先日、橋本治さんの『いちばんさいしょの算数』という本を紹介させていただいた。その冒頭で、「橋本さんが子どものための算数の本を書きたいとおっしゃっていたのはいつのことだったろう」というようなことを書いたのだけど。

別サイトで書いている『本の虫』という書評もどきのバックナンバーを整理していたら、思いがけずそれがいつのことだったかを発見してしまった。
それは2004年に出た『戦争のある世界〜ああでもなくこうでもなく4〜』という本で、その中に「世界情勢なんかより、“自分は算数が出来ない”と思って、自分の誇りを埋もれさせてしまう人間を救うことの方が大切だ」という感動的な一文があったのだ。

そうかぁ。もう4年も前に橋本さんは「算数の本」を書こうとしてらしたんだなぁ、と思ってもうちょっとその本を繰ってみると、「書こうと思う」ではなくて、「書いている」という表現が出てきてびっくり。
あれ?
そうなの?

2003年の2月頃に書かれた「さまよえるアメリカ−あるいは、王様と無政府主義者」という章の最初の段が、「算数のできない小学生のための本を書いていると」なのだ。

なんと!
2003年2月って、5年も前に書かれていたの、あの本!?
その章の最後のところには、「その後、算数の本は二冊ほど書き上がっているのだけど、出版社側の都合で刊行が延期されている」という記述まであったりする。

おいおい、ちくま書房。一体どんな理由があって5年も延期していたのよ。
全部の巻数、書き上がってからじゃないと刊行する気にならなかったってわけ?

「算数のできない小学生のための本を書いていると」のところには、「足し算、引き算、かけ算、割り算を分からせ、小数と分数を教えて、それから面積の計算も教えるかという本で、何冊も続く」と書いてある。
実際に刊行された第1巻には、「全部で4冊」と書かれていて、3冊目までの内容は大体言及されている。4冊目は小数と分数の本と見ていいのかなぁ。るん♪ 面積はなしかしら。

「世界情勢なんかより、算数が出来ない小学生を救う方が大切」なのは、「世界情勢は結局のところ個々の人間が作るもので、それをへんな風に歪めないためには、個々の人間が誇りを埋もれさせないことが一番だ」からだ、と橋本さんは書く。
この文章を読んで、私はとっても感動したのだった(その割には「算数の本をもう書いている」という部分は忘れていたけど……)。
だから私は橋本さんが好きだ!
ついてきて良かった、と思う。
これからもついていきます、兄貴!って(笑)。

それが算数であれ、別のことであれ、人を救うのはやっぱり他でもない、“人”だと思うし、自分が、自分の今いる場所で、今周りにいる人に、少しでもできることをする。
少しでも、より良いと思う方向に。
少しでも。

……というわけで、私はこうしてしつこく橋本さんの本を宣伝するのでした(笑)。

うーん、でも久々に2002年から2004年の「ああでもなくこうでもなく」をぱらぱらとめくってみて……本当に、「もうこの時点でこういうふうに見えているのに、5年経って事態が改善するどころかますます閉塞感を強めていくってのは何?」と空恐ろしくなってくる。
もうその時期にあった大きな事件をすっかり忘れているのがホントに怖いし。

時々読み返して、「自分だって“世界の中の一人”なんだから」ってことを肝に銘じなくては。

では最後にもう一文。
「自分の未来は、日本の未来のあり方と重なっていなければならない。そうであるように、自分の未来を創らなければならない