小説版ゴーショーグンを読み返そうプロジェクト、番外編に突入です。この本を含めて残り2冊……! ああ、寂しいなぁ。
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ビッグソウルとやらの意思で宇宙をあちこち彷徨わされているゴーショーグンチーム。今回たどり着いたのはなんと地球。それも幕末の日本
瞬間移動しまくりで「元の地球」を離れてから何年経ったのかもわからない彼らですが、まさか過去の地球に帰ってくることになるとは。

しかもこれまではおおむね6人一緒だったのが(『狂気の檻』の時は違いましたが)、今回は気がつけば1人。
全員バラバラに飛ばされた上、「飛ばされた日付」も少しずつズレていたのです。もちろん、「バラバラ」な以上、そんな奇妙なことになっているとは露知らない6人なのですが……。

まず、1860年の江戸にカットナル登場。医者としての知識で井伊直弼や勝海舟と近づきになります。
続いて1861年、蝦夷地にレミー登場。スギサクという少年と知り合ったレミーは仲間たちの行方を捜して京を目指し、なんと鞍馬天狗に。
1862年、真吾は土佐に出現、坂本竜馬と知己に。
そして1863年、博多に現れたケルナグールは田舎相撲の一座に参加。
キリーは清水港で次郎長に目をかけられ、ブンドルはなんと芹沢鴨暗殺のその場に出現することに。


背表紙のイラストがそれぞれの作中での立場を表していてわかりやすいですね。新選組のだんだら羽織を着たブンドル様、よくお似合いです。

司馬遼太郎をよく読んでいたからすぐに新選組のことがわかるブンドル様、もちろん日本刀での剣術も見事な腕前、沖田総司に頼み込み、新選組に入隊。そこへ現れる不倶戴天の敵、鞍馬天狗!

そう、幕府側の新選組と、勤王志士を守る側の鞍馬天狗は敵同士なんですが……これ、よくできたキャスティングですよねぇ。新選組とか坂本竜馬とか次郎長とかみんな実在の人物ですけど、鞍馬天狗だけはフィクションなわけで、そこは「歴史」とは関係ない、レミーが鞍馬天狗になっちゃったら本物の鞍馬天狗は……ということにはならない。

しかも鞍馬天狗、ピストルも使っちゃう設定だもんね。そもそもフィクションなんだから特徴が合致してる必要もないけど、「鞍馬天狗というキャラクターを知っている人間」には「フフッ」ってなるわけですよ。巧いなぁ、と。

あの時代に大柄な異人の女性が怪しまれずに京を目指すには……というわけでレミーは男装して、覆面もして、「鞍馬天狗」となっていた。でもレミーにとって一番大事なことは仲間を探すことで、向かってきた新選組隊士がブンドルだと気づいた瞬間、目から涙が溢れちゃう。

レミーは、駆け寄って腕の中に飛び込みたい衝動にかられた。 (P154)

それが真吾でもキリーでも、なんならカットナルでも泣いちゃうかもしれないけど、やっぱりブンちゃんだったからこそ……と思っちゃうよね、ふふ。

ところがブンドルの方はレミーに気づいた様子がなく、刀を向けてくる。

ブンドルは、わたしが誰だか分からないの?(中略)わたし、覆面をしていて、男の姿だものね……、分かれというほうが無理なのよね…… (P154)

そうは思うものの、「でも本当の仲間だったらちょっとぐらい姿形が変わってたって分かるはずじゃない!?」とだんだんブンドルに腹が立ってきちゃうレミーちゃん。

もちろん、ブンドルがレミーに気づかないなんてこと、あるはずないのです。新選組の目をはばかって、知らないふりをしているだけ。

耳元でブンドルがフランス語でささやいた。
「どんな姿をしていても、あなたの歩くリズムを……そしてあなたの四十四口径を忘れはしない……」
 (P156)

きゃー、もう、ブンちゃんったら///

その後無事再会しなおした二人は互いを見つめ合い。

いまさらながらにお互い、飽きない顔だなと思った。
これからも飽きないでいたいと思った。
月の光に浮かぶ二人の影が、やがてゆっくりと近づいていった。
 (P160)

きゃーきゃーきゃー///

元は敵同士だったのにねぇ。ブンドルとレミーの「仲間以上恋人未満」みたいな関係性、ほんといいよね、好き。

残りのメンバーともめでたく再会を果たし、幕末のスターたちをも巻き込んでドクーガ(いるのですよ、幕末にもドクーガが!)と戦うことに。

ドクーガが存在するからにはゴーショーグンも存在します。超超久しぶりに、「ゴーショーグン」という名のロボットも登場し、「ゴーショーグン、発進!」という真吾の掛け声が響く。
もちろんもともとのあの「ビムラーエネルギーで動くゴーショーグン」ではなく、張りぼて的なロボットなのですが、それでもなんか、嬉しいよね。ずっと「ゴーショーグンなしのゴーショーグン」で来てたのが、一応、ちゃんと「ゴーショーグン」が登場するんだから。

幕末のスターたちと事件をうまくゴーショーグンチームと絡めてあって、スピンオフとしてほんとに楽しく、よくできてる。

あとがきによると、「もしもゴーショーグンの面々が幕末に現れたら」というアイディアはテレビシリーズ放送中からあったそうです。

うん、「戦国」だし「将軍」だし、むしろテレビ本編に時代劇要素がいっさいなかったことの方が謎だったもんね。何がどう戦国の魔神だったのか(笑)。

あとがきには、

で、もって、ゴーショーグンはまだまだ続きます。
本編の続編は「鏡の国のゴーショーグン」
そして、番外編の続篇は、(中略)「美しき黄昏のパバーヌ」。
 (P282)

という予告もあります。
番外編の方は実際に出版されましたが、「鏡の国」は結局世に出ることがありませんでした。どんなお話だったのかなぁ。「鏡の国のアリス」をモチーフにしていたのでしょうか。読んでみたかったな……。

この本の刊行は1988年の5月。前作にあたる『はるか海原の源へ』が1986年の2月ですから、少し間が空いています。『永遠のフィレーナ』の方を執筆したり、病気で入院されたりということもあったよう。

首藤さん、お忙しい中、この番外編を書いてくださって、本当にありがとうございました。21世紀になって20年経っても、まだまだゴーショーグン、楽しませていただいていますよ。


ところで。
作中にはちょっとした「参考年表」が付されているのですが、その中にクリミア戦争の記述があり。
レミーが蝦夷地に出現する7年前、1854年にクリミア戦争は勃発しているんですよね。ちなみにペリー来航はその前年。1861年の項には「ロシア、対馬に来て占拠を企てる」とあったり。
なんか、たまたまなんだけど――そしてこの作品にロシアはほぼ関係ないんだけど――、ドキッとしてしまいました。


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