翻訳物はもう少し高かったかもしれないけど、昭和61年の『闇の公子』(タニス・リー/ハヤカワ文庫)で400円。2008年に再刊されたものは税込み836円とほぼ倍に値上がり(→e-honのページ)。ちなみに来月出る創元SFのマーダーボットシリーズ最新刊『システム・クラッシュ』は1,210円(→Amazonで見る)。今の子ども達のお小遣いがどれくらいか知らないけど、無職主婦にもきっついですよ……。

『創元SF文庫の装幀』には思いがけず「ウルフガイ」の話が出てきました。

「裏までイラストを描くというのは、実は生賴範義さんが平井和正『ウルフガイ』の単行本の時、七〇年代のはじめにやられています。」 (P270)

生成AI画像に関する加藤直之さんの見解も興味深かったです。


読みたいリストにぶち込んだ本、ちょっとずつでも読んでいかなくっちゃ……。