風間柚乃さん主演ミュージカル『稲妻開化譚ーイナズマカイカタンー』、9月21日のライブ配信を観劇いたしました。
この公演は「兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール」で2026年9月13日~9月22日、KAAT神奈川芸術劇場で10月4日~10月10日まで上演。KAATでの上演前に、早々にライブ配信とDVD収録が行われたわけですね。
作/演出は齋藤吉正先生。オープニングの稲妻小僧5人名乗りがいかにも齋藤先生ぽかったです。「先生、戦隊やりたいだけでは!?」と思ってしまった。ちゃんとピンク(女性)もいたし。
お話は、まだ明治になる前の会津から始まります。赤子を抱えて川に身を投げようとする女、ゆり。彼女を追ってきた男、東瀬想馬(あづせ・そうま)。武士である想馬との身分違いの関係を悲観したゆりは、産まれた赤ん坊ともども死のうとしていたのです。
想馬はなんとか赤子を助け出しますが、ゆりはそのまま行方不明。風馬(ふうま)と名付けられた赤ん坊は想馬の正妻を母として育ち、明治18年の“現在”、東京の茗荷谷で小さな新聞屋を営んでいます。
主筆として記事を書く傍ら、仲間とともに怪盗「稲妻小僧」として“世直し”を実践する風馬。ある日、彼の正体に薄々気づいていた伊藤博文から、「何者かに盗まれた“黄金の飾り皿”を奪い返してほしい」と頼まれて――。
冒頭、ゆりが川に身を投げようとする場面、階段と布を使って急流(というか滝?)を表現する演出がよくできてましたね。伊藤博文や板垣退助が登場し、維新政府内での対立が描かれたり、維新政府に異を唱える「稲妻小僧」の存在など、見ながらずっと『るろうに剣心』が頭をよぎっていました。
図らずも、伊藤博文を追い落とそうとする勢力と対決することになる風馬。しかも自身の父、警察官として伊藤に仕えているはずの東瀬想馬がどうやら敵に寝返っているようで。
もともと風馬は父を毛嫌いしていて、この「父と子の反目と和解」が大きなテーマだと感じました。ていうか、むしろこれお父さん=想馬の物語なのではないかと。幕が開いて、いきなり愛した女に身投げされるところから始まるんですからね。
風馬が父親を嫌っているのは、戊辰戦争の折、二本松少年隊として戦っていた時に「父に裏切られた」せい。「ここで潔く死のう」と思っていた少年たちの思いを踏みにじり、隊長であった父は新政府側に寝返った。それ以来、風馬は父に反発して生きてきた。
当時の時代状況的に言えば、「降伏するぐらいなら潔く腹を切る」が武士の誉れ、死んでいった多くの仲間たちのためにも徹底抗戦、自分たちだけ見苦しく生き残るなんてありえない。それなのに父は――なんでしょうが。
全然風馬に共感できないよー。「少年たちを死なせたくない」という一心で官軍に頭を下げたお父さん、めちゃくちゃ立派やん、ええお父さんやん。川に飛び込んでせっかく助けた息子、愛した女の忘れ形見である息子を、こんなところで死なせたくない、という父の気持ちがなぜわからんかぁーーーーー。
って、風馬は自分のそんな出自をまったく知らず、幼い頃に亡くなった想馬の正妻を“実の母”と思って育ってきたんですけども。
それにしたって、ねぇ。
お父さん=想馬役は英かおとさん。『侍タイムスリッパー』では心配無用ノ介こと錦京太郎をだいぶコミカルに演じてらした英さん、今回は「秘めた想いを抱えた無口な男」を好演。実は生きていた(!)ゆりとのやりとりも、クライマックスでついに真意を明かすところも、とても良かったです。
ゆり役は朝香ゆららさん。えーっと、もう研8かな? とても愛らしい雰囲気の方でした。実は生きていたゆりさん、東京に出てきて想馬や風馬と再会します。風馬には自分が母親だなどとは告げず、「息子に手紙を書きたいから」と字を教えてもらう。その手紙を、風馬はゆりが亡くなったあとで手にするんですけど……いや、ちょっと、ゆりも想馬さんもそれはひどいのでは。生きてるうちに名乗ってあげなよ……。
で、ゆりが身を投げてから30年、みたいな話があって、そこもびっくり。ゆりさん全然年取ってない! 若い!!! 当時のことだから風馬産んだの16とかかもしれないけど、それにしたって全然見た目が変わってない。まぁそれは舞台だし、研8のジェンヌさんにそこまで老けメイクさせることもないので仕方ないけど、風馬30歳にもなってまだ父ちゃんの真意に思い至らないの!?って思ってしまった。
風馬役はもちろん風間さん、着物にブーツというハイカラな出で立ちがよく似合って格好良く、歌もお芝居も安定した巧さ。でも風馬というキャラクターにあまり共感できなかったせいもあって、これと言って印象に残る場面が……。「稲妻小僧」としての見せ場も思ったよりなかったし、『侍タイムスリッパー』の風見や『RYOFU』の董卓を見た後ではあまりに普通で物足りない。とはいえこういう「普通の青年」の風間さん、新鮮ではありました。月組観劇歴が浅いので、風間さんといえばネイサン(『GUYS AND DOLLS』)とか董卓、という濃ゆいイメージだったので。
あ、「風馬」っていう役名、「風間」を「ふうま」と読んで引っかけてるのかな?
伊藤博文役は安心と信頼の佳城葵さん。政治家としては敏腕でありながら女好きで、妻には頭が上がらないちょっとコミカルな伊藤、巧いですわ~。妻・梅子役の梨花ますみ組長との掛け合いもバッチリ。だいぶ年上女房ですわね。
この座組では2番手男役になる彩海せらさんは田丸信造役。風馬と同じく二本松少年隊に参加していた人物で、自分をかばって長州武士に斬られた親友の仇をとろうとずっと一人で奮闘してきた。
最初に登場するシーンでは髭もあって、ちょっとやさぐれた悪党ぽい彩海さんが新鮮。『GUYS AND DOLLS』では風間ネイサンにベタ惚れなアデレイドを演じていたのに、今回は対立する役どころ。ほんとにタカラジェンヌは演技の幅が広い。
親友の妹ふくを吉原から救い出すため大金を必要とする信造は、悪い連中に騙されて稲妻小僧になりすまし、伊藤博文の屋敷から“金の飾り皿”を盗み出していた。そして言われるがまま、さらに悪事に手を染めようとする。
見ている方は「そんなん騙されてるに決まってるやん、なんでわからへんの~」と思ってしまうんですが、信造は風馬の言葉にも耳を貸さない。
やさぐれ系彩海さんは新鮮で格好良かったけど、風馬と信造とのやりとりは意外に少ないというか、本物の稲妻小僧と偽物との丁々発止、みたいなストーリーではないので、いまいち目立たない役だったような……。とにかく私には「父子の物語」に見えて、それはそれで有りなんだけど、彩海さんファンとしてはもっとがっつり稲妻小僧vs偽稲妻小僧の活劇が見たかったなぁ。
「父子の物語」の次に重きを置かれているのが風馬と岩城麻里との「恋バナ」。風馬の新聞社の隣には「伊予松山塾」という私塾があって、それを主宰しているのが彼女(※塾名うろ覚えです。間違ってたらすいません)。
その名の通り伊予松山出身らしい士族の娘・麻里は、やたら「ぞなぞな」「もしもし」言ってて、剣の腕にも自信があるらしく、とにかく威勢が良くておきゃんな「おひぃ様」。
演じるのは白河りりさん。そういう演出なんだろうけど、だいぶ誇張して演じてらして、ちょっとうるさすぎるヒロインでしたね…。生で舞台を観る分にはそんなに気にならないのかもしれないけど、テレビで映像として観るとどうしてもやりすぎに見えちゃう。とはいえ颯爽とした道着姿、普通の着物姿、鹿鳴館用ドレスなどどれも可愛く、最初は反発している風馬にどんどん惹かれていくりりちゃん、愛らしかった。根付けがみかんなのも細かい。
伊予松山塾には夏目金之助、正岡常規、そして「ジュン」と呼ばれる塾生がいます。夏目は後の漱石、正岡はもちろん子規、でも「ジュン」って誰!? キャスト一覧見てもそんな役ないけど???
若手スターさんのお顔も覚えていないので役者さんの顔でも誰だかわからずググった結果、「ジュン」と呼ばれていたのは秋山真之(あきやまさねゆき)なる人物。お話の最後で海軍に入ることが語られ、後に「連合艦隊参謀になる」と紹介されていたんだけど、「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」の人らしい。へぇぇぇぇ。
史実的にも秋山と子規は幼なじみの親友で、司馬遼太郎の『坂の上の雲』は秋山兄弟と子規の3人が主人公らしい。つまり『坂の上の雲』を知っている人にはあの3人の面子は自明ということ……。幼名が「淳五郎」だから劇中ではずっと「ジュン」、子規も時々「のぼる」と呼ばれていて、見ていてちょっと混乱しました。ドストエフスキーの登場人物並みに本名と愛称との関係が難しいぞ、昔の日本!
「ジュン」役の雅耀さんは大柄なイケメン、子規役の天つ風朱李さんは細くてちょっと娘役さんみたいな雰囲気だった。子規の野球好きとか色々つぎ込まれて、最後には「この3人がやがて…」と説明までされていたけど、そんなことよりもっと偽稲妻小僧を――と思わないこともなかったです。
警察官浜崎役の七城雅さんもイケメンだったなぁ。「お米」役の帆華なつ海さんは滑舌よく声量もあって良かった。でも「およね」ではなく「おまい」というネタはちょっとしつこすぎたかな。
コメディ風味の多い、わかりやすいお話で、なんか、バウホールでもっと若いスターさんがやったら楽しそうな感じでしたね。史実と合わなくなるかもしれないけど、風馬の年齢をもう少し下げて、風馬の方をがむしゃらにして、偽稲妻小僧をもうちょっとクールにして、最後は2人が力を合わせて、みたいな感じに――。
次の大劇場公演で鳳月さんと天紫さんが卒業されて、まず間違いなく風間さんがトップ男役に就任されると思いますが、娘役トップは誰になるのか。今回の風間さんとりりちゃんのコンビ、歌やお芝居の実力的にも、見た目の雰囲気的にもお似合いだなぁと思いましたが、劇団もそのつもりで二人を組ませたのかどうなのか。
そして齋藤先生は次回『あぶない刑事』ということで。
ちょっと、『あぶ刑事』好きすぎて、嬉しいよりも不安の方が強かったりするんですが。齋藤先生のことだからきっとナカさんの扇子ネタとか全部盛りで来てくれると思うんですよね。『シティハンター』の時もてんこ盛りだったし。でも宝塚の『あぶない刑事』だから、あまりそういう要素にこだわらずに、ただただ暁さんと瑠風さんが格好良く、唯一無二の“バディ”だったらいいな、と思います。
しかしチケット取れるのかしらん……。
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