2018年5月19日土曜日

『メカ・サムライ・エンパイア』/ピーター・トライアス



(※単行本も同時発売になっています)

“第二次世界大戦で日本が勝ち、日本統治下となったアメリカ西海岸で巨大ロボットが闊歩する!”世界を描き、“『高い城の男』&『パシフィック・リム』だ!”と話題になった『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編です。

前作では「え?メカほとんど出てこないじゃん…」と肩すかしを食ったのですが、



という著者トライアスさんのツイート通り、今作はメカ・パイロットを目指す少年が主役! がっつりロボット戦もあって「メカ・サムライ」というタイトルを裏切りません。

39歳の、酸いも甘いもかみ分けたみたいな、どこか飄々としたおじさんが主人公だった前作は、色々とややこしい陰謀やらグロい拷問やらあって刺激が強かったですが、今回は若者の成長物語といった雰囲気になっていて、とても読みやすくとっつきやすい。

SFとか翻訳物苦手……という人はむしろこちらを先に読む方がいいかも。

(※以下、ネタバレ含みます。これからお読みになる方はご注意ください)


物語は前作から6年が経った1994年。前作の時点ですでに戦後40年が経っていたんですが、さらに6年の月日が流れ、主人公・誠は「日本合衆国(USJ)」の存在を当たり前に育った18歳。高校卒業を控え、今後の人生を大きく左右する帝試に向けて勉強に励んでいます。

メカ・パイロットの母と整備士の父は10年前に亡くなり、“意地悪な”養父母のもとでつらい子ども時代を送った誠。母と同じメカ・パイロットを目指しているものの、正直そんなに成績は良くない。USJで一番の陸軍士官学校、通称「BEMA」に入学するにはとても点数が足りないけれど、軍事科目でいい成績を出せればもしかして……!

そのわずかな可能性に賭けて毎日天皇陛下に祈る誠なのですが。

この「軍事科目でいい成績を残せれば特例で」というところで、久地樂(母)の名前が出てくるのですよね。前作でのメカ戦闘を一身に担っていた久地樂母子。

のちに最高のメカパイロットとして有名になる、久地樂という暗号名の候補生だ。 (上巻P16)

久地樂って暗号名だったのか!
前作のキャラクターがこういう形で出てくるの、にやりとさせられます。

歴史や数学といった普通教科の勉強もできる限りがんばり、軍事科目(シミュレーションでのメカ戦)でも必死でくらいつく誠。

でも。

その模擬戦、最初から誠にだけ異常な負荷がかけられており、実力を発揮するどころではありませんでした。それどころか安全装置が切られていて、シミュレーションのはずなのに実際に肉体を痛めつけられることに。

誠のことを快く思わない教官が、「試験」ではなく「懲罰」として、そのように仕組んでいたのです。

「挑戦することも許されないのですか?」
「貴様の挑戦など機甲軍への侮辱だ」
「僕の両親は皇国のために殉死しました。友人は皇国でもっといい人生を送ろうとして死にました。そんな彼らの名誉のために受験するのもだめだというのですか?」 (上官P102 一部省略)

この上官めっちゃ腹立つわー。
すごく“ありそう”な話なのがまたなー。

このシーンより前に、「皇国でもっといい人生を送ろうとして云々」の友人が

「両親は究極の犠牲になったのに、その子どもはこんな仕打ちを受けるのか? 帝国に命を捧げるのは愚かな決断で、俺たちはその報いを受けるのか?」 (上巻P47)

って教師にくってかかるところもあって、誠もその友だちも親を「名誉の戦死」で亡くして、親は「英霊」なんて呼ばれるのかもしれないけど、その実遺族は(とりわけ孤児は)苦しい生活を強いられるだけ。「僕らのような孤児にはなんの権利も庇護もないのだ。(上巻P47)」

嗚呼……ほんとありそう………。

将来を悲観した友人は事件を起こして、親しかった誠も関与を疑われ、だから試験でも教官に「貴様の挑戦など!」という扱いを受けたんだけど、事件の直後に特高の尋問も受けていて。

その、特高の人が昭子。

前作でベニコとともに主役だった槻野昭子なのです。

昭子、まだ特高にいるのかぁ。前作の最後で皇軍からもアメリカ人からも攻撃され、「あたしたちはどちらにも属していない」と言っていた昭子。生き残ってしまったのは酷だったのでは……と思ってた。

まだ特高で――それでも特高で、皇国のために働いているのか。

でも誠への接し方を見ると、昭子は自分の信念のために働いているように見える。相変わらず強面で厳しいけど、先に尋問した警察連中が誠をボコボコにして連れてくると、「無事に連行しろと言ったはずだ」と詰問。「偶然こけたんですよ」と答える警官たちに

「すまんな、偶然ぶつかった」 (上官P83)

と顔面パンチにまわし蹴りをお見舞い。
きゃー、昭子ーっ! 格好いい!!!

「彼を救えなかった記憶を生涯持ちつづけろ。それが貴様の罰だ」 (上巻P86)

ってセリフも昭子自身のことを言ってるみたいで、「どちらにも属していない」を自覚しながら、それでも生きて、特高だからこそできる仕事をやっているんだなぁ、って。

決して出番は多くないんだけど、ほんとこういうふうに前作のキャラ出てくるの心憎い。

そんなこんなで試験には受からなかった誠、民間のメカ警備会社RAMDETの訓練キャンプに入ることになります。このキャンプがまたすんごいスパルタなんですが、それでも誠は耐えてメカの操縦も経験し、キャンプを無事卒業するところまでこぎつけます。

が。

卒業試験代わりの訓練ミッションで思わぬ悲劇が……。

そこで生き残ったことで誠はBEMAに入学できることにもなるので、「禍福はあざなえる…」でもあるのですが、BEMAでもがんばった誠、「五虎」と呼ばれる候補生のトップ集団の一員に。

その「五虎」の中にはなんと久地樂(息子)もいます。誠とは寮で隣同士。しかも昭子直々に「仲良くしてやってくれ」って誠に紹介するんですよね~。「あいつには友だちが必要だ(下巻P30)」って、昭子やっぱりいい奴。

RAMDETの訓練ミッションで誠と一緒に生き残った千衛子、そして同じ高校で超優等生だった(BEMAでも依然として優等生)範子と、五虎のメンバーはほぼ誠の知り合い。残る一人は兵卒からBEMAに入学したカズ先輩。既婚者で双子の娘もいます。

「いうまでもないが、兵士の命は上官しだいだ。上官が考えなしだったり、部下の話を聞かずに無茶な突撃をするとひとたまりもない」 (下巻P269)

バカな上官に従うのもごめん、部下にバカな命令を下すのもごめん、だから士官になるべく努力してBEMAに入った人。

しかしその五虎をまたしても悲劇が……。

誠はそういう星に生まれているのか何なのか、RAMDETの時も五虎の時も、ナチスのバイオメカに襲撃されてしまう。

「第二次世界大戦で日本が勝った世界」というのは「日本とドイツが勝った世界」ということで、アメリカは日本とドイツ(第三帝国)に分割支配されているわけです。このお話の時点で日本とドイツは戦争してるわけではないんだけど、アメリカ人のテロに手を貸す形とか諸々でバイオメカが日本側を攻撃してくる。

表紙イラストに描かれたゴジラみたいなのがそのバイオメカ。こいつの設定がなかなかエグい。攻撃しても攻撃しても再生してくるドロドロした外殻はなんと「死体由来の生物組織」。パイロットは四肢を切断され、直接メカと接続。

うわぁぁぁぁぁ。

なんだっけ、ガンダムサンダーボルトだっけ、メカと繋ぐために健康な腕まで切り落とされちゃうやつ。

なんで人間ってそんなことまでしちゃうのかな。そりゃ「やれ」と命令する方は、自分がやるんじゃないから言いたい放題だろうけど。

「あいつら人を人と思うとらん。使えるもんは使い倒す。家族やら名誉やら忠誠やらの話は聞く価値ない。人をうまいこと働かすための方便や」 (下巻P124)

久地樂の言うとおり、上層部は下っ端の命なんてなんとも思っていないようで、実は誠が遭遇した二つの悲劇にも裏がありそうなんですね。

RAMDET時代の悲劇は、指揮を執っていた教官の先生が途中で「おかしい」と気づいて上司に問い合わせるんだけど、上司は「任務に変更なし」と言うばかり。「こっちは卒業前の訓練生だ」と訴えているのに……。

どうも上の方は敵の襲撃を知っていて、あえて彼らを「生け贄」にしたみたいなのです。

厳しいけれども誠たちがよく耐えて卒業を目前にした時には心からの言葉をかけてくれ、「訓練生には無理だ」と判断してちゃんと命令中止を求めてくれた先生(まぁ最終的には命令に抗えなかったんだけど)。そんな先生も、もう少しで卒業してRAMDET本部に配属されるはずだった仲間たちも、この事件で死んでしまう。

そしてBEMAで五虎が遭遇した事件も、ドイツ側から事前に警告があって、“上”は知ってたはずなんですよね。その証拠に、事件時主力メカ部隊は不在。いくらエリート集団と言っても五虎はまだ「候補生」に過ぎない。ちゃんとした軍隊の留守時を向こうが狙ったのか、こっちがわざと軍隊を不在にしたのか。

もしも知っててあえて誠たちを「生け贄」にしたのなら、その目的は何なんだろう。正規の軍隊を損なわずにバイオメカの実力を知りたいとかなんだろうか。でも範子なんかはめっちゃ優秀な候補生で、彼女を捨て駒にするのはすごくもったいない気がするのに……。

裏でドイツと日本の“上”は繋がってて、時々悲劇を起こすことで互いの国民の敵国への憎しみを煽り、それを政治利用しているとかなの???

誠の高校の同級生で日独ハーフのグリゼルダのセリフに

「USJに反撃の余力を残すためよ。究極の狙いは皇国と第三帝国に戦争を起こさせることだから」 (下巻P295)

っていうのがあって、この間のガンダム(ORIGIN映画6作目)と同じく、「なんだかんだみんな戦争がしたい」ということなのか。なんでそんなに戦争したいん……。

ドイツからの留学生として誠と同じ高校にいたグリゼルダ。

「わたしのような混血はもっとひどいわ。どちらからも受け入れてもらえない。忠誠心はどちらの側にあるのかといつも問われる。(中略)わたしは、どこが母国なのか自分でもよくわからないのよ」 (上巻P193)

「わかってないわね。わたしのような立場の者に終わりはないのよ」 (下巻P312)

どこにも居場所がない、どちらにも属していない――昭子に似てますね。ラスト近くでグリゼルダを守る五虎の姿にはジーンとしてしまった……。

混血であるがゆえに、「どちら側につくのか」という選択を常に迫られ、葛藤しなければならないグリゼルダ。でも、「皇国民」であることを当たり前にしている誠も

若者は捨て石だ。きびしい訓練に耐えれば自分の価値が上がると思っているが、実際にはなにも変わらないのだ。 (下巻P126)

という現実に直面しているし、英雄扱いされ華々しいニュースになっても、「現実はそんないいもんじゃなかった」ということをもう知っている。皇国民であること、国家に――“上”の命令に従うことは、果たしてもっとも優先すべきことだろうか?


憧れのメカ・パイロットへの道を歩み出し、ここまで生き延びてきた誠。「謝辞」の中で著者はすでに第3作執筆について言及していらっしゃいますが、次作では昭子や誠たちはどうなっているんでしょう。山崗大佐の真の計画って一体……。なんかあの人、信用できない気がするんだけどもなぁ。

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