4月18日に宝塚大劇場での千秋楽を迎えた雪組公演、ようやく16日に観てまいりました。

良かったです!!!
とても素敵な作品でした。

観劇前に原作を半分ほど読んでいて、小説の方もとても面白いのですが、その原作のエピソードをぎゅぎゅっとうまくまとめて「宝塚歌劇」にしてあって、ほんとに宝塚というところは間口が広いというか奥が深いというか、どんなジャンルでも呑み込んでしまうなぁ、と改めて感心。

何より彩風さんの夢介が本当によくハマっていて素敵なんですけど、夢介って、宝塚のトップスターがやるようないわゆる「格好いいヒーロー」では全然ないんですよ。
ポスターだけ見ると「かっぱからげて三度笠」、腕の立つ渡世人っぽいけど、実は小田原の百姓のせがれ。そのへんの武士よりずっと裕福な豪農のおぼっちゃんではあるけれど、一人称は「おら」で、じいやにすら「ぼーっとした牛みたいな男」と言われるほどのんびりした性格なのです。

豪儀な父親から「千両やるから江戸で道楽修行してこい」と言われた夢介、道中で「おらんだお銀」と名乗る美女に早速百両取られるも、「おもしれぇ芝居を見せてもらった」と意に介さない。ぼんやりしていると見えて、「鉛と金では重さが違う」とすり替えられたことにはちゃんと気づいているんですよね。その上で、「そのお金はあねごさんのご祝儀に」とにっこり笑ってしまうのです。

夢介のあまりの懐の大きさにすっかり心を奪われてしまったお銀はそのまま一緒に江戸までついてきて、おしかけ女房に。
そして江戸でも夢介は事件に巻き込まれるたび五十両だの百両だのを惜しげもなく振る舞い、八方丸く収めてしまう。
原作の方に「明朗朴訥なスーパーマン」という解説があるけど、宝塚的な「格好いい主役」ではないのに、温かくて優しくて器の大きい魅力的な人物で、ほんと原作読んでる時から「これ彩風さんの優しい雰囲気にぴったりだな」と。

きっぷが良くてやきもち焼き、すぐ啖呵切っちゃうお銀あねごも朝月さんに合ってるし。

でも朝美さんが総太郎って大丈夫? 全朝美ファンが石田先生に怒り心頭では、と思ったんだけど。
これまた大丈夫なのがすごい。
なんでだ、なんで大丈夫なんだ、観て楽しんだ後でも不思議すぎる。

総太郎は伊勢屋という大店のぼんぼんで、ほんまもんの道楽息子。「通人」を気取り、親の金で遊び放題、「わたしが江戸の遊びを教えてやろう」と夢介を誘いながら、その実「今日の勘定はあいつが払うよ」と夢介の懐が目当て。今日の分だけでなくツケの分まで払わせて、なのに夢介が悪党に絡まれると「あんな田舎者、ツレでもなんでもございません」としらばっくれて見捨てる始末。
女に目がなく惚れっぽく、「なんせこの顔、この器量」、女の方が放っておかないんだと自惚れてはトラブルに巻き込まれる困ったバカ旦那――絶対に宝塚の二番手男役スターがやる役じゃないんだけど(石田先生も「もし自分が映画監督なら高田純次か生瀬勝久を起用したい」と言ってる)。

なぜか朝美絢の新たな魅力爆発!みたいになってて楽しいすごい
最初「この顔、この器量」だったのが「この顔、この声」、さらには「この目力」と朝美さんならではの台詞になり、「~でゲス」というゲスな口調すら癖になる。
笑わせてもらったわ~~~。ほんとタカラジェンヌすごい。

組替えで今作から雪組三番手となった和希そらさんは巾着切りの三太役。原作では「14~15歳の小僧」となっているところ、宝塚版ではもう少し上の「17~18歳」ぐらいとされ、お銀とは幼なじみという設定も付加されてる。お鶴と亀吉という幼い弟妹の面倒を見ていて、またこのお鶴ちゃんが妙にしゃちこばったお上品な物言いで笑わせてくれる

和希さんは口舌がよく、活きのいい少年スリをこれまた好演。三太が「親の金で遊んでるくせに」「俺は親なし子だから」と言って、夢介が「バカなこと言うでねぇ、親がなくてどうして生まれてこれるもんか」と諭すシーンはほろりとしてしまった。

夢介が災難を切り抜けられるのは「親の金」のおかげではあるんだけど、お銀はじめまわりの人間がほだされて「自分もまっとうな生き方をしよう」と心を入れ替えてしまうのは、夢介のまっすぐで温かい人柄ゆえなんだよね。
彩風さんの夢介、本当にハマりすぎ

この公演がサヨナラとなる綾鳳華さんは船頭の悪七
これも配役見た時に「えーーっ、最後なのになんでそんなつまらん小悪党の役」と思ったんですが。

夢介に顎をはずされ「あご七」と呼ばれたり、雨宿りでの美人局で夢介と鉢合わせして「またお前か!」と嘆いたり、最後には心を入れ替え「舎弟にしてください!」と頼んだり、彩風さんとの絡みがたっぷり
格好いい役ではないものの、出番は多めで良かったです。

原作では雨宿りの美人局は悪七ではないし、悪七の情婦はお滝ではなく梅次なのですが、1時間半のお芝居にまとめるにあたってうまく登場人物を整理しているなぁ、と。
三太の幼なじみで蕎麦屋の娘のお糸も、原作でのお糸とお米をミックスしたキャラクターになっていた。
原作ではお糸は米屋の娘で三太とは無関係、お米も蕎麦屋ではなく鍋焼きうどん屋の孫娘だったりします(※その後蕎麦屋を開業するもよう)

で。
私が読んでいる原作の、少なくとも前半には出てこない「金さん」が、宝塚版には出てくる。
原作者の山手樹一郎さん『桃太郎侍』を生み出した方でもあり、『遠山の金さん』も小説化されているんですよね。たぶんそれで石田先生が金さんを登場させたと思うんだけど。

前半は遊び人の「金の字」として登場、八丁堀同心から「おまえも早く長崎奉行の父上のあとを継いで」などと言われるシーンがあり、「遠山の金さん」であることが匂わされます。この場面では「大岡越前」の名前も出てきて、時代劇好きとしては「ふふっ」となってしまう。

しかも最後には「お白洲」で「これにて一件落着!」をやってくれるんですよ。さすがに「この桜吹雪が目に入らぬか」はないものの、「やいやいやい!」と袴の裾をひきずって大見得を切る。
まさか宝塚で金さんを見ることがあろうとは
いやー、楽しいな。

金さん役は縣さん。なかなか見事な大見得でした。たぶん、縣さんのために金さん出したんでしょうね。夢さん以外はおおむね悪党しか出てこないお話だから、縣さんにも見せ場を与えるには、と。
ある意味今作で一番美味しい役だもんなぁ。

夢介の「じいや」嘉平役で汝鳥さんの元気なお姿が見られたのも嬉しかった。

開演前のこのタイトル映像も可愛かった。

ここから「おひけぇなすって!」と夢介が股旅名乗りで幕を開け、三度笠ダンサーと早乙女ダンサーが加わって賑やかにプロローグ。
短いけれど「春のおどり」っぽくて楽しかった。

そして最後は夢介の「お手を拝借」で客も一緒になって三本締め。
本編ももちろん良かったけど、この最初と最後の構成も良かったなぁ。石田先生、お見事。

山本周五郎作品とか「人情もの」はけっこうやってるけど、こういう「娯楽時代劇」を宝塚でやるってなかなかないよね。若い人にはどれくらいウケるのかわかんないけど、時代劇好きなおばちゃんには大変楽しい作品でした。一緒に観劇した母も「面白かった」と。

母は「芸者さんとかの着付けもちゃんとしてて良かった」とも言ってました。
着付けや所作等、受け継いでいくためにも定期的に日本物をやってほしい――特に日本物ショーをやってほしいものです。


そしてそして。
ショー『Sensational!』も良かったです!
大好きな中村一徳先生の作/演出。さすが一徳先生、最初から最後までクライマックス! 入れ替わり立ち替わりの群舞がこれでもか!と。生徒さんみんなすごく大変そうだけど、観る方はめちゃくちゃ楽しかった♪

もうプロローグからギンギラシルバー衣裳で格好良くてテンション上がる。第3章「Sensational Music」では大好きな「キャラバン」の曲が使われていて、アレンジもダンスも最高。怒濤の中詰め第5章から、「あれ?もうフィナーレ?」って勘違いするぐらい盛り上がる第6章。本当のフィナーレでは男役燕尾大階段が銀橋にまで出張ってくれて。
ずらり銀橋に勢揃いする燕尾の男役陣、格好良すぎだろぅぉぉぉぉぉ!

さらに『黒い瞳』、デュエットダンスは「アモーレアモーレアモーレ、アモレミオ~♪(死ぬほど愛して)」、一徳先生の曲のチョイスが毎回好みすぎる。

退団する綾さんはいかにもサヨナラな歌詞(♪最後に触れた雪のきらめき、夢は続く、忘れない♪みたいな感じ)のソロ歌唱があり、フィナーレでも彩風さんとの絡みがしっかりあって。

あー、ほんとに残念だなぁ、綾さんの退団……。

和希さんは歌もうまくて、朝美さんはまさに「この顔、この声、この目力」。
そして彩風さんのやわらかい声音がまた良いのよね~~~~~~。
お芝居もショーも、堪能いたしました。


原作後半を読み進めつつ、余韻に浸ろうと思います。


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