
2025年10月27日発売だった日本語版第5巻。3巻と4巻の間がほぼ1年空いたことを考えると、ずいぶん早く(4巻から7か月しか経ってない!)刊行されました。めでたい!ありがたい! 6巻以降もさくさく出版されますように。訳者の鄭穎馨さん、版元のフロンティアワークスさん、何とぞよろしくお願いいたします。
というわけで、発売日翌日には手に入れ、11月13日には読み終わっていたのですが。
色々あって感想記事書くのが遅くなってしまいました、もう2か月経ってるマジか。とにかく今回も盛りだくさんで情報量多くて、殿下の過去のお話があまりにつらすぎて、思わずSunoで「どうすれば良かったんだよ!!!!!(怒)」という歌を作ってしまったほどでした。本当に、よくもまぁ今のあの一見へらへらとした、温厚で人あたりの良い謝憐になれましたよね。あれほどの目に遭って。
えーっと、4巻で銅炉山へとやってきた謝憐と花城。かつての烏庸国の大殿を調べていたわけですが、そこに聞こえてくる南風と扶揺の怒鳴り合い。その大声が雪崩を呼び、一行は雪に埋もれることに。
謝憐と花城が逃れたのは地下の広大な石窟。そこにはあまたの石像があり、その姿はすべて仙楽太子――謝憐を模したものでした。
「ここは万神窟だ」
謝憐が答えると、慕情は辺りを見回して呟く。
「これを完成させるのにいったいどれほど年月をかけて、どれほど心血を注いだのか。本当に……本当に……」 (P36)
「絶境鬼王」となるべく気の遠くなるような修行をこなしていた花城が、心のよりどころとして心血を注いで作り上げた神像たち。あまりにも細かく、衣装までも完璧に再現されているがゆえに、顔を見なくても誰の像かがわかるほど。
なのにそれを「気持ち悪い」と言う慕情……って、その前に。
突然出てきましたね、慕情。喧嘩している声は南風と扶揺だったのに、いつの間に慕情=玄真将軍までやって来たのか。はい、そうです、扶揺は慕情、そして南風は風信=南陽将軍その人だったのです。
中天庭から降りてきた若い武官? そんなものは存在しない。「南風」と「扶揺」は風信と慕情が姿を変えた分身だったのだ! (P27)
謝憐は最初の与君山の時からもう疑ってて、半月関の頃には確信していたらしい。ええー、そうだったんの、おばちゃん全然気づかなかったよ……。だって二人とも東南と西南の将軍なんでしょ? それにしては暇だし、何よりすぐ喧嘩する二人、立派な将軍様にしては子どもっぽすぎるやん。
ともあれそんなわけで石窟で合流した慕情と風信、細部に至るまで完璧に彫られた神像群を見て「気持ち悪い」って言うんですよひどい。「細かすぎて執念を感じる」というのはまぁ、わからないでもないけど。
石窟には神像だけでなく数々の壁画も描かれていて、その中にあの、「上元祭天遊」の場面もあり、ついに花城があの「落ちてきた子ども」であることが明かされます。ついに!!! ああ、もう、長かったなぁ、ここまで!
しかしまたしても風信と慕情に「八百年も殿下をつけ回してきたのか、クソッたれ!」と言われてしまうんですよ。「ずっと見張ってたのか? そして未だにつけ回しているなんて。ただの信徒ならここまでやらないだろ」と。
いや、まぁ、うん、そうね、確かに尋常でない執着ではあるけど、どうしてそれを「愛」だとは考えないの、君たち。どうして「何を企んでるんだ!」って方向に行くの。そりゃあ今は絶境鬼王と呼ばれる存在で、神官たちとは相容れない、「敵」かもしれないけど――それが「愛」なら、よりいっそう慕情は「キモい」と言うのかもしれないけど……ってゆーか、実際「まったく気持ち悪い!」って言ったんだったわ、慕情。読者には開示されないヤバげな壁画を目にして、
「頭の中でこっそり汚らわしいことを考えていたんだろうな? まったく気持ち悪すぎる!」 (P56)
と。それを聞いた花城の様子……うう、ここまで罵倒されても後でちゃんと風信と慕情を助けてやる花城、いい人すぎるやんねぇ。
風信と慕情には「キモっ!」という反応しかもらえなかった万神窟、けれどもおかげでついに謝憐も花城の正体(と言っていいよね? あの時の子どもだったこと)を知ることとなり、謝憐がどうしたかと言うと。
「私がどう思っているか、知りたくない?」と言って、花城を後ろから強く抱きしめる!!! わぁーーーっ、殿下ーっ!!!!!
「……殿下、今のは本当に……俺を殺すつもりなの」 (P67)
ですよねですよね、言葉の代わりに背後から抱きしめるなんて、ただその背に顔をうずめるなんて、殿下ーーーーーーーーーーーっ!(うるさい) 今回の表紙イラストはまさにその一瞬を捉えたものかと思います。あああ、良かったね、花城、良かったね。800年の血反吐吐く苦難がいっぺんに飛んでいくね。
が、しかし。
抱き合って想いを確かめる時間はあまりに短い。次々と訪れる災難。銅炉山に入りこみ、謝憐を狙っている敵――白無相。かつて人面疫を引き起こし、仙楽国を滅亡へと追いやったあの白衣禍世。帝君によって倒されたはずのあの悪鬼が、再び謝憐の目の前に。
実は、郎蛍こそが白衣禍世だったのです。えーーーーー。これまたおばちゃん何にも気づかなかった。人面疫に冒された見目麗しい少年、てっきりもう一人の花城、花城の分身かと思っていたのに(まぁそれは割と早い段階で「違う」ってなってたけど)。
白無相は君吾に魂魄を打ち砕かれたあと、ほんのわずかに残った魂の欠片で人界を彷徨っていた。(中略)自身の体に寄生することを郎蛍に承諾させたに違いない。 (P85)
そして郎蛍の体に寄生したあと徐々に回復していき、その結果(中略)鬼が鬼を食らい、白無相が宿主である郎蛍を呑み込んだ。 (P85)
ということなのだそうな。そして謝憐と二人銅炉山に入った白無相は、謝憐に過去を思い出させる。800年前、仙楽国が滅んだあと、謝憐に起こったできごとを。
ここからの過去の回想が! エグすぎる!!!
かつて仙楽太子として崇められた謝憐、けれど国を救うことあたわず、父王母后とともに皇城を逐われ、逃亡の日々。もちろん父王も母后も謝憐も働いたことなどなく、その日の食事にも困窮するありさま。父王の体調は思わしくなく、変わらず仕えてくれる慕情や風信との間にも溝が生まれ、その溝はどんどんと大きくなっていく。
荒んでいく謝憐の心。
盗みを働くしかないところまで追いつめられ、けれどそのことがますます慕情や風信の心を離れさせていく。すべてが悪い方へ、悪い方へと転がっていく。ああ、本当に、この時期の謝憐は一体どうしたら良かったんだろう。自分一人なら飢え死にしたってかまわない、でも貧乏を知らないどころか料理のひとつもしたことのない母后や父王がいるのに、清貧を気どってなどいられない。永安国の兵士に逐われる身では普通に働くこともできず……。
さらに白無相の企みで、荒れ果てた太子廟に100人もの迷い人と閉じこめられてしまう謝憐。白無相はそこで人面疫を引き起こし、「人面疫から逃れる方法はただ一つ、人を殺すことだ」と告げる。互いに殺し合う必要はない、なぜならここには格好の生け贄がいる。殺しても死なない不死身の神、仙楽太子が!
ひぃぃぃぃ。
そして謝憐は、人々に何度も刺されるんですよ……。何度も何度も。「どこを刺せば致命傷になるんだ!?」と、謝憐を何度も刺し殺す“善良な”人々。謝憐は実際不老不死ではあるんだけど、刺されれば血は出るし、痛みも感じるし、つまりは「生きながら何度も心臓や喉を刺し貫かれる」ことに。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。
作者さん、人の心とかないんすか……これは……あまりに……。
「俺にはそんなことできない」って刺さずに逃げてくれたの、ちょっと前に謝憐が大道芸のことで揉めた親方だけで。一見悪いヤクザに見えた男だけが人を殺すことをよしとせず、善良そうに見えた一般人こそが驚くほどの残忍さを発揮する。
いや、もう、ほんと何? このお話、花城の800年の想い云々がどうとか以前に、人間性の真実に迫りすぎてるんだけど。
「俺たちはあんなにあんたを祀ったのに、あんたがしたことはなんだ? 強盗だ! あんたがもたらしたことはなんだ? 疫病だろう!」 (P216)
つらい。つらすぎる――。
殿下は不死身なので、生きて父王たちのもとに戻るんですけど、何があったかとても言えやしないし、すっかり心が壊れてしまって、ついに風信に愛想をつかされる。そして、父王と母后は自ら首を括って死ぬ。謝憐の白綾を使って。
その白綾が、若邪。謝憐が100人に刺し殺される時、白無相に法力を注がれ、謝憐の血をたっぷりと浴び、さらに皇族二人の命を奪って、その怨念や邪気が霊魄となって、ただの白綾を精怪に変えたのです。
もうお腹いっぱいにも程がありますよね。殿下のライフは0どころかマイナス、読んでるこちらも呼吸困難になる。
はぁ。
そんなひどい時期にも、折に触れ花城の魂は謝憐の前に現れていました。まだ死んで間もない「小さな鬼火」に過ぎなかった時にも、花城は謝憐のそばにいた。
「それで、君の願いはなんなんだ?」
「その人を守りたいんです」 (P114)
まだ何の力もない、ただ自我を持っているだけの、泥酔した謝憐の体を暖めることもできない鬼火の頃から、ずっとずっと、謝憐を守ろうとしていた。
「神よ、どうか待っていてください、待っていてください……どうか俺にもう少し時間をください……俺に……俺に……」 (P148)
父王と母后を喪い、哀しみと憤りに呑み込まれた謝憐は、永安人への復讐を誓う。「永安の者に未来永劫安寧などない!」と、戦場で死んだ仙楽の兵士たちの亡霊を引き連れ、永安に乗りこんでいく。白衣に悲喜面、あれほど忌んだ白衣禍世と同じ姿で。
そんな、恨みに我を忘れた謝憐の前に、ついに花城が「実体」を持って姿を現します。黒衣に黒髪、顔には笑顔の仮面をつけて。「名前などない」と答えたために、謝憐からは「無名」と呼ばれる鬼の少年。
「命尽きるまで殿下についていくと思います」という少年に、「お前はもう死んでいるだろう」(P241)と冷たく言い放つ謝憐。うう、殿下、荒んでらっしゃる。
何しろ謝憐が思いついた復讐の方法は、亡霊たちを使って永安に人面疫を引き起こすこと。さすが神様というかなんというか、やることがエグい。それだけ深く傷ついたってことでもあるんだけど、最後の最後に、それでも人間に賭けてくれるんですよ、殿下。すぐには人面疫を引き起こさず、人間を試してくれる。
腹に剣を刺した状態で往来の真ん中に寝そべって、誰かが救いの手を差し伸べてくれるかどうか、試すの。
いや、やっぱりやることがこう、えげつないですね……。街の人々は顔を見合わせ、寝そべってるのがどうも「仙楽太子」らしいと知ると、「あれは疫病神だ!」と言って遠ざかっていく。
結局のところ、前王朝の太子殿下がいったいどういう存在なのか誰も知らなかった。彼は疫病神なのか? (P260)
丸一日そうして通りに寝転がって、でも誰も剣を抜くことはおろか、水の一杯も恵んではくれない。かかわり合いになることを恐れ、見て見ぬふりで通り過ぎてゆく。
丸一日そうして通りに寝転がって、でも誰も剣を抜くことはおろか、水の一杯も恵んではくれない。かかわり合いになることを恐れ、見て見ぬふりで通り過ぎてゆく。
「君は決して疫病神じゃないのに、彼らはそれを認めるよりも、疫病神だと信じる方を選んだんだ。あの時君は天意に逆らってまで永安のために雨を降らせたのに、今や彼らは君に一杯の水すら与えてくれない」 (P264)
白無相の言うとおり、人間ってやつはほんとに……。
でもついに、謝憐を助け起こしてくれる人が現れるんです。すでに白無相によって剣は抜かれていて、ただ道に寝っ転がって雨に打たれるがままだった謝憐に笠をかぶせ、「ほらほら、さっさと家に帰んな」と言ってくれた人が。
彼の顔には、溢れ出した二筋の涙が伝っていた。
一人。たった一人だけ。
本当に、たった一人いればもうそれで十分だ! (P268~269)
うぉぉぉん、殿下ぁぁぁ。こうして引用してるだけで私もうるうるしちゃうよ。どれほどの目に遭っても、たった一人、手を差し伸べてくれる人がいれば――。それが花城でないのは哀しいけど、最初から信徒で、盲目的に愛してくれる人ではなく、通りすがりの、互いに名前も顔も知らない、何の利害もない人だからこそ、「まだ人間は捨てたものじゃない」って思えるんだよなぁ。
正気を取り戻した謝憐は人面疫を引き起こすのをやめて、引き連れてきた亡霊たちの呪いを我が身に受けようとする。でももちろん、そんなことを花城(=黒衣の若者「無名」)が許すはずもなく。
亡霊に食らい尽くされ、消えてしまった「無名」。白無相は「魂魄も消えてしまった」と言うんだけど……。どうやって復活したんでしょうね。道端の小さな赤い花に謝憐が「いつかまた会えるといい」と声をかける場面が描かれているけど、“それ”なのかなぁ。花に生まれ変わった魂魄が、謝憐に「また会いたい」と言ってもらって、それで再び目覚めることができたのか。そもそも白無相が思うほど弱くなくて、赤い花として謝憐の前に現れることができるくらい、執着が残っていたということなのか。
ともあれ、長くつらい回想が終わると、今度は特撮大スペクタル! 出撃!謝憐ロボ!!!
閉じこめられた銅炉から脱出する時、謝憐は巨大な石像の力を借りたのです。かつて花城が彫り上げた「一番お気に入りの神像」。それを法力で動かして銅炉を突破し、そのまま手のひらの上に乗って火山の噴火その他からドシンドシンと雪煙を上げて逃げる!!
法力がなくなるたび花城から口移しでもらう謝憐、うぷぷぷ。万一法力が足りなくなったら、と心配する謝憐に向かって、「怖がる必要なんて永遠にない、俺がいるから!」と言う花城、格好いいすごい。何もできなかった800年前とは違う、永遠に愛する人を守れるだけの力を手に入れて、だからこそ謝憐の前に姿を現したのだものね。
巨石神像を駆使し、妖魔奇怪を蹴散らし、山怪さえをも叩き斬って――と剣を抜いたら剣刃がない! ――うん、「石像」だもんね。さすがのこだわり花城も、剣の柄と鞘だけこしらえて、「中身」まではね。
が、しかし。
銅炉山には四人の武神(裴茗、風信、慕情、そして権一真)が集結しているのです。彼らの法身を合わせて光り輝く霊光の剣となす! いやー、すごいな、ほんとに大スペクタクル、ここのくだり、アニメじゃなく実写特撮で見てみたい。
しかしここまでしても倒せない白無相。戦いは天界にまで持ち越され――ってその前に! 風師殿との再会があるんです!! あー、もう、ほんとに情報量多すぎ。あんな大変な目に遭って、法力も身分もなくし、片手片足さえも不自由になっても、それでもちっとも変わらない風師殿。生きていてくれて本当に嬉しい。
で、舞台は天界に。天界では驚天動地なことが起こって、謝憐も他の武神たちも傷つき倒され、下界との通霊も阻まれて、大ピンチ。一人頑張って武神たちを救おうと奮闘する引玉殿下。そう、権一真のために天界を逐われ、鬼王の配下に身を落としていた彼です。奮闘むなしくあっさり敵に捕まってしまった引玉、「君の方が努力と人格は権一真より上だったのに」「もしも彼の才能と法力を君が持っていたら」と痛いところを突かれます。
権一真の法力を君にあげるから、私の側につけ、と。これをきっぱりと断る引玉殿下が本当に…本当に……。
「修行を積んで自分の力で手に入れたものでなければ、なんの意味もないんだ!(中略)もし彼に敵わないとしても、それをきちんと認めることくらいはできる!」 (P412)
権一真は非凡で、自分は凡人。どれだけ頑張ってもかなわない。わかっていた、わかっていたけど悔しい――。あああ、引玉殿下の気持ちがわかりすぎる。殿下ほどの努力してないし、人格もさっぱりだけど、自分は凡人だと認める他ない悔しさ、わかる。わかるよぉ。
そんな引玉殿下に対して謝憐の言い草。
「この世でもう何百年か生きれば、そんなことは本当に取るに足らないことだってわかるはずです。(中略)私なんて、世の中にいる私を傷つけた人を皆殺しにしようと思ったことがあるんですよ!」 (P414)
いや、それ、そんな慰め方、ある???
「せめて善良な人間になりたかった」「神になりたかった」と言って息絶える引玉殿下。
「でもね、引玉殿下、本当はこの世に神なんて存在しないんですよ……」 (P415)
うぉあぁぁぁぁぁぁ。もうこの最後の引玉殿下のくだり、ボロ泣きでしたよ。ほんとに作者さんすごすぎる。自分を「神」だと信じて疑わなかった謝憐が、国も民も救うことができず、「自分を傷つけた者を皆殺しにしよう」とまで思いつめ、たった一人の通りすがりの人の優しさにそれを思いとどまって。
「神」なんて、たいしたものじゃない。
「神」なんて、いやしない――。
そのことを誰よりも、骨身にしみて知っている太子殿下。
ああ、そうだ、謝憐の料理の腕が壊滅的なのも、ひたすら運に見放されているのも、すべては謝憐が自分に課した「罰」だったんですよね。母后が生きていた時代、お姫様の母后が作る料理より、謝憐の作るものの方が数段美味しかった。それが今の壊滅的な状態になったのは、謝憐が自ら「すべての運気を散らしてくれ」と君吾に頼んだから。
そういうところ、やっぱり殿下は「凡人」ではないんだな、と思いますよね。「もう何百年か生きたら、どうでもよくなるよ」って言える、それだけの器がある人なんだよなぁ、殿下。
はぁ。
蹂躙された天界、一体このあとどうなるのか。何よりあの人とあの人の関係は……。「神」なんかいないなら、神官である謝憐が「鬼王」と結ばれたって全然構わないと思うけど、二人、幸せになれるのかしら……。
0 Comments
コメントを投稿