先日読んだ『「植物」をやめた植物たち』の次号予告に載っていた『たくさんのふしぎ』2023年10月号「いろいろ色のはじまり」(→Amazonで見る)が面白そうだったので、図書館で借りてみました。

『「植物」をやめた~』も大変面白かったですが、こちらも「へぇー!」というお話のオンパレード。
人類が何から「色」を取り出し、利用してきたか。
「石をくだく」「土を焼く」「宝石をくだく」「猛毒と化学反応させる」――。

ただきれいな色の石をくだいて「色粉」を作っても、それだけではすぐに剥がれ落ちてしまう。だから「膠(にかわ)」を繋ぎの糊として使うのですが、古代人が描いた洞窟壁画の“絵の具”にも動物から採った血や脂、膠が使われているそうで。
昔の人、賢いなー。

ラピスラズリから作るウルトラマリンの話、動物の血や肉や皮から作るプルシアンブルー、猛毒の砒素を使って作るシェーレグリーンパリグリーン
着ると砒素中毒を起こす緑のドレス、カビが生えると毒ガスが出る緑の壁紙……ひぃぃぃ。今は安価な青があって良かったし、安全な緑があって本当に本当に良かった。

「顔料」と「染料」の違いもわかってるようでわかっていなかったので説明がありがたく。

「布を染めるから染料」、ではあるんですが、糸を染めるためには水に溶けなければならず、しかし糸にくっついた後は洗濯しても水に溶け出してはいけない。
「これはとてもむずかしい注文で、こういった色素はなかなかありません」(P25)
ですよねぇ。

しかし人類は昔から「どうにかして布を染めたい」と思っていたらしく、自然の中から「染料」を見出してきた。
植物の葉から採る「藍」、貝から採る「貝紫」、紅花から採る「赤」
「藍」もただ葉っぱの絞り汁を使うだけでなく、腐葉土にして微生物の力で染め液を作る方法があるそう。「貝紫」もただ貝のパープル腺から採れる液体を塗っただけでは駄目で、日光を当てないと紫にならない。そして一度紫になったら、何度洗っても紫色が落ちることはないそうな。

それぞれただ理屈を説明するだけでなく、実際にタデアイを使って葉っぱのもようをたたき染めにしたり、アカニシという巻き貝を使って貝紫染めに挑戦する様子が紹介されています。
「顔料」に「膠」という糊が必要なように、「染料」の方も「ミョウバン」という「媒染剤」を使えば「洗っても簡単に落ちない」を幅広く実現できる。
ミョウバンを使った草木染めの実例も紹介されていて、行動力のあるお子さんなら「早速やってみる!」ってなりそう。

あと「アカネ」と「ムラサキ」。根が赤い染料として使えるから「アカネ」、紫色に染められるから「ムラサキ」――ネーミングがそのまますぎる! 紫の方は花の名の方が先で、そこから採れる色を花の名で呼んだようですが。
「ムラサキ」は非常に弱い植物で栽培が難しく、いまではまったくといっていいほど見かけない、と紹介されているのですが、滋賀ではその「ムラサキ」を復活させて町おこし!みたいな活動がされていて、化粧品まで発売されています。(→環境省の“琵琶湖の源流発SDGs 東近江ムラサキ紫縁(しえん)プロジェクト”紹介記事
この本でも「ムラサキの色素は肌の病気の薬でもあり、いまでもムラサキの色素は薬としてつかわれています」(P34)と解説があります。なるほどそれで化粧品。しかし薬に使う「ムラサキ」は海外で栽培されているんでしょうか??? 天然ではなく合成色素を使っているのかしら。

合成染料、合成顔料のこともしっかり説明があり、最後は「色が運んでくるテクノロジー」

現代の色素は、ものに色をつけるだけにとどまらず、さらにさまざまなしごとができます。光を別の色の光に変えたり、光を電気に変えたり、あるいは光の力をつかって、いやなにおいを消したりできます。 (P38)

あー、光触媒とかそーゆー、と思いつつ、あんまりピンとこなかったりして(^^;)
色は光の波長の違い、というの、頭では理解しているけど、「宝石をくだいて色を作ります」の話のあとに来ると「え!?色って物質が持ってるものじゃないの!?」ってなりますよね……。

著者の田中さんのご専門は有機・無機ケイ素化学、結晶学、鉱物学だそうで、研究されている「まだ名前のない色」の写真もあります。その説明として

「紫外線が当たるとそれを吸収して、別の色の光を発します。この光は普通の光ではなく、偏光という特別な情報を乗せています。これをつかうと、光通信にさらにあたらしい情報を増やすことができます」
 (P39)

と書かれていて……うーん、難しい!

付録として付いている「幻の色ポスター」、これがまたすごい。いまでは手に入らなくなった色を中心に、一色一色田中さんが原材料を集め、実際に染色した(またはキャンバスに塗った)色見本ポスター。全64色。
例の、「着ると砒素中毒になる」パリグリーンも再現されていますし、「エジプトのヒトやネコのミイラを粉にした顔料」マミーブラウンという色も。
「今では使われない」色が多いので、説明を読んで「はぁ?」となるものもあり、とても興味深かったです。

ええっと、それで田中さん、このマミーブラウン、どうやって再現したんですか? ミイラ、取ってきたの……?