毎日新聞の書評で、江國香織さんがすごく褒めていたので興味を引かれ、購入した『犬の力』。

「このミステリーがすごい!海外1位」という帯に、「なんだ、そうなの。じゃ買うのやめよっかな」とも思ったんだけど(笑)。

なるべくベストセラーとか話題作には近寄らない主義(爆)。

みんなが読んでるんだったら、私が読む必要はないだろう、と思ってしまうのです。

まだあまり日の目を見ていない傑作を自分の嗅覚で嗅ぎ当てる方が断然面白いに決まってるし。

まぁ、でも、せっかく本屋をはしごして見つけた本なので(さすがに「このミス1位」だけあって、もう下巻しか残ってない店や、まったく影も形もない店があった)、上下巻合わせて2000円、という高額にも屈せず、お買い上げしました。

んで。

昨夜、上巻を読了。

うーん。

面白いことは、面白い。

どんどんと頁を繰ってしまうのは確か。

でも、「好きか?」と訊かれれば、「好き」とは言いにくい。

メキシコを舞台にした30年に渡る麻薬戦争を、大勢の登場人物の織りなすタペストリとして見せてくれるこの作品。

とっても血なまぐさい。

これの前に読んだのがあの牧歌的な、「11歳の女の子が主人公」の昔懐かしいほのぼの系ミステリーであったこともあり、この作品の暴力性、血なまぐささに少し、辟易とする。

『パイは小さな秘密を運ぶ』がCWAデビュー・ダガー賞を受賞した時、審査員達はあの作品のウィットとユーモア、生き生きした人物造形に惹かれたそうだ。ミステリーの賞ゆえに、他の作品は「たいてい惨殺死体の発見に始まり、陰惨な様子が事細かに書いてある」。そして「そんなのばっかり読まされてるとうんざりしてくる」と。

わかるなぁ。

審査員の人達はきっと、『パイは-』のフレーヴィアに出逢って、ほっとしたんだろう。

惨殺死体なんかなくても、血みどろの抗争なんかなくても、面白いミステリーはちゃんと書ける、ということ。

この『犬の力』を読み始めて、私も『パイは-』の魅力を再確認した。


もちろん、『犬の力』にもぐいぐいと引き込まれる力はあるんだけど。

確かに「すごさ」は感じるんだけど、これが1位なのか、って気もする。そもそもこれ、ミステリーなの?(笑)

昔懐かしい推理小説や探偵小説だけが「ミステリー」じゃないんだな、と改めて思わされたりして。

「謎解き」の話ではないもんね。クライム・ノヴェル。

犯罪を軸にした大河小説。

世界がこんなにひどくなければいいのに、と思わされる。

そのような側面から目を背けてはいけないのだろうし、そこに生きる人間達に「激しいドラマ」「描くに足るドラマ」があることは認めるけれど、でもわざわざ空想の(フィクションの)世界でまで、血と暴力の現実を見たくはないというか。

江國香織さんはこの本を2度も読んだらしいけど(毎日新聞の書評記事)、私はたぶん下巻を読み終わったらすぐに売りに行きます(笑)。

「面白い」ということと、「好き嫌い」は別だからなぁ。

『地獄の黙示録』と『ポニョ』と、どっちが「すごいですか?」どっちが「好きですか?」みたいな……(すいません、どっちも見たことないです)。

そもそも江國香織さんの本を読んだことないんだから、彼女の書評で本を買ってしまったのは早計という話も(爆)。

図書館で借りれば十分だった、という気はする……。

まだ上巻しか読んでないのにこんなこと言うのも何だけど。

『犬の力』と『パイは小さな秘密を運ぶ』だったら、私は『パイは-』の方をお勧めする。まぁ、勧める相手にもよるけど。

もしもこの『犬の力』を書店の棚から自分の嗅覚で探し当てたのだったら、また少し違った感想を持っていたのかもしれない。

本でも音楽でも映画でも、人の好みって本当にそれぞれで、誰かが「いい!」と言っていたからって、自分もそれを「いい!」「好きだ!」と思うかどうかは本当にわからないんだよなぁ。

この間も、友達と『のだめ』の映画の話をしてて、私も友達も「良かったよねー、泣いちゃったよねー」だったんだけど、友達の知り合いは「しょうもなかった」との感想だったらしく。

じゃあ「泣いちゃった」友達と私は感性が似ているのかというと、以前彼女に勧めてもらった本が、私にはまるで面白くなく……。

難しいですな。


とりあえず、引き続き下巻を読みます。最後まで読んだらもしかして、「やっぱりすごい!売ったりしないで置いとく!」って感想に変わるかも???