2013年11月17日日曜日

修道士カドフェル3『修道士の頭巾』/エリス・ピーターズ



カドフェルシリーズ第3弾です。

表題となっている「修道士の頭巾」というのはトリカブトのこと。

日本でもトリカブトによる殺人事件があって一躍有名になりましたが、飲めば毒になるけど、塗り薬として関節痛とかなんとかに効く……ということで、カドフェルはトリカブトをからし油と亜麻仁油で溶いた薬を調合しています。

で、今回その、カドフェルが調合したトリカブト油が殺人に使われてしまうのですね。

修道院に荘園を寄進する代わり、家と食事と安寧を保証してもらおうとやってきた荘園主ボーネル。その彼が殺害され、駆けつけたカドフェルの前にいたボーネルの奥方はなんと、カドフェルが17歳の時に別れた恋人リチルディスだった!!!

将来を約束し合った仲のリチルディスを置いてカドフェルは十字軍に身を投じ、時は流れに流れてなんと42年ぶりの再会。

42年ぶりなのにすぐわかるカドフェルすごい。

一方リチルディスはカドフェルの名が出るまで気づかないんだけど。

ま、それが普通よね(^^;)

殺されたリチルディスとボーネルは再婚で、ボーネルと仲が良くなかったリチルディスの連れ子エドウィンが疑われる。

エドウィンはまだ14歳。母親はもちろん「あの子にそんなことができるわけがない」と言ってカドフェルに「あなだけが頼り」と縋ってくるし、それでなくても使われたのが自身の調合したトリカブトということでカドフェルも捜査せずにいられない。

果たして真犯人は――。

42年も経ってるし、カドフェルも修道士になってもう15年、周囲は「焼けぼっくい云々」って余計な心配をしたりするけど、カドフェル自身はけっこう冷静なんだよね。縋ってくるリチルディスのそばに長居してるとヤバいな、ってちゃんと自重して、彼女が幸せなのならそれでいいと思っているし。

リチルディスが「私のせいで修道院に」と勝手に誤解してる(カドフェルが十字軍から帰るのを待たずに他の男のもとに嫁いじゃってたから)のも、「まぁ彼女にはそう思わせておくか」って感じで。

十字軍でぶいぶいいわして、東方の女ともよろしくやった後、よくよく考えて身を修道院に落ち着けたカドフェルは、本当に「酸いも甘いもかみわけた」素敵なおじさまなのよねぇ。

最後、彼が一人になって静かに思いをめぐらすシーンはなんともいえぬ温かみと哀愁があって、「人間っていいなぁ」「“大人”ってこういうことだなぁ」と思わされます。

今回、イングランドとウェールズの婚外子に関する「掟」の違いが鍵になっているんですけど、現代日本の「婚外子差別は違憲」という問題を思い出さずにはいられませんでした。

リチルディスの連れ子エドウィンはボーネルと血のつながりはない。でもボーネルは一度はエドウィンに荘園を譲ると決めたのよね。決めたんだけど、その後折り合いが悪くなって、「おまえなんかにやらん!修道院にくれてやる!」ってなった。

でも修道院の方も院長が替わるかもしれないということで正式契約には至ってなかった。

婚姻による正式な子ども、いわゆる嫡出子はいなかったボーネルなのだけど、実は庶子ならいたのですよね。

でもイングランドの法ではその庶子に相続権はない。もちろん遺言とかあれば別だけれど。

血の繋がらないエドウィンが疑われる一方で、「実の父」が死んでも相続権がなくまったく得をしない、それどころか多少なりと支払われている「養育費」が途絶えて損をしてしまう、ということでその「実の子」はまったく疑われない。

それが当時の「常識」と言えばそれまでなんだけど、突然現れた「継母の連れ子」に財産を全部持ってかれるって、なんか……ねぇ。

まぁ当時の法でもエドウィンの権利というのは「自動的に付与」されるものではなく、ボーネルが「彼に譲る」とちゃんと書類を作らなくちゃいけなかったみたいなんだけど。

子どもは親を選べないし、まして嫡出子か非嫡出子かを選んで生まれてくるわけじゃない。大人達の勝手な都合で区別される理不尽。

それがもとで殺人まで誘発してしまうというのに……。

真犯人を突き止めても、「それで全部解決!」「警察に突き出しておしまい!」じゃないカドフェルの裁きが今回も素敵です。

あと、1作目2作目と助手に去られてしまったカドフェルですが、今回登場のマークは当分カドフェルのもとで薬草園及び探偵業の助手を務めてくれる気配。

親を亡くし、親戚から疎まれて寂しく育ったまだ18歳のマーク。ちょっと何ページに出てきたのか探せないんだけど、彼が「諦めるのは罪だ。特に若い者の未来を諦めるのは」と言っている(あるいは考えている)個所があって、いいなぁと思いました。
(ページが探せないのでもしかしたらマークの考えじゃなかったのかも。間違ってたらごめんなさい)

2巻でカドフェルを翻弄したヒュー・ベリンガーも理解ある執行副長官として再登場。お馴染みの面々が……というのはシリーズ物の楽しみですね。

しかし頭からエドウィンを犯人と決めつけて逮捕にかかる執行長官たち。昔のことですから指紋がどうとかいう捜査はない上に、証拠物件もたいして捜されない。カドフェルがいなかったらどうなっていたのか……。

良かったね、エドウィン。


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