(※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はくれぐれもご注意ください。また、記憶違い等多々あると思いますがご容赦を。) 



観てきました~。12月6日の13時公演!
すごく良かったです!!!
予想以上に面白かった。
正直、最初にこの公演の上演情報が出たとき、『元禄バロックロック』の方は「なんだそれ?」って感じだったんですよ。なんかすごいあらすじだなぁと。

ショーが中村一徳先生だったので、そちらを目当てにチケット取ったんですけど、観てみたらショーよりお芝居が断然良かった。いや、ショーも良かったんだけど、お芝居の印象が強すぎて、ショーの方の記憶がほとんど残ってない。

まず、このポスターからもわかる通り、衣裳がめちゃくちゃ素敵なんですよね。忠臣蔵をモチーフにした物語で、舞台は「エド」なんだけど、パラレルワールドというか、現実の――歴史上の「江戸」とは違う世界で、着物を大胆にアレンジした、非常に個性的で美しい衣裳になってる。

一緒に観劇した母も「衣裳が見事で衣裳ばっかり見てた。最後のアレ(どれ?)、訪問着をアレンジしてたやろ? めちゃくちゃ綺麗やったな~」と。
着物の値打ちがわかる人にはさらに衣裳が楽しめるようです。

舞台装置がまた素敵でねぇ。
開演前、幕が上がり、この装置が出現した時点で「おおーっ」と思ってしまう。

わかりにくいけど、右上のところ、「弐壱参肆」ってふうに漢字で数字が表示されてて、これがカウントダウンのようにぐるぐる回っていくんですよ。
『CITY HUNTER』の時も開演前から楽しませてくれたけど、最近の宝塚は芸が細かくてすごい。

トップスター柚香光さん扮する主人公は、クラノスケではなくクロノスケ
元赤穂藩士の時計職人。「時を巻き戻せる」時計を発明&完成させたものの、巻き戻せるのはほんのわずかな時間だけ。たまたま行き会ったスリを捕まえたり、賭場でイカサマをしたりするぐらいしか役に立たない。

賭場の名前が「ラッキーこいこい」って言うのがまた。江戸ではなく「エド」なので、英語も普通に使われちゃうんですね。

星風まどかさん演じる賭場の女主人キラにクロノスケは言い寄っているのだけど、キラの方もクロノスケに対して「私だけを見て、私を信じて」と迫る。
その迫り方が、とても謎めいているのです。ただクロノスケに惚れているというのでなく、何か秘密を抱え、本音を隠して接しているふう。

柚香さんのクロノスケ、ビジュアルからしてもうめちゃくちゃ素敵なんですけど、星風さんのキラがまたものすごく雰囲気あっていいんですよねぇ。妖しくキュートで、どこか寂しげで。

クロノスケとキラが奇妙な関係を築いている一方、「忠臣蔵」のお話も同時に進んでいきます。「松の廊下」でコウズノスケに斬りかかったタクミノカミは切腹、亡霊として舞台に登場、「時を巻き戻せたら…」と嘆いている。

そして家老クラノスケは「仇討ちなど考えていない」と世間を欺くため遊び歩き、「ラッキーこいこい」でクロノスケと再会します。
クラノスケの家に招かれた際の、妻リクとのやりとりがとても楽しい。「もてなしてやってくれ」と夫に言われても、「そんなお金ありません!」とリクは「その辺の草」を出してくる。「サラダです!」(笑) 「じゃあその辺の魚でも採ってきます」とか。

クラノスケは永久輝せあさんリクは華雅りりかさん。リク良かったなぁ、うん(笑)。

で。
仇と狙われるコウズケノスケは水美舞斗さん。コウズケノスケも「時を巻き戻す時計」を作ろうとしています。実はこの世界のタクミノカミは名うての時計職人でもあって、「時を巻き戻す時計」の設計図を作っていたのですね。クロノスケはタクミノカミと一緒に研究していたとかなんとか。

「松の廊下」での刃傷沙汰も、コウズケノスケがその設計図をタクミノカミから奪ったことが発端になっている。

でも設計図だけでは時計は作れません。設計図を読み解き、実際に時計を組み立てることのできる時計職人がいないと時計は完成しないのです。
コウズケノスケは自身の野心のためになんとしても時計を作ろうと考えていますが、将軍ツナヨシからも「時計はまだか」とせっつかれています。

将軍ツナヨシといえば「生類憐れみの令」。亡くなったペットの犬にもう一度会いたい、だから時を戻せる時計を――と、家臣に命じているのです。

ツナヨシ役は娘役の音くり寿さん。とても声がきれいで、少年役が似合ってました。
側用人ヨシヤス役の優波慧さんも滑舌が良く、声が印象に残りましたね~。帽子をかぶったお衣裳も素敵。

ツナヨシの元にはオランダ(?)からの使者が訪れ、「この犬なら死ぬことはない、ずっとあなたの相棒に」と「aibo」を献上したりします。ふふ。
なんか、リクの場面とか、ちょこちょこクスッと笑える要素が入れてあるのも、とても良かった。
笑えるけど、「死ぬことのない犬」というのは、「死んだものを蘇らせるために時を戻すなんてことをしていいのか?」という話にも繋がっていて、最後にツナヨシが「これにて一件落着」と丸く収めることへの伏線にもなってる感じ。

うん、ほんと、すごくよくできたお話だったなぁ。作/演出の谷貴矢先生、これが大劇場デビュー作でいらっしゃるんだけど、最初っから飛ばしてはるわぁ。

キラは実はコウズケノスケの隠し子で、父親のもとから逃げていて、でも見つかってクロノスケと2人、逃避行の先で花火を見る。
いつも寂しげな笑みしか浮かべないキラが、花火を見て本当に嬉しそうに、心からの笑顔を見せて――。

ここで私、涙出てきちゃったんですよ。

この場面で「ああ、キラは時計が完成した未来から来たんだ」って確信できちゃって。
それまでも、クロノスケとのやりとりで「それはデジャヴって言うのよ」とか、キラが「一度巻き戻された時間を生きてる」っていうヒントが出されていたんですよね。

ほんの短い時間しか戻せない、そんなポンコツ時計ではなく、「松の廊下」が起こる前まで巻き戻せる、「ちゃんとした時計」が作れたら。
クロノスケはずっとそう思ってきた。

でもこのお話自体が、「すでに巻き戻され、やり直されている時間」。

花火を見て「約束が叶った」と喜ぶキラの姿に、「世界でたった1人、時間をやり直しているせつなさ」が溢れていて――星風さんのお芝居がとても素敵で、泣けてしまった。

その後キラはすべてをクロノスケに話してくれるんですが、なんと時計を完成させたのはキラなのです。未来でクロノスケが完成させたのかと思いきや、違った。キラ、どんだけ才能あるの、タイムマシン1人で完成させちゃうとか。

もともとの歴史では、キラはコウズケノスケの隠し子として、屋敷の奥深く、鎖された部屋で書物を友に過ごしていた。そこへ赤穂の密偵としてクロノスケがやってきて、2人は惹かれあい、キラはクロノスケから時計の知識、外の世界の知識を吸収する。

世間に存在を知られてはならない子ども。だからキラは、花火を見たことがなかった。いつか2人で花火を見よう――それは、もとの時間での、叶わなかった約束。

もとの世界では、クロノスケの方がいつも寂しげに笑っていた。だって彼はキラの父、コウズケノスケを討つために彼女に近づいたのだもの。2人は敵同士、彼女を自由にしてやることができたとしても、それは、彼女の父を殺してからのことだ。

この、「もとの時間」と「今の時間」とで、クロノスケとキラの立場が逆転してるのがまたいいんだよねぇ。「君は心から笑ってない」とクロノスケに言われた今のキラが、どんな想いでその言葉を聞いていたかと思うと……泣けるわぁ。

もとの時間で、コウズケノスケは討ち果たされ、でも赤穂浪士たちも切腹して、キラとクロノスケは結ばれない。
だからキラは「時を巻き戻す時計」を完成させ、この一年を何度もやり直していた。何度やり直しても、クロノスケは死んでしまう。その結末を変えられない。

キラが笑えないの、無理ないよね。
「またダメかもしれない」と思いながら、自分のことを知らないクロノスケと何度も出会い直して、何度も別れて……

「ずるいよね、私ばかり“好き”が募る」

ううう、ほんとによく頑張ったなぁ、キラ。偉いよ。「本当は“松の廊下”の前まで戻せばいい、でもそれだと私がクロノスケに出会えないから。こんな自分勝手な私に笑う資格はない」なんて、そんなふうに思う必要はないよ。

またこの「真相を聞くクロノスケ」のお芝居がいいのよねぇ。柚香さんのお芝居が

クロノスケって――特に「今の時間」のクロノスケって、すごいヒーローでもないし、どちらかというと受け身で話が進んで、「格好いい主役キャラ」というのとは違う。でもそのちょっととぼけた味わいが絶妙で、柚香さんと星風さんのお芝居のやりとりがすごく良い

「この時計でタクミノカミが死なないところまで時を巻き戻して。あなたの望む通りに」と言うキラ。
でもクロノスケはそれを望まない。それどころか、せっかくの「時を戻せる時計」を捨ててしまう。

もう、そんな必要はない。「やり直す」のではなく、この時間のまま、望む未来を作るのだ。
2人は知恵を出し合い、ツナヨシの力を借りてコウズケノスケと赤穂藩士の和解に成功。キラはもう邸に閉じ込められることもなく、クロノスケと離れることもなく。

めでたしめでたし。

タクミノカミだけ死んだままなの可哀想だけど、実は例の時計を捨ててなかった、というオチまで秀逸。ほんとによくできてて面白かった~~~~~~
冒頭、クロノスケが「散ってはまたつぼみをつけ、咲く花が嫌い。せつなくなる」みたいなことを言ってたのも、お話を最後まで観ると「ああ、最初のあれは…」と感慨深いし。

まぁ、SF考証的には「なぜキラだけは時を巻き戻しても記憶を失わないのか」っていう話もあるんだけど。
キラは特異点なんです!(キリッ

時計を動かす人間には「巻き戻す」が作用しない仕組みなのかもしれない。でないとクロノスケが賭場でイカサマをするのも無理になるもんね。そもそも巻き戻したからってルーレットの目が変わるんかい、とも思うんだけど、イカサマぐらいなら「数分」を何度かやり直すうちに賭けた目になるのかもしれない。

とはいえ実はクロノスケの持っていた時計は未完成の偽物で、「時を戻すことはできてなかった」。キラが陰からこっそり本物の時計を動かしてイカサマに手を貸していたので、「時計を動かす人間だけが」理論も破綻している。

「時を戻す」ということを自覚している人間は記憶を失わないとか…???

「今の時間」では、クロノスケは賭場で初めてキラに出会って、そして名を聞くのだけれど、その時に「前にもこんなことがあったような」と思う。キラはそれを「デジャヴ」と言う。まぁ名前のことぐらいなら――「いい名前だ」「あなたこそ」ぐらいなら、実際他の誰かとも言い合ったことがあるかもしれないけど、クロノスケは花火の歌まで覚えてる。

「もとの時間」でキラがクロノスケに教えた歌。キラが作った、キラと、元の時間のクロノスケしか知らないはずの歌。
もし、時計が本当に時間を巻き戻しているなら、そんな記憶がクロノスケに残ってるのおかしいんだけど、あの時計は人の記憶に関しては完全に作用しないとかなのか。

そもそも「時間」というものの正体、記憶や意識というものの正体に未解明な部分が多いものなぁ。

「今の時間」のキラがどこから時間をやり直してるのかも気になる。やり直したらキラはまたコウズケノスケの邸に閉じ込められるのでは、と思うけど、そこはもう「記憶」があるから、外へ逃げるのもお手の物だったり?
いや、そもそもキラが特異点だとすると……。

タイムワープじゃなくて「巻き戻し」だから、もう一人の自分と鉢合わせする、みたいなことはないのかもしれない。でも何度もやり直しているということは、キラだけは他の人間よりもその分年を取ってしまっているのでは???

――と、こういうことを色々考えるのも楽しいのだ。
好き。

『元禄バロック・ロック』でもあり『クロック』でもあり、っていうタイトルも洒落てるし、ほんとに観て良かった。チケット取って良かった。

今回ショーが1時間5分と長くて、お芝居はいつもより10分短い1時間25分(ということに後から気づいた)。そのテンポ感も良かったのかも。



『The Fascination!』の方は先ほども言ったとおり、中村一徳先生の作/演出で、花組100周年を記念したショー

こちらも衣裳が素敵で、男役さんにもフリルの裾がついてて踊るとひらりと動くのがとてもきれいだった。群舞も多くて、娘役さんメインの場面も多かった印象。なんか、皆さん出ずっぱりな感じだったな。観ている方は楽しいけど、ジェンヌさんは出番が多すぎて大変そう。

高翔さんや美風さんの歌があるのも良かった。
高翔さん、この公演を最後に専科に行ってしまわれるということで。去年『はいからさんが通る』観た時、「知ってるの高翔さんだけだ」って思ったぐらい長く花組を支えてくださったよね。もとは「我が青春の月組」にいらしたし。純名ちゃんやユウコちゃん(風花舞)と同期なんだもんな。はぁ~、これからも長く宝塚を支えてくださいませね。

「花組100周年」ということでオマージュとして1988年の『フォーエバー!タカラヅカ』から「ピアノ・ファンタジィ」のシーンを再現。リアルタイムでは観てない公演だけど、あのピアノの鍵盤を模したラインダンスには見覚えがあるような。

さらに過去の花組公演の名曲メドレー。「Exciter!」と「心の翼」しかわからなかった(^^;) 「ある愛の伝説」はこないだ梅芸でしょーちゃんさん(榛名由梨)が歌ってらしたような?

こないだも思ったけど、「心の翼」が花組を代表する曲として取り上げられるの、ほんと感慨深いですね。正塚先生の大劇場デビュー作だった『テンダー・グリーン』の曲が、こんなにも大きな存在になるなんて。そして『フォーエバー!タカラヅカ』ともども、花組といえばナツメさん(大浦みずき)だよなぁと……。

ショーの方は来年正月三日の「新春宝塚スペシャル」(NHK BSプレミアム)で放送されることがもう発表されています。『元禄バロックロック』の方も絶対絶対中継してね、NHKさん!
(もちろんその他の公演も全部中継してほしい。チケット取ったのに中止になって見られなかった『アウグストゥス』もどうか)


そうそう、私いつも改札外の、レビュー郵便局で公演プログラムを買っているんですけど、今回少し遅めに(と言っても開演25分前ぐらい)行ったせいか、「当ショップで販売予定のプログラムは完売しました」ってなっててですね。

ええっ、そんなことあるの? 倉庫から持ってきてくれないの?と思いつつ改札内のプログラム売り場に行ったら長蛇の列。お姉さんが「最後尾こちら」のプラカード持って案内してる。外で買えないからみんな中で買うしかないとはいえ、プログラム買うだけで予想外に時間かかってびっくりしました。

さらに幕間に売り場を通りかかると、「本日13時公演販売分のプログラムは完売しました」となっていてさらにびっくり!
買えて良かった。危ないところだった。

私も長く宝塚通ってるけど、プログラムが売り切れてたことってあったかな……。少なくとも自分が買えなくて困った記憶はないんだけど。それだけこの公演、人気ってことなんでしょうね。
柚香さん格好いいし、本当に衣裳が素敵でプログラムの写真も見応えあるからなぁ~。

柚香さん、やっぱり真飛さんに似てるなぁと思ったけど、母に「トドちゃん(轟悠)の若い頃にも似てる」と言われ、確かに、となりました。
トドちゃんもほんと、すごい美貌でねぇ。バウ初主演の『恋人たちの神話』で紫の衣裳着て登場した時、「ひゃあああ」と観客がどよめくぐらい美しかった。バウホールで舞台が近くて、初めて間近にトドちゃん見て、「こんなに綺麗な人だったのか」と。

次々素敵なスターさんが生まれる宝塚、ほんとすごい。

柚香さん&星風さんの花組、次もぜひ見たいと思います。谷貴矢先生の次回作も楽しみ!


【2021/12/15追記のおまけ】

・宝塚大劇場公演は12月13日が千秋楽だったわけですが、翌14日は赤穂浪士討ち入りの日。巻き戻されてハッピーエンドの「忠臣蔵」が終わった翌日に史実上の討ち入りが来るって、なんだか公演スケジュールまでよくできてますよね。(まぁ史実は旧暦なので、今の「12月14日」とは違うという話もありますが)

・キラはコウズケノスケの娘。ということはキラは名字も名前も「キラ」で、フルネームは「キラ・キラ」!? 「エド」世界では名字がないのか、作中で名字が呼ばれることはないので、コウズケノスケに名字があったとしても「キラ」とは限らないけど、これもほんと「いい名前」ですよねぇ。「吉良上野介」を連想させつつ、「きらきら」という美しさを表す語感…。クロノスケも「クラノスケ」と似たもの同士でありながら「クロノス=時間の神」を内包した名前だし、ほんとに何から何までよくできてる。

・――と、とにかくやたらに語りたくなる作品、それが『元禄バロックロック』!