著者藤村シシンさんのTwitterを拝見して「読みたいリスト」に入れてから早や数年…。
やっと読みました。

予想に違わず面白かったです。

全体は大きく三章に分かれ、それぞれ『「古代ギリシャ」の復元』『ギリシャ神話の世界』『古代ギリシャ人のメンタリティ』とタイトルがつけられています。

このうち『ギリシャ神話の世界』部分は「オリンポス十二神の履歴書」がメインとなっていて、ゼウスやヘラ、アポロンやアテナといったおなじみの神々について誕生地や女性遍歴等、詳しく知ることができます。

「十二神」と言いつつ実際には十五神が紹介されているのですが、それは

古代ギリシャではこの十二神に誰を入れるかには明確なルールはなく、各都市がほぼ自由に「推し神12柱」として決めているので、ここではよく推されている神を選んで掲載しています。 (P50)

とのこと。
「推し神」という言い方からもわかる通り、藤村さんの文章は“今どき”でとっつきやすく、大変読みやすいです。

各神様の「有名なセリフ」なども藤村さんの「訳」で読むとわかりやすく楽しい。
ギリシャ神話の主要な神々はあまりに有名で、「おおまかなところ」は知ってるつもりでしたが、改めて「そういうことか」「そういう側面もあるのか」と発見が多かったです。

現代ではすっかり無名になってしまった炉の女神ヘスティアが、古代ギリシャでは「他のどの神よりもまず最初に供犠を受ける」神だったこと、伝令の神ヘルメスが庶民の間では詐欺師や盗賊の神だったこと。

デメテルの娘ペルセポネが冥界の王ハデスにさらわれた話は知っていましたが、怒ったデメテルが

「もう地上に一切植物生やさないからね! 人間も神も飢えて死ぬがいい!」を有言実行 (P159)

したというのは「あれ?そうだっけ?」と。
引きこもって天岩戸の天照大神状態、というのはそういえば聞いたことがあるような。

娘をさらわれ落ち込んだデメテルを慰めるため人間の女性が卑猥なことを言ったりして彼女を笑わせた、という話、まさに「天岩戸のアメノウズメ」で、遠く離れた地で同じような神話が語られているの、ほんとに面白いですね。

古代ギリシャは「男社会」で女性は抑圧され、

古代社会における女性の最大の役割は「子どもを産むこと」でした。 (P243)

だったそうですが(現代日本でも…?)、ヘスティアやデメテルの存在にはさらに昔の「地母神信仰」のようなものが残っているような気がします。
現代では「太陽神アポロン」に対して「月の女神」という位置づけをされるアルテミスも、

元々はアポロンよりも強大で古い神格でした。 (P145)

と紹介されています。古代世界で最も巨大で最も壮麗なエフィソスの神殿もアルテミスのものだったと。

最後に紹介されているディオニュソスがまた興味深くて、ディオニュソスって「ひげ面のおっさん」のイメージがあるんですけど(アニメ『神撃のバハムート』のバッカスのイメージが(笑))、年若い美少年の姿で表されることもあるそうで。

紀元前1世紀にしてすでに「ディオニュソスついては諸説紛々、みんなの書いている内容が一致しない」と言われていたぐらいとらえどころのない、謎に包まれた神なのだそう。

理性、秩序、光明のアポロンと、狂気、混沌、忘我のディオニュソス。この一見相反する二神が世界の中心の神殿をシェアしていた――この状況がギリシャ神話の、そしてギリシャの神々のおもしろいところです。 (P201)

うん。
いいなぁ、古代ギリシャ人の考え方。

というわけで第三章『古代ギリシャ人のメンタリティ』がまた大変面白い。
有名な寓話「アリとキリギリス」が元々は「アリとセミ」で、今私たち日本人が知っているお話とはだいぶ印象が違うのにはびっくり。「キリギリス」タイプの私としては元々のバージョンに救われる思い(笑)。

古代ギリシャに「神」はいても「宗教」はない (P223)
古代ギリシャ語には「宗教」という言葉はありません。彼らにとって神に祈り、儀礼を捧げるのは、父祖から受け継いでいる「慣習」です。 (P223)

という話は、「天岩戸」と同じく「なんて日本と似てるんだ」ですしね~。
脚注に、“英語のreligion(宗教)」という言葉はラテン語のreligio(再び結びつける)から来ている”とあるんですが、それってまさに「縁」では。
あ、でもそういう「縁」は「仏縁」で仏教か……日本古来の言葉じゃないか……。

「古代ギリシャでは両性愛が一般的」というのも、日本でも平安時代まで貴族の男は「両性愛が一般的」ですよね。男色で出世するんだから。

古代ギリシャにおける「同性愛(少年愛)のルール」も紹介されており、「へぇぇぇぇぇ」と思います。

第一章の『「古代ギリシャ」の復元』では、

「古代ギリシャを西洋の起源に仕立てあげていること自体、ヨーロッパ人による『歴史のねつ造』なのではないか?」という問題です。 (P21-22)

と書かれ、「白亜の神殿」も「後から作られたイメージ」なんだそうな。
漂白されたパルテノン神殿をもし古代ギリシャ人が見たら「なんじゃこりゃ!」って言うのかな。


読みやすくて面白く、勉強にもなる本でした♪