『小説版 戦国魔神ゴーショーグン』『その後の戦国魔神ゴーショーグン』に引き続く、第3弾『狂気の檻』。

1作目2作目は読むのに時間がかかったのですが(特に1作目)、この3作目はあっという間に読了してしまいました。
もともとゴーショーグンの小説シリーズではこの『狂気の檻』と『時の異邦人』がお気に入りで、群を抜いて面白いと思っていたのですが、この年になって読み返してもやっぱり面白かったです。

うん、好き



前作の最後で時空の歪みに飲み込まれてしまったゴーショーグンチーム(※ドクーガチームを含む6人を以後まとめてこう呼びます)。
めでたく6人一緒に別の星に飛ばされるのですが、そこでとっ捕まり、洗脳されて記憶を消されます。

六人は洗脳され、危険動物が収容されているという隔離地区、クーアノアに送りこまれた。そこはまさに、危険動物を閉じ込める檻(ノア)と呼んでよかった。 (P30)

ジューという新たな名前と、救世主と呼ばれるコンピュータ“デノア”の調整員という肩書きを与えられたレミー。
一年間、クーアノアで別人として暮らしていたレミーは、恋人ケダとの結婚を控えて、奇妙な違和感を覚えるようになっていた――。

『その後』でもレミーをメインに話が進んでいましたが、今作もやはり主役はレミー。「私は誰?」「私はレミー」「私の戦いが始まる」「私はケリをつける」といったぐあいに各章のサブタイトルにはすべて「私」が付き、レミーという女性の生き様を描く作品になっています。

しかしレミーちゃん、なかなかひどい目に遭わされるのよね。ジューの恋人、“ケダ”って男がなかなかにタフで、結婚登録を済ませ、ハネムーンに向かう車の中で早速おっぱじめようとするし、ハネムーン先のその名も“ラブパーク”という愛の園でも

「御夫婦は、僅か三日間に四十八回、愛し合われました。これは当パーク開設以来、二組目のタイ記録であります」 (P56-57)

と表彰されちゃうぐらい好きもの。

いや、まぁ、あくまで“ジュー”という別の人格での話だし、クーアノアでは表彰されるようなポジティブなことだし、地球でだって愛し合う新婚カップルの微笑ましい逸話になるかもしれないんだけども、ハネムーンに向かう前からレミーは違和感を感じていて、「愛ってこういうものなの?」と、ケダとの結婚にも乗り気ではなくなっているから……。

しかもこの「愛の記録」、ニュースになっているので、ゴーショーグンチームの他の面々にも知られるわけよ。みんな、最終的には洗脳から醒めて記憶を取り戻すから。

“ジュー”としての行為とはいえ、あんまり知られたくないよね……。もちろんそんなことでレミーへの意識を変える男達ではないけど、首藤さんひどい、って絶対思ってるよ、レミーちゃん。

で。

ラブパークからの帰り、交通事故でケダは死に、レミーは事故の衝撃で自分が何者か、完全に思い出す。そして入院先の病院で禁句を口にして追われる身となる。

クーアノアでの禁句。それは「雨」という言葉

「空から降ってくる水」を「雨」と呼んだ者は「異端者」として狩られる存在になる。そう、その言葉を口にしたとたん、周囲の市民が突然目の色を変え、襲ってくるのです。

どうにか市街区から「禁断地区」へと逃げおおせたレミーはそこで真吾と出会い、カットナルと出会い、キリーと出会い……。

最初から洗脳されずに禁断地区に逃げていた真吾。思いがけず再会し、「あの記録は“ジュー”という、レミーとは別の女のものだ」ときっぱり言ってくれる真吾に「愛」を感じるレミーだったけど、実は真吾にはすでに現地の奥さんがいて……もうすぐ子どもが生まれるところだったりして。

やっぱりレミーちゃん、可哀想な役回りだよなぁ。

すでに洗脳から覚めていたキリー、洗脳されたままだけどいい人(?)になっているカットナル、なぜか元の人格からは一番遠そうな「美術商」になっているケルナグール。
デノアに対するレミーの闘いと、ゴーショーグンチームの面々との再会が非常にうまく組み合わさっていて、どんどん読み進んでしまいます。

あれ?ブンドルは?

もちろん出てきますよ、ふふふ(もったいぶる)。

読者にははじめから姿を現してるブンドル、デノア直属の部下といっていい、思考情報局の局長として、最初からレミーを見守っています。レミーが無事禁断地区へと逃げおおせたのも実はブンドルのおかげ。ふふふふ。

満を持して再会したレミーと二人でのカーチェイス、盛り上がります!

明らかになるデノアの真意。なぜ“雨”が禁句なのか、クーアノアとデノアの歴史。互いに殺し合う“危険動物=人間”を管理し、救うために作られたデノア。けれども管理され、支配され、デノアによって定期的に“クリーンナップ”される世界はやはりディストピアでしかない。

レーザーもメーザーも効かないデノアの本体に撃ち込むのはレミーのマグナム44。『時の異邦人』でもマグナムの弾丸が重要な役を果たすわけですが、すでにここで大きな意味を持ってたんだなぁ。

意識だけでない“肉体”、今ここに重量を持って存在する物質としての“私”の象徴のような気もします、鉛の弾丸。

最後のキリー、ブンドル、真吾との息の合った絶妙な作戦も格好良く。

はぁぁぁぁぁ、好き

打ち捨てられていた宇宙船に乗ってまた別の星を目指すゴーショーグンチーム。冷凍睡眠装置に入る前の会話がまた、洒落てるんですよね。
クーアノアでブランデーの「レミー」の味を再現させようとしていたブンドル。もう一度あのレミーの味を賞味したい、という彼に、ちょっと悪ぶって「私本人じゃダメ?」と問いかけるレミー。
ブンドル様、

「君は他のみんなの大事な酒でもある」 (P243)

と答えるのよね。そして「じゃあ誰も封を切らないの!?」という言葉には、「封を切るのは酒自身だ」(P244)と。
「私を飲んでもいいわよ」というレミーの言葉が、本心からのものではないってわかってるんだよね。レミーとブンドルの距離が縮まっているのは確かだけど、でもデノアに弄ばれ、不本意な“愛の記録”を打ち立ててしまったレミーが、無理をして悪ぶっているのがわかってるから、「まだその時じゃないよ」って優しく拒んでくれるんだ。

テレビ本編でのブンドル様は、やたらに「美しい…!」と嘆息してるただの変な人だったような気もするけど、『狂気の檻』のブン様は完璧。これこそまさに格好いい!

今作からイラストが天野喜孝さんになり、第3章の扉絵のブンドルのイラストがとーっても麗しい♡ 表紙も素敵ですが、残念ながらブンドルとレミーが抱き合うような場面は本文中にはありません(^^;)

さて、冷凍睡眠装置に入った6人が次に目覚めるのはどんな星、どんな世界なのか。
See You Again――


(※時代を感じる帯と栞。ナウシカ以前なのよねぇ)

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小説版『戦国魔神ゴーショーグン』を久しぶりに読み返した

『その後の戦国魔神ゴーショーグン』/首藤剛志

『4度戦国魔神ゴーショーグン 覚醒する密林』/首藤剛志

『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人(エトランゼ)』/首藤剛志

『戦国魔神ゴーショーグン はるか海原の源へ』/首藤剛志

『戦国魔神ゴーショーグン番外篇 幕末豪将軍』/首藤剛志

『戦国魔神ゴーショーグン番外篇2 美しき黄昏のパバーヌ』/首藤剛志